ラ メゾン ドゥ グラシアニ(la Maison de GRACIANI )/北野(神戸)

重要伝統的建造物保存地区に選定された神戸は北野の街。百余年前、とあるフランス人の一家がこの地に住まいに定めました。貿易を生業とした一家が、故郷フランスの建築をそのまま再現したのがここ、グラシアニ邸です。
白亜の洋館に一歩足を踏み入れると、お酒に囲まれたウェイティングスペースが広がります。ガラス窓からは厨房の様子をチラリ。鷦鷯進シェフはヨーロッパ各地で約20年の経験を積み、スイスにある5スターホテルのレストラン「シュバル ブラン」の3ツ星獲得に貢献した実力派。
ダイニングは2階。ヨーロッパをどこでもドアしたような気持ちの良い空間であり、北野の街のどの異人館よりも清潔に保たれているように見受けられました。
ワインの値付けは結構高い。泡のボトルはどれも1万円を優雅に超えてきます。
自家製パンがバカうま。神戸はパン屋のレベルが高いことで有名ですが、それでも外注に頼ること無く自力でこのクオリティにまで高めるのは見事です。
バターは2種で、左が兵庫の海苔を練り込んだもの、右はノルマンディー地方の発酵バター。見た目の通り、海苔バターがグっと来る美味しさです。磯の香りに程よい塩気。料理はまだ届いていないのに、パンをひとつ食べきってしまいました。
アミューズの美しさに狂喜乱舞。ここまで手の込んだ最初の一口は珍しい。 ホタルイカと菜の花を主軸とし、チーズのクランブルでコクを与える。ホタルイカの大人の苦味についつい泡へと手が伸びる。
春キャベツのスープ。中央は芽キャベツにベーコンなどが組み込まれています。美味しいのですが、斬新な何かがあるというわけではなく、ビストロでも食べれるかなという印象。
前菜にバロティーヌ。バロティーヌとは骨を除いて広げた鳥肉(鶏に限らず)にミンチ肉やフォアグラなどを詰め込んだものです。ガランティーヌと呼ばれる場合もあります。肉とは思えぬほどクリアな味わいに、ニンジンの逞しい味覚がマッチします。酸味主体のソースも見事であり、まさに繊細といった一皿でした。
前菜、続く。こちらはホタテです。大ぶりで質の良いホタテは、このようにシンプルに火を通すぐらいがちょうど良い。食用タンポポの茎の食感が面白く、なめらかなジャガイモのピュレもグッドです。
メインはキアラ。もちろんきぃちゃん(佐藤妃星)のことではなく、キハタ、アオハタという白身魚です。それほど高級魚というわけではありませんが、クエのような上品で淡白な脂を楽しむことができる費用対効果の高い魚です。

この個体は非常に筋肉質でガシガシとした歯ごたえで、ややもすると先の鶏肉よりも肉らしい食べごたえ。付け合せの誂えも実に丁寧であり、上手く設計された料理だなという印象。個人的にはリゾットを敷いてソースと絡めて食べたかった。
デザートの前にジャスミン茶の香りを立たせて気分を切り替えます。
液状のフランボワーズに液体窒素を混ぜ込み、ギャルソンがその場で一皿を作り上げる。
シャーベットのようなものができるのかと思いきや、思いのほか滑らかで、乳児の素肌のような舌触りです。味には凝縮感があり、素朴ならが実に美味しい一皿でした。
メインのデザートは文旦特集。果実をそのままに、シャーベットに、クリームにと、素材の長所を余すこと無く楽しみます。中央のグルグルはチョコレートムース。備え付けのブラウニーと共に万人受けする味覚です。
ミニャルディーズはお好きなものをお好きなだけ。色々頂きましたが、ショコラはカカオというよりは砂糖の味覚が支配的であり好きなタイプではありません。他方、焼菓子は品の良い甘さに逞しい生地が弾け実に美味しかった。
折り目正しいコーヒーを頂いてご馳走様でした。

我々はワインを飲んだのでそれなりの支払額になりましたが、料理だけだと4,800円です。ううむ、これは見事な費用対効果である。北野地区の異人館を全て巡れば5,000円近く要することを考えると、これだけ食べてこの値段は実にリーズナブル。ワインの値付けが結構高いので、まずはランチからどうぞ。


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