うを徳/東向島

墨田区は向島百花園すぐ近く、サザエさん時空を感じさせるエクステリアが眩しい「おもすじ処うを徳」。大正末期に料理店を併設した魚屋として始まった「魚徳」が「おすもじ処=鮨屋」として業態転換、東京下町鮨の雄としてその存在を主張します。
靴を脱いで入店。掘りごたつ式のカウンター6席とテーブル4席のみの小さなお店。小宮健一シェフは大学を卒業後、京都の日本料理店「割烹やました」にて修行し、先代のを継ぎ板場に立ちます。コンセプトは「京料理と江戸前鮨の鮨懐石」であり、同じ日本料理出身という意味で十番「鮨みうら」を思い出しました。
生ビールで乾杯。この価格帯の鮨屋としてはアルコールは安いほう。日本酒は1合1,000円前後~であり、お酒の持ち込みにも寛容(持ち込み料はもちろん必要)。
鯛とその煮凝り。初っ端から味が濃い系のツマミであり、休みの日には升で量って漏斗で飲んで日がな一日酒浸りの我々にとって最高の出足です。他方、全くの下戸にとっては印象が異なるお店かもしれません。
サンマに種々のキノコたち。少しバターで炙ってコッテリ。クラフトビールなどを合わせても良いかもしれません。
おつまみ、続く。マグロ・アユ・タコ・アワビと味濃い系のオンパレードです。いずれも旨いのですが、冒頭から味覚のベクトルが全く同じなので、食べ手側の酒で風味をコントロールする必要があります。
じゃじゃーん、秘密兵器の「而今 純米大吟醸 NABARI 2018」。1本持ち込むとは聞いていましたが、こんな極上品が登場するとは思いもよりませんでした。30センチ離れていても匂って来そうな華やかな香りにトロリとした舌ざわり。味覚に厚みがありマジやばみな美味しさです。存在感がありすぎて、ある意味これ単体で飲んでしまっても良いかもしれません。タケマシュラン2019年の日本酒1本はコレにてキマリ。
タイにウニ。いずれもフレッシュもフレッシュであり、タイのマッチョな歯ごたえが心に残りました。
肉のようなブリは軽く炙ってニンニク醤油で頂きます。中々にハードコアな調味ですが、これだけ迫力のある肉質にはちょうど良し。海老芋のホクホク感も堪らない。
半径1メートルに松茸の香りを奏でる土瓶蒸し。鮨屋でここまで完成度の高いスープを飲めることは珍しい。
にぎりへの序曲として白エビとイクラの小丼。ネットリとセクシーな白エビの味わいに、イクラの塩気とコクが乗っかりグレイトな組み合わせでした。
こんなにデカいボタンエビがあるか?あまりにも大きく、殻付きの時点を伸ばせば体長30センチ近くあったのでは無かろうか。かといって下品で大味な点は少しも無く、咀嚼するたびにエビの美点が伝わってくるミラクルな1カンでした。
中トロ。無難に美味しいですが、ちょっとさっきのボタンエビが凄すぎた。ある意味ではボタンエビをクライマックスに持ってきた方が良いのかもしれません。
オジサン。ダイバーにとっては馴染み深い魚であり、え、鮨で食べれるんだと驚いた瞬間。大将は素材ヲタクかつ自己学習の信奉者な面があり、全国各地から面白そうな食材を手に入れては挑戦を重ねるという、楽しい鮨屋でもあります。
ミンククジラ。IWC(国際捕鯨委員会)を脱退したばかりの日本の真骨頂。馬肉のように逞しく、マグロのように健やか。加えてこの日の私の時計はIWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)であったため、私のファッションとの組み合わせも抜群です。
大トロ。魚のポーションは小さめながら、シャリの存在感の大きい1カン。今さらですが、当店のシャリは結構味が強く粒がハッキリしており私のタイプです。
春子鯛。小さな小さなタイであり、柔らかく、優しい。ややもするとコンパクトな味覚であるため、前門の大トロ後門のカツオに挟まれては辛い部分もあるでしょう。
カツオ。血沸き肉躍るマッチョな味わい。鉄分が強い魚ってウキウキしますよね。鮨にワインを合わせるのはあまり好きではありませんが、このにぎりに限ってはワイン、それも赤を合わせたいと思いました。
健やかな赤身。当店は魚をフレッシュにジュクジュクさせずに出してくれるのが美点。肩がこらずに気軽に胃袋に落とし込むことができます。
ボタンエビの殻や味噌を詰めた海老汁。まさにジャパニーズ・ビスクであり完璧な自然の美味しさ。大ジョッキで飲みたい。
天然のウナギを蒸さずに炭火でガガっと焼き上げ、少しのシャリと共に海苔でバリバリっと巻き、ガブガブっと頂きます。逞しいウナギの旨さはもちろんのこと、焦げた表面の香ばしさや海苔の食感が素晴らしく、リズムが生まれる。見事なフィナーレでした。
クールダウンに松茸とおじゃこを和えたもの。香りが良く程よく味も濃い。残った酒を整理するにベストなポジションをキープしてくれました。
水菓子もいいですねえ。ごまかしがきかない素材だけに、魚たちと同等かそれ以上に気を使って吟味しているような気がします。量もたっぷり。

お会計はひとりあたり2万円強。今回は持ち込みなので、普通に飲めばもうちょっとプラスされると思います。所要時間は4時間弱。事前情報でゆっくりしたペースの鮨屋だと聞いていたので特にストレスは感じませんでしたが、着陸してすぐにシートベルトを外すぐらい気が早い方には厳しいお店かもしれません。ひとり客であっても間延びするかもしれないので、ゲームボーイ持参で訪れましょう。

世の鮨バブルなどどこ吹く風といった姿勢であり、繊細というよりはストレートに旨い脊髄反射系の鮨屋です。男同士で、旨いツマミをたっぷり食べ、ガブガブ飲むつもりで訪れましょう。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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