白金 酉玉 本館(とりたま)/広尾

白金高輪・白金台・広尾・恵比寿のちょうど中心にある陸の孤島「酉玉(とりたま)」。希少部位がウリの焼鳥屋であり、ミシュランガイドでもビブグルマン(安旨店)として掲載されています。武蔵小山「酉玄(とりげん)」の修業元であり、「酉」がつく焼鳥屋の総本山です。
当日予約のラストギリイチで入れました。それでも21時過ぎにはポツポツと空席が出始めていたので、遅い時間であればフリーでも入れるかもしれません。店内はカウンターのみで20席。焼き台はひとつであり当然にボトルネック。テンポはすこぶる悪い。
マスターズドリームは600円と、店の雰囲気を考えればまあこんなもんでしょう。店員の態度はあまり良くなく、およそ歓迎されているという空気は1ミリも感じ取ることはできませんでした。

「誰にも言ってないんだけど」彼女は裏社会の秘密情報を伝えるかのように声をひそめる。「実は子供を産んできたんだよね」
お通し(?)に大根おろしと
野菜スティック。大根おろしはマイルドな味わいでチョロリと醤油をたらすと良い箸休め。野菜スティックはまあ、野菜を切っただけです。

「無痛分娩でお願いしてたんだけど、あんなの嘘ね。少なくともあたしには全然効かなかった。アソコはずっと痛いし。血はずっと止まらないし。おっぱいは大吟醸みたいだし」おっぱいは大吟醸、意味が解らず私はひとり繰り返す。
ハツ。コリっとした食感が美味。

「産後は本当に辛くって。産む前は『すっぴんごめんなさい』とかいって自撮りしてインスタに上げるつもりだったのに、もうそれどころじゃないの。自分がとても人にお見せできる状態じゃなくって、誰にも言えなかった。そしたらね、助産師さんにすごく心配されたわけ。『母体はともかく誰もお見舞いに来ないけど、人間関係は大丈夫か?』って」
トウガラシ。調味料ではなく部位の名前。ささみっぽい食感。

「子供は今でこそ可愛いけど、産まれた瞬間はすげえブサイクで、全然好きになれなかったなあ。あたしはとんでもない化け物をこの世に産み落としてしまったかもしれない、って、世の中に対して謝罪を重ねていたのよ」
ゲンコツ。膝の軟骨部分であり、コリコリとした歯ごたえを楽しみます。

「で、ホラ、あたしって普通の会社員じゃないでしょ?産休育休なんてもちろんなくて、産んだら即時で労働開始なのよ」と、会社を経営する彼女。
ガツ。鶏の胃袋であり、なるほど胃袋つながりでチャンジャのような食感です。

「保育園いくらかかってると思う?17万円よ。17万円。まあ、無認可の高級保育園だからママに対するケアは完璧で、価格を除けば何も不満はないんだけれど」
砂肝の周りの肉。ゴリゴリとした食感。肉そのものの味は薄く、しょっぱかった。

「でも、さすがに17万円は無いなと思って、最近、家の近所の区立保育園に移ったのね」聞けば彼女は満点の首席合格だったらしいです。
親鳥。これはおいしいですねえ。タフでマッチョな歯ざわりであり、肉そのものの味わいもしっかり。本日一番の1本です。
芽キャベツ。芽キャベツを焼いただけであり、芽キャベツの味がします。三田「嘉とう」の芽キャベツとは全然レベルが違う。。。
あずき。脾臓のことであり、レバーのような食感。

「あたしみたいにガチで働いてるお母さんはひとりもいないの。みーんな時短だの何だのって18時までにはお迎えに行けるみたい。で、最終の19:30まで預けてるのはあたしだけで『お子さんが可哀想なので、なるべく早く迎えに来てあげてくださいね』とか毎日嫌味言われるのよ?ろくでもない母親だ、みたいな目つきで!ああ!奴らの公民権を停止してやりたい!」彼女は恨み骨髄に徹して言う。
きんちゃく。直腸のことであり、フレンチにおけるアンドゥイエットのような匂い。はっきりいって臭いです。その香りを消去するために滅多矢鱈にスパイスがふりかけられており死ぬほどしょっぱかった。
ニンニクの芽。色合いこそ面白いですが、味わいはニンニクの芽そのものです。

「パブリックな保育園はオムツは毎日手で持ってこいだのエプロンは手作りしろだの非合理なルールが異常に多いの。そういうことができないから保育園に預けてるんでしょ!?少子化対策だの女性の社会進出だの言ってる割に、この仕打ちっておかしくない?」確かに彼女が活躍できない状況は、日本社会にとっても大きな損失である。
豚カルビ。妙に脂が多く肉というよりも脂です。美味しくない。

彼女の話を総合すると、オッサンたちがルールを決めているからワーママにとってズレた結果になっているだけでなく、甲斐甲斐しく夫の付属物になることを選んだ女性たちの姿勢にも因果関係があるように思えてきました。
厚揚げ。先の豚カルビの後に食べると神の恵みに感じましたが、厚揚げは厚揚げです。

もちろん彼女たちの性格が悪いわけでは決してなく、遺伝子レベルで「メスとはこうである」とOSにプリインストールされているのでしょう。全てはゴーストが囁いているのだ。
はごいた。尾羽を動かす薄い筋肉。ささみのようにサッパリとした味わいなのですが、なぜ最後にコレを出すのかは意図が不明です。以上が串12本の「白金」コースです。
追加で親子丼を注文すると、鶏スープがついてきます。これは美味しいですね。博多の水炊きにおける最初の1杯のような味覚です。
親子丼はごく普通。家庭料理の延長であり、私でも作れます。
希少部位で名を馳せた店ですが、希少部位だからといって美味しいとは限らないとの教訓を与えてくれるお店です。先にも述べましたが接客も微妙。目の前にいる客を待たせて電話対応を優先する神経がわからない。結構食べて7千円弱だったので、まあ、こんなもんと言えばこんなもんかもしれません。ご近所のかた限定でどうぞ。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。

それほど焼鳥に詳しいつもりは無いのですが、私のコメントが掲載されています。食べログ3.5以上の選び抜かれた名店を選抜し、お店の料理人の考えを含めて上手に整理された一冊。

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