鮨みうら/麻布十番

2019年2月にオープンした「鮨みうら」。網代公園近くの怪しげな雑居ビルの4階に位置します。日祝営業と十番ではかなり貴重な存在です。
三浦健太シェフは赤坂「菊乃井」で13年、阿佐ヶ谷と日比谷の「鮨なんば」で1年修業したのちに、鮨屋として独立しました。「でも普通の鮨屋だったら埋没しちゃうんで、僕は日本料理に寄せています」と照れ臭そうに話す店主。彼は自慢や悪口を言わない気の良いあんちゃんです。
ドリンクメニューの提示は特に無かったのですが、ラストプライスから逆算するにビール1,000円、日本酒1,500円前後といったところでしょう。
始まりはシジミとアオサのスープ。シジミの風味が凝縮されており、アオサの磯の香りのアクセントも楽しい。
甘海老とノドグロ。甘海老をトップを飾るのはその味噌。ネトネトとした食感が酒を呼ぶ。ノドグロの脂は少しも嫌らしくなく丁度良い塩梅です。
イワシとミョウガ、大葉などを海苔で巻いたもの。見た目の通り美味しいのですが、やや水っぽさが残りあともうひと手間という印象です。
いくら醤油漬け。粒のハッキリした綺麗なイクラ。調味は控えめであり、なるほど酢飯や軍艦にせずツマミで食べるにちょうど良いです。
万願寺唐辛子とおじゃことおかかの炒め物。これはこのまま白米が欲しくなる味わい。日本料理店の集団を飾る小鉢のようなテイストです。
ハモにゴハンを詰めてお椀にしました。周りを彩る松茸の量がたまらん。終盤、ゴハンがホロホロと解けていき雑炊のように変化していくのが面白かった。
伝助穴子。市場によく流通する真穴子の3~4倍もある特大の穴子であり、かつては大きすぎて使い物にならない、とすら言われていたものです。肉厚で脂のノリが良く、思い切りの良い火入れでバリっと頂く。鰻が無ければ穴子を食べればいいじゃない。
にぎりに入ります。春子鯛昆布締め。わたしの乳首のような色合いであり、その見た目通り清澄な味わい。今後の展開に期待を持たせる1カンでした。
ガリは極太の極厚でざっくりいきます。完全に私のタイプであり、まるでひとつの料理のようにエンドレスで食べ続けてしまいました。
スミイカ。こちらも先の春子鯛に聞き続き、まっしろしろのぴゅあっぴゅあな味わい。いいですねこういうクレッシェンドに進んでいくストーリー。
マグロの赤身は大間産。菊乃井時代から付き合いがある豊洲「樋長(ひちょう)」から取っているらしく、王道中の王道といった味わいです。
中トロへと続きます。なるほど店主は「味の薄いものから濃いものへ、脂の薄いものから濃いものへ」を体現する芸風。
大トロ。脂の豊かさはもちろんですが、マグロ由来の強い酸味が印象的。シャリの酸味と混然一体となり喉の奥へと吸い込まれていく。余韻が実に長く名残惜しい。「ねえ、あと少しだけそばにいてよ。そのあいだ、嘘でもいいから好きって言って」と、捨てた女にすがられる妄想をしました。
ホッキ貝。肉厚で柔らかく、羽毛布団のような食感です。これは、旨い。ホッキ貝は好き嫌いが分かれる食材ですが、世の中の全てがこれなら、ホッキ貝もまた違った人生を歩んでいたことであろう。
いよいよスペシャリテ、鮎のにぎりです。琵琶湖のたいへん希少な鮎であり、「毎日、赤坂までバケツ持って分けてもらいに行くんですぅ~」と古巣に対して甘え上手な大将。長いものにはぐるぐる巻きである。
おおー、これは絵的にインパクトがありますね。おなかの部分に上手くシャリを詰め、新たな時代の幕開けです。食べて納得、きちんと旨い。一見はイロモノにぎりですが、そもそも鮎は蓼酢(たでず)で食べることが多く、その代用として蓼を塗ったシャリを詰めるというのはけだし妙案である。
箸休めに芋茎(ずいき)の煮浸し。芋茎(ずいき)とは里芋の茎部分を食用としたもの。シャキシャキとした食感からあふれ出す上品な出汁が心地よい。
アジ。これはまあアジですね。特長はこれといって無く、アジでした。
9月も下旬ではありますがシンコ。かなり思い切りよく締められており、また、シャリも相当に味が濃いので喉が渇いてしまう。
バフンウニ。こちらはシャリは控えめウニ多めという幸せな仕様です。上質な海苔の風味と相俟って、「ねえ、あと少しだけそばにい(ry
カマスの炙り。おお、これはとても良い。凝縮感のある個体であり、火を少し入れて更に味わいが集中しています。
車海老。ぐわー、なんですかこの大きさは。割に大口な私であっても一口で頬張るには苦労するサイズであり、ムッシャムッシャと暴力的な歯ごたえ。旨味も甘味もたっぷりであり、フレンチであればフォークとナイフで3~4口に分けて食べるほどの価値がありました。
蒸したての穴子。フワっと柔らかく、アツアツ。何とも品の良いにぎりで〆。
味噌汁は昆布とカツオに京都の味噌とベーシック。何とも素朴で間違いなく美味しいのですが、私は魚介の出汁がプンプンきいた鮨屋らしいお椀のほうが好きです。
芝海老を混ぜ込んだお菓子系のギョクでごちそうさまでした。
お茶菓子代わり(?)のクルミの飴がけ。これは意図が全く不明。スイーツに手をかけるつもりが無いならギョクでストップで良いと思います。

お会計はひとり2万円。おおー、この鮨バブルの中、十番でこれだけ食べてこの価格というのは素晴らしいですね。客層も良い。幸か不幸かまだ見つかっていない店であり、有名店の貸切予約をループで取りまくるような客がいないので、バスター気味のバントといった手堅い店運びができているように思えました。

また、店主の朗らかな人柄に加え、俺は和食でやっていくとの旗幟鮮明な姿勢もニッチで素晴らしい。他店の鮨の実力は認めつつも、相手が正しいからといって自分が間違っているわけではないという開き直った態度。現在の荒れた鮨業界に一石を投じる、ゲームチェンジャーとなりうるお店かもしれません。


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麻布十番には日本料理店も結構多いのですが、割高であることが多いです。外すと懐が大ダメージを受けるので、信頼のおける口コミと、味覚が似た友人の感想に頼って訪れましょう。
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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