コラージュ(コンラッド東京)/汐留


大暴れクラッシャー系料理人として名を馳せたゴードン・ラムゼイ。しかし彼の料理はそのキャラクターとは正反対であり繊細かつ華やかで、すごく好きなレストランのうちのひとつです。
その日本支店がコンラッド東京にあったのですが惜しくも閉店。日本を任されていたシェフはその地に残り、現在の店名で営業を続けていたのですが、2016年にはついに彼までもコンラッドを去ってしまい。もはやゴードン・ラムゼイとはまるで関係の無いお店になってしまいました。
お隣のチャイナブルーと同様に恐ろしく照明が暗い(写真は公式ウェブサイトより)。健全なフレンチレストランなんだから、もう少し明るくしてもいいと思うのだけれど。夜景も悪くはないのですが、他のビルとあまりに近接しており人の顔まで視認できるレベルなのでロマンティックさにはやや欠けます。
テーブルセッティングはシンプル。清潔でパリっとしたクロス。やはりフランス料理はこういう雰囲気がいいですね。
こちらがボトルで18,000円、グラスだと2,800円。ワインの値付けが市価の3~4倍と法外であり思わず妻と顔を見合わせる。同じテタンジェ推しの店とは思えない。
アミューズはエクレア生地にチーズやコショウ、ベーコンなどが組み込まれておりカルボナーラ的な味わいを奏でます。生地が焼き置きなのかヘナヘナ丸なのは減点。例えアミューズであっても焼きたてで臨んで欲しいところ。
豆腐とカリフラワーのムースにオリーブオイル。外形はカンテサンスのアレにとても良く似ていますが、味そのものは当店に軍配が上がります。深みのある豆腐のコクにカリフラワーの土臭さ。地味に好きな一皿でした。

それにしても白い皿に白い料理はピントが合い辛く写真が難しい。パナウェーブ研究所の専属カメラマンの苦悩が手に取るようにわかります。
パン類は特に特長はなく無難と言ったところ。これ以外に2種類提供したのですが、いずれも印象に残りませんでした。
バターの味も一般的。
手前はフォアグラのテリーヌ。密度の高い滑らかなフォアグラの味わいに悶絶。黒スグリやハーブの使い方も見事です。右のフレンチトーストも屈託の無い味わいで思わず笑みがこぼれます。右奥のモンブランや左のクリ、ヘーゼルナッツなど豊かな素材の使い方に大満足。

サービスも振り付け師がいるのではないかと思わせるほど統率の取れた動きできちんとしています。もう少し遊び心がある懐に飛び込むようなホスピタリティがあっても良さそうですが、ホテルという業態では難しい要求かもしれません。
ペアリング1杯目はまさかの酒精強化ワイン。なるほどフォアグラのテリーヌやモンブランの甘さにはベストマッチではあるのですが、いきなり甘ったるいものから始まるストーリーは個人的にはあまり好きじゃありませんでした。
スープ・ド・ポワソン。ヌキテパもかくやと思わせる仕上がりにご満悦。舌平目のソテーもスープの具材としては中々のポーションであり嬉しくなります。イカスミのパンにはグリュイエールチーズでコクを添加。卵黄のソースも艶っぽく、本日一番のお皿でした。
合わせるワインはアコンカグアのソービニョンブラン。梨の香りが満開で、とても清澄な白ワインでした。ワインそのものには罪は無いのですが、スープ・ド・ポワソンの暴力的な旨味に敵うのかと問われると疑問。
金目鯛の低温調理に白菜のソース。カラスミパウダーを散らします。これは全然美味しくありません。脈絡の無い圧倒的なバターの強みが全ての食材の美点をなぎ倒し無力化します。あのカラスミでさえ大量のバターの前には影を潜める。金目鯛は辛うじてウロコが香り高く良かったけれど、身の味はバターしかしませんでした。
イスラエルのシャルドネ。香りが控え目な割に、味わいは 向かうところ敵なしの樽感です。なるほど先のバターに対抗するに相応しい液体でしょう。そうそう、ワインはペアリングでお願いしているのですが、そのセレクションは中々に多種多様で面白いです。
メインは鳩のロースト。ガルニチュール(付け合わせ)はニンジンとキンカンです。鳩が文句なしに美味しい。鳩を食べたことが無い人に「これが鳩だよ」と最初に食べさせたい正攻法の鳩料理でした。

ニンジンはスライスが厚くやや甘ったるく感じるのが残念。他方、キンカンは情熱を感じるカットであり丁度良かったです。

ところで前夜のスガラボと同様、メイン料理がここまで美味しいのは嬉しいですね。満腹を感じ始めたころにここまで旨いと思わせるのはさすがコンラッドのメインダイニング。
赤はNZあたりを合わせて来るかなとカマをかけていたのですが、直球勝負のブルゴーニュでした。なるほど最後は定石通り。鳩を邪魔せず優しく寄り添い見事な組み合わせでした。
プレデザートが面白い。米をすり潰してもったりとしたペースト状(?)にしたもの。日本酒のムース(?)やメロンのグラニテも付与されており、興味深い新食感です。新食感って、新食感と言いながら全然新食感じゃないことが多いですが、こちらは紛う方なき新食感でした。
山椒のアイスに洋梨のコンポート。チョコケーキ(?)にチョコソース。山椒のアイスの爽快感と物珍しさ。フランスあたりでデビューすればオリコン初登場1位は固い。一方で、チョコソースの意図はよくわかりませんでした。ぬるいんです。ガンガンに熱くして異なる温度帯を楽しませるか、いっそのこと冷やしてしまえばいいのに。
デザートワインは程よい甘さが心地よい。
小菓子が抜群に美味しい。柚子の香りが漂うモナカにイチゴのわらびもち・小豆のパウダー、抹茶のボンボンショコラです。手の込んだフランス料理屋でも最後は焼き菓子でお茶を濁すお店が多い中、ここまで創意工夫のあるミニャルディーズの提供にはコンラッドの矜持を感じました。
折り目正しいコーヒーを飲んでごちそうさまでした。

美味しいお店です。ただし、ちょっとシェフの顔が見えないというか、創造性やオリジナリティに満ち溢れているかというと少し違う。概して外さない料理でした。まあホテルのメインダイニングなのでこれぐらいが丁度良いのでしょう。

残念なのはワインの値付け。ここさえ何とかしてくれた普段使いするのになあ。そういう意味で、記念日使いのゲストが多いです。割高なワインも愛なら仕方ないといったところでしょう。ちなみに我々も一年に一度の比翼連理を祝う会であり、全体として満足はしているものの、酒が高すぎて次回を深謀遠慮しています。また是非お邪魔したいんですけどね。


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