イル プレージョ(il Pregio)/代々木上原

「ねえ、今度のランチ、イルプレージョとシャントレル、どっちがいい?」どちらも興味あるから任せるよ、と返す。数分後「イルプレージョにした!ただ、どうしても食べたい料理があったから、ランチだけど夜コースお願いしといたよ」ランチだけど夜コースの注文。実に玄人筋である。
さて当店の岩坪滋シェフは広尾アクアパッツァ出身。2003年~2006年までイタリアでイタリア全土に渡って研鑽を積み、帰国後いくつかのレストランを経て2012年に当店をオープン。ミシュラン1ツ星です。
グラスのフランチャコルタは1,800円と割高。その他、ワインペアリングなどもありましたがランチで飲むにはギョッっとする価格設定でした。
アミューズ。奥は新玉葱のエキスを膜に閉じ込め球状に仕立てたもの。口に含むと大地の旨味と甘味が大爆発。右は北海道産のモッツァレッラでシンプルに美味。左はアンチョビ風味を効かせながら生地を焼いたもので、美味しいのですが口の中の水分がめっちゃ持っていかれます。
山芋のゼッポレと桜海老。ゼッポレとはイタリアの郷土料理で、ピザ生地を一口サイズに丸め油で揚げたスナック。滑らかな山芋がツルリと口の中に忍び込む。海老の風味や海苔の香りがスポーティな味わい。
フォカッチャなどパン類は標準的。先週お邪魔したオストゥのほうが記憶に残った気がします。
藁で燻した初鰹にパッションフルーツとマンゴーのソース、つけあわせにはアスパラソバージュとからし菜です。

カツオには藁で燻したモックモクな香りがしっかりと塗布されており食欲をそそります。味わいも健康的な鉄分を感じグッド。ちなみにパッションフルーツは新潟産であり、温泉の地熱を利用した何かで栽培しているそうな。
「これこれ、これがどうしても食べたかったの」と目を輝かせる彼女。「カボチャとフォアグラ 濃厚に軽やかに」という料理であり、当店のスペシャリテです。

なるほど素材はわかりやすい味覚ながら、実に巧妙に設計された一皿です。まず、フォアグラの質が実に高い。滑らかで官能的な舌触りに中毒性があり、濃厚な肝の風味がクセになる。エスプーマされたカボチャにローズマリーの泡も面白い試み。
山菜のタヤリン。卵入りの手打ち麺が濃厚なチーズの味覚を身に纏い、万人ウケする味わいです。山菜の苦味が大人の味を演出し、心に残ったパスタ料理でした。
赤ワインをグラスで頂きます。後から明細を見ると1杯2,000円近い請求だったので、イタリア料理屋としては強気の価格設定です。
2皿目のパスタはカヴァティエッリ。プーリア州の手打ちパスタであり、モチモチとした食感が実に美味しい。全体としてシイタケの香りが支配的であり、濃厚な鴨の旨味に思わず唸る。炭水化物というよりも酒のツマミという印象が強い興味深い一皿でした。
メインは北海道産仔牛のコトレッタ。コトレッタとは所謂カツレツを指すのですが、当店のそれはパン粉を分離しトマトの風味を付与しパラパラと振りかける再構築系です。仔牛に雑味がなく清澄な味わいであり、メインだというのにスイスイと軽やかに胃袋に収まります。トマトの風味も清々しく、加えてグリーンペッパーの爽やかさも心地よい。食後感が素晴らしい一皿でした。
口直しにセロリのアイスにリコッタチーズのムース(?)。連れはセロリが苦手なのですが、「嫌いな食材の割にはトップクラスに美味しい」とのこと。
思いがけず華やかなプレートが登場。「いつもありがとね。今日は感謝のしるし」と片目を瞑る彼女。全く予想だにしていなかった突然の出来事に味覚がついて来ず、味わいについては健忘症状態ですスミマセン。後からメニューを見返すと「ダマスクローズコンポートした枇杷 そのジュレ グラッパのジェラート・檸檬のグラニテ」と記載されていました。
行儀正しいエスプレッソでごちそうさまでした。

さっきのデザートプレート、ありがとう、それにしても、突然どうしたんだい?と、連れに尋ねる。「素直にあなたに感謝してるのよ。上手く言えないんだけど、あなたと付き合うようになってから全てが好転してる。すごく前向きで、一緒にいて楽しい。得るものが多い。まさにニューリッチ。やっぱ遅くまで残業して焼鳥屋で愚痴ってるリーマンなんかじゃダメだわ」

あなたは私の太陽よ、と優しく微笑む彼女。畢竟、人と誠実に付き合うとは、こういうことである。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。