なかもと/中州川端(福岡)

櫛田神社近く、「かろのうろん」裏の細い路地を進んだ場所にある「なかもと」。「ファストフードだった江戸前寿司の屋台を現代風にアレンジ」とのことで、高級鮨を立ち食いという福岡では異色のコンセプトが大受けし、あれよあれよという間に人気店に。ちなみにこのあたりには「櫛田神社前駅」という名称で七隈線の新駅が開業予定ですこれ豆な。
店内は僅か3.5坪とマジで狭いのですが、店内に無駄なものは一切無く常時断捨離状態なので、不思議と狭さを感じさせません。現在はハイチェアも入れ5-6人ほどが着席でき、18時一斉スタートなので、ゲスト内に特有の一体感が生まれます。武蔵小山「ブルペン(BULLPEN)」のような雰囲気ですね。

中本優成シェフは長崎出身。広島・名古屋を経て福岡で腕を磨き、2019年に当店を開業。気の良いあんちゃん、何ならカフェの人気店員といった親しみやすさで、東京のアホい鮨屋みたいな暑苦しさは微塵も感じさせません。
ノーマルなビールは千円を切り、広島のクラフトビールは千円強。日本酒なども1合千円かそこらなので、気持ちよく酔えます。魚介類は島根県産のものが多く(信頼できる知り合いがいるらしい)、お酒も島根のものが多いのが興味深い。
シェフが地元で採ってきたテングサで作った寒天。酢の酸味がキリっときいて爽やかです。この「僕がどこそこで採ってきた」「実家の両親に作ってもらった」というスタイルもいいですね。
「博多」という、博多織をイメージしたミルフィーユ状態の郷土料理。用いるお魚はヤイトハタ。一見するとフランス料理のようです。
ゴハンが炊き上がりました。まさに目の前のコンロでシュウシュウと進捗していたもので、すぐに寿司桶にあけられシャリが切られていきます。いいですねえ、このライブ感。おこげの部分はちろっと醤油をたらしておつまみに。
ソウダガツオの塩たたき。瑞々しい口当たりながら決してダレることがなく、カツオの旨味がギュっと詰まった逸品です。
お椀は牡丹鱧に自家製のカラスミにじゅんさい。ガツンとしたサイズ感のハモに、これまたガツンとカラスミをトッピング。椀物ながら日本酒が進みます。
若鮎は琵琶湖から。いわゆる青い風味のする鮎ではなく、コッテリと肉っぽい風味を感じる個体です。旨味があって、こちらはビールにピッタリです。
タコの桜煮。タコの旨味は当然のこと、調味も強く日本酒が恐るべきスピードで減っていきます。先のカラスミにせよ、店主は酒飲みに違いない。
お肉も出て、なんと岡山の蔓草牛。年間十数頭しか生産されない激レア牛であり、東京だと「ボニュ(Bon.nu)」などで楽しむことができます。これはもう、文句なしに美味しいですね。ニンニクの風味がきいた醤油ダレをちょろっとかけるだけでバリ旨い。正直なところ、「ボニュ(Bon.nu)」で食べたものよりもシンプルで美味しく感じました。
天然の岩牡蠣「夏輝」のみぞれ和え。ジューシーでミルキー、魔物的な美味しさ。みぞれの部分には少々シャリを混ぜ込んでおり、仄かに甘味が増してナイスです。
にぎりに入ります。まずはガリが供されるのですが、何ともフレッシュでナシのように淡い味わい。実はこれ、ショウガではなく「ヤーコン」というキク科の野菜だそうです。またの名を「アンデスポテト」と呼ぶようですが、いわゆるイモのデンプン的な甘味は無く、シャリシャリと繊維を感じる味わいでした。
剣先イカ。透き通るような味わいなのですが、中には自家製のゴマが潜んでおり、何とも香ばしい味覚にアイデア賞。
キスを昆布締めで。淡い味わいであまり生で食べることはありませんが、なるほど昆布締めにしてしまえば鮨ダネとしてもいけますな。
アジ。何か意図があってのことでしょうが、妙にサイズが小さい。味は良いだけにもっと量を食べたかった。
天然トラフグ。関東では中々お目にかかることのできない食材。しっとりコリコリとした口当たりであり深みのある味わい。
イサキ。皮目を炭で炙った香りが食欲を刺激します。
境港の天然の本マグロ。サッカー少年のように溌剌とした味わいであり、マグロは何も北国の専売特許ではないと思わせてくれる逸品です。
先のマグロの大トロの部分を手巻きに。ネギではなくハーブを組み込むとは踏み込んでくるなあ。
ノドグロは豪快に炙って丼スタイルで頂きます。脂つよつよの個体であり、何ともジューシーなひと品でした。
エビにつき、写真では見えづらいのですがシャリにはおぼろ状態にしたものが組み込まれており、まさに全身えびちゃんでコンサバ・フェミニンな味わいです。
バフンウニは北海道から。ドロリとした熟女な味わいであり実に官能的。たっぷり巻かれた海苔の風味も堪りません。
穴子は今にも崩れ落ちそうなほどヤワ目に調味されており手づかみ必至。口に含んだ瞬間に全てがバラける独特の食感です。
お椀は本日の魚介類の美味しいところを凝縮した味わい。単なる液体なのにどうしてこんなに美味しいのだろう。科学では解明できない味わいの典型例です。
玉子はスフレやブリオッシュのように膨れ上がった形態。しっとりカステラ風味はよく見かけますが、ここまで膨らませたエアリーなギョクは珍しいかもしれません。
ひと口サイズの甘味でフィニッシュ。ごちそうさまでした。お食事のコースが1.5万円で、そこそこ飲んでお会計は2万円でお釣りが来ました。うひょー、これは見事な費用対効果ですね。こういった素晴らしい食体験を堪能すると、都心の鮨屋はいかに家賃と人件費を食べているのかが良くわかります。

お金の話はさておき、酒のツマミがたっぷりにお肉料理まで出すという自由自在のコース仕立て。単に鮨を愉しむだけでなく、色んな旨いもんを総合的に楽しむ鮨割烹。席数も少ないことですし、東京の人にバレたら一気に予約が取れないお店になるかもしれません。オススメです。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。