味覚/虎ノ門


ワインのばかのマスターより、「辛いものが好きであれば味覚に行くと良い」との助言を受け、いつものオッサン軍団で臨みます。
雑居ビルの地下にある魔界村。当店の麻婆豆腐はその激甚な辛さであまりにも有名。数々のメディアでも取り上げられています。
食べ放題飲み放題3,380円(税別)と、信じられないほどリーズナブルな価格設定。しかも作りおきのビュッフェ方式ではなく、オーダーしたその都度、アツアツを料理してくれるのです。
まずはキンキンに冷えた生ビールで乾杯。
枝豆は普通です。注文してもしなくても貴方の人生に重大な意味を持つことは無いでしょう。
豆苗はニンニクがバリっときいていて後を引く美味しさ。爽やかなビジュアルながら相当味付けが濃く、ビールおかわり。
飲み放題のビールはピッチャーで提供。ピッチャーっていうか、お冷を注ぐような容器で不思議な感じです。
ネギチャーシュー。これは抜群に美味しかった。とにかくネギがたっぷりと入っており、適度な辛味と細切チャーシューのコクが相俟って気持ちの良いネギサラダのよう。
ナスの唐揚げは衣がサクっ、ナスがジュワっ、塩味がガリっ、の三重奏。本日一番の一皿です。
他方、エビマヨはほんとそのまんまマヨネーズで幼稚な味付け。エビがプリプリに大きいのは評価できます。
黒酢の酢豚はやや臭味の残る豚肉ながらも及第点。個人的にはもっと黒酢をきかせて多様な野菜を放り込んだ酢豚のほうが好きですね。
エビチリは大ぶりのエビがプルンプルンと弾けます。が、チリソースはそこらの中華料理屋のそれと同等であり、見るべきものは特にありません。
鉄鍋ゴマ棒餃子。端まできちんと閉じられていない形態の餃子は斬新で中華風ハンバーグの様相。皮にバリっと焼き目がついていてパクパクと食べ易い。気づくととんでもない量の挽肉を摂取することになります。
スペシャリテの頂天石焼麻婆豆腐。いいネーミングだなあ。まずは中辛から。店員がニヤニヤしながらグツグツと煮立った石鍋を持ってきます。脂が飛び散らないように紙で抑えたまま提供され、ある程度落ち着いた頃に店員さんが紙を外してくれます。
途端に弾ける唐辛子。身体中の粘膜が痛み出し、咳とクシャミが止まらない。汗と涙が止まらない。食べる前ですらこの有様。地下であり換気が充分でないためか、エア唐辛子が店内中に充満し、店中の客が咳き込み始めます。レンゲで混ぜ込んでもらう際には中国人店員までゴホゴホとむせているのがなんだか可笑しい

しかし、いざ食べてみると、覚悟していたほどは辛くなかった。いや、もちろん辛いですよ。死ぬほど辛い。それでもあの空気中に飛散する辛味成分に比べると穏やかに感じてしまう。横浜中華街の景徳鎮も激辛麻婆豆腐で有名ですが、アチラは山椒主体であり、当店は唐辛子が支配的。
とは言え尾を引く辛さである。中和しようと角煮入りチャーハンを注文したのですが、熱さで舌が刺激され、辛味がぶり返して何を食べているのかサッパリわかりません。
戦意を喪失する前に激辛に挑戦。ヒヒヒと不気味な笑みを浮かべながら石鍋を持ってくる店員は魔女にしか見えない。紙蓋を取ると、店内に生きとし生けるもの皆が顔を真っ赤に咳き込む阿鼻叫喚。地獄を見たことはありませんが、この延長線上にあることは確かです。「えー!あのテーブル、激辛注文したの!?」などのように、他の客の注目を集めちょっとしたヒーローになれます。と、そのとき、あまりの空気の唐辛子感に堪えかねたのか、店員が外に逃げ出しやがりました。

ごくごく控えめに数ミリリットルだけパクり。ナニコレ信じられない。耳かき1杯だけで心が閉じてしまう。青酸カリか。それでも辛味に対する耐性は人それぞれで、辛い辛いと言いながらも6人中4人は割とパクパクと食べ進めていました。興味深々の隣のテーブルにもおすそ分けし、店中の客に妙な連帯感が生まれます。
「辛味にはレモンが良い」と誰かが言い出したので、カットレモンを期待してハイボールを注文。なのですが、残念ながらレモンは無く、炭酸とアルコールで余計具合が悪くなります。
それならばとカシスオレンジを注文した者に拍手喝采。カシスの甘味とオレンジの酸味がどこまでも優しい。地獄に仏とはこのことです。
気を取り直してホイコーロー。甜麺醤が濃密な砂糖のように感じてしまいます。
担々刀削麺は辛さを抑えて注文。辛味は無く甘味すら感じてしまいます。意外に酸味がたっぷりで普通に美味しい。麺のコシもしっかりしており、ランチで平常心に食べに来たいレベル。

無理に何回転もしようとしておらず、食べ放題飲み放題の2時間が終わってダラダラしていても放っておいてくれます。什器は安普請だし、清潔とは言い難い店内なのですが、不思議と居心地の良い空間。

全般的な味わいとしては街の中華料理屋の料理。しかし麻婆豆腐の激辛エンターテインメントの印象は強烈であり爽快感すら感じます。苦難を乗り切った仲間たちとの一生忘れられない思い出。大袈裟かもしれませんが、それほどの爪痕を残す店。

カプサイシン愛好家の皆さん、ここが味覚だ、ここで跳べ!


関連記事

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。


味覚
夜総合点★★★☆☆ 3.0
関連ランキング:中華料理 | 虎ノ門駅内幸町駅新橋駅