ドンブラボー(Don Bravo)/国領(調布市)

調布市の国領というマニアックな地に食べログで3.93(2021年4月)でブロンズメダル獲得という実力店があります。その名は「ドンブラボー(Don Bravo)」。都心のグルマンはもちろんのこと、同業者の中でも大変に評判の良いお店です。
店内はスタイリッシュなピザ屋という印象(写真は公式ウェブサイトより)。クロスは張っておらず客単価が2万円近い店としてはカジュアルです。ただしランチタイムは2~3千円のピザ屋なので、そちらに照準を合わせているのかもしれません。

平雅一シェフは広尾「アッカ」で腕を磨いたのち渡伊。各地の星付きレストランで腕を磨き、帰国後に広尾「TACUBO(タクボ)」などで腕をふるったのち、2012年に当店を開業。
酒はかなり高い。ワインのペアリングはコース料理の代金と同じ1.1万円であり、ボトルで注文しても1万円前後から始まります。これは相当ワインに理解のあるゲストでしか手を出しづらいでしょう。ちなみにソムリエはZeebraのようなジャージとタトゥーを身にまとっており異彩を放っています。
アミューズはブルスケッタ。おおー、スタイリッシュ。こんなにオシャレなブルスケッタは見たことがありません。外観だけでなく、中にはサバやブッラータなどが組み込まれており味も大変良い。なのですが、この最初の一口が出るまでに入店から30分以上を要しており何でやねん。連れも「別に満席ってわけじゃないのに何でこんなに遅いんだろうね」と困り顔。
空豆はチーズ風味のクリーミーなソースをたっぷりと。窯のあるレストランではバリっと焼いて塩とオリーブオイルをぶっかけて素材!みたいな料理が多いのですが、当店はきちんとソースまで設計されておりフランス料理的です。

ところでこの料理が出てきたのは入店から46分を経過した時であり、いくらなんでもテンポが悪すぎます。そろそろ苦情を申し入れようと手近な従業員に目を向けたその時、スローテンポな理由が判明しました。常連客の遅刻です。私の予約時間が恐らく同じで同時スタートを目論んでいたところ、当該常連客が大遅刻をぶちかましたため、結果的に我々にしわ寄せが来たという恰好です。
生地を焼いたものにふんわりと薄切りの生ハムをトッピング。生ハムの脂がちょうど溶ける頃合いで美味。泡が進みます。

さて、我々がこの皿に到達するまでに53分を要しているというのに、常連客は入店後10分で全て出揃い、我々と同じペースに並びました。待たされた我々はとても可哀相ですが、常連客も常連客でこのハイペースでは気の毒です。
カツオは表面をバリっと炙ったカツオのたたきスタイル。多種多様なハーブにソースと、やはりイタリア料理としては味が多彩でありセンスを感じます。
ホワイトアスパラガスもオランデージソースを主体としつつもカラスミやべったら漬けを忍ばせたりと遊び心があり、それでいて正鵠を射る味わいです。
パスタの主な素材はフキノトウなのですが、太目のグニグニした麺が滅法旨い。味付けにはコーレーグース(島とうがらしを泡盛に漬け込んだ沖縄県の調味料)を起用しており、沖縄そばをイメージした一皿。私は半身を沖縄で過ごしているので沖縄そばについては少しうるさいつもりですが、沖縄で食べるどの沖縄そばよりも美味しかった。
メインは鴨。低温調理のシットリした鴨肉にレバーのパテを厚めに塗り、味の濃いお野菜と共に頂きます。旨い。滑らかな口当たりの正肉に濃密なレバーの風味が染みわたり、風味に厚みのある肉料理でした。
ここでピッツァ。普通に美味しいのですが、いわゆるランチで千円かそこらで食べることのできるピッツァの名店とそう変わらない味わいです。コースの中のひとつの料理が専門店に迫る味わいという偉業は認めつつも、限りある胃袋を前にして今ここでピッツァを食べる必要があるのかと考え込んでしまいました。逆説的ですが、それほどまでにシェフのこれまでの料理が素晴らしかったという意味です。
デザートはセージのアイスクリームであり、日向夏の熱を使わないジャム(どういうこと?)の大人の苦みと新鮮なオリーブオイルの香りとの調和が素晴らしい。見た目は真っ白の何でもないデザートですが卓越したセンスを感じる味覚です。

お会計はひとりあたり2万円弱。酒は高いですがコース料理は1.1万円であり、料理だけを考えるとかなりの費用対効果です。料理は難解で重層的な味付けが多く、パスタの出るタイミングは終盤で、〆にピッツァまで出るなどイタリア料理店としてはかなり異色な存在。

シェフの料理人としての才覚は認めるものの、常連贔屓が目に余るなど客単価2万円の飲食店としては首を傾げる部分が多々あり、色々と勿体なく感じました。才能の無駄遣いは人類にとって社会的損失である。

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