博多 奈良屋(ならや)/西麻布

日本一高級な博多の居酒屋「田中田(たなかだ)」が西麻布に進出して久しいですが、2021年夏にオーダーバイキング制の新業態「博多 奈良屋(ならや)」をオープン。「田中田」と同じメニューが12,800円で食べ放題ということで、西麻布の粋人たちを騒然とさせました。
店内は個室が中心でカラオケボックスのような雰囲気。もちろん個室でない席もありますが、個室居酒屋的な座席が支配的というのは珍しいでしょう。タッチパネルでの注文というシステムもカラオケ的なニュアンスをビルドアップします。
冒頭に述べた通り、確かに12,800円で食べ放題なのですが、ドリンクが信じられないほど高額ですねえ(画像は公式ウェブサイトより)。生ビールの中ジョッキ(と言っても小さい)が1,050円で、これにサービス料10%が乗ってきます。ソフトドリンクも税サを含めれば千円近い値付けであり、カイジの地下のような価格設定です。世の中にはオイシイ話などないのだ。
気を取り直してお通しのサラダ。おおー、このサラダは美味しいですね。素材そのものの質が良い。そういえば「田中田(たなかだ)」にお邪魔した際も野菜が美味しいなあと感じたことを思い出しました。加えて、料理は全て1人前づつ取り分けて提供されるもラクでいいですね。
お刺身5種盛り合わせ。これが食べ放題かと思わせる驚きのクオリティであり、きちんとした日本料理店で出されるお造りと遜色ありません。アオリイカが特に美味しかった。
九州を代表する郷土料理「ごまさば」も当然に美味。先のお造りと同格の魚を用いているためか、コッテリとしたゴマダレの味の強さを跳ねのける凄味があり、一般的に九州で食べられる「ごまさば」とはまるで別物です。
アワビとイカのバター焼き。アワビに目が行きがちですが、偏差値で言うとイカのほうが突出しているような気がします。
まぐろトロカツ。こちらはサイコロサイズがほんの2切れでチョロいもんです。揚げ油ならびにそれを吸った衣の味覚のほうが支配的であり、あまりマグロの風味は感じられませんでした。
チキン南蛮。このチキン南蛮もチキン南蛮としては極上の味わいであり、肉には天草大王(あのへんのブランド鶏)を起用しているそうで、いわゆる九州の郷土料理とは一線を画する美味しさです。
馬ユッケも純粋に馬い。馬肉の刺身って、量がチョンチョンと盛られて2千円みたいな感じのお店が殆どなので、当店のシステムは大変ありがたい。
和牛上酢モツ。一般的な焼肉屋の前菜程度のものを期待していたのですが、こんな酢モツがあるのかと驚愕する上品さです。
和牛スジ煮込み。先の酢モツと同様にハイグレードな内蔵です。ただし1人前のポーションがかなり多く胃袋の5分の1程が満たされる。「ふうん、マグロとかはほんの一口だけど、こういう料理はたっぷり出してくるんやね」と、同伴した食べ放題専門家は眉をひそめていました。
ヒレステーキは思ったよりも脂が強く、じんわりと内臓に響いてきます。
酢ガキがグレイト。サッパリとした調味にチュルンとした舌ざわりでいくらでも食べれます。重い料理が続いていたので、一筋の清涼剤として大活躍してくれました。
「大海老フライ」は品川「Ab・de・F(エビデフ)」ほどのサイズ感を期待していたのですが、思いのほか小さい。ただしその密度や凝縮感は目を瞠るものがり、ブリブリとした食感含めて素晴らしいひと品でした。
「カニみそバター」に「チャンジャ」。ちなみにこの日は男だらけのグループでお邪魔したのですが、「そろそろお腹いっぱいになってきたかも」という人物も現れ始めました。
「ぜいたく丼」は「田中田(たなかだ)」における一番人気メニュー。「やま幸」のマグロや不漁のウニなどを食べ放題で出すとは見上げた根性です。
「カキフライ」は先の「大海老フライ」と同様にザックリと密度の高い食感で美味。衣の肌理も粗くしており、ザクザクと心地よい食べ応え。
「ネギトロ」は海苔で巻いてそのままパクリ。シャリ抜きの肝心な部分だけを楽しむスタイルで、なんだか申し訳ない気がしてきます。
「小梅ちゃん」に
「生姜の甘酢漬け」と、皆、守りに入って来ました。
「魚の南蛮漬け」は、先の「小梅ちゃん」と「生姜の甘酢漬け」で味変を続け過ぎてしまったため、酸味がニューノーマルと化し、逆に印象に残らなくなってしまいました。もっと序盤で注文すれば良かったかな。
「博多がめ煮」につき、がめ煮としては大変上質なのですが、あまり食べ放題で食べる料理でもなかったかなあという印象。根菜多めでとにかく腹が膨れます。
もう食べれない、ということで、ラストにシマアジの刺身を単品で。ゴリゴリとしたタフな食感、かつ、フレッシュな味覚。やはり当店は魚が美味しかったなあ。
以上を食べて12,800円。軽く飲んでサービス料金が乗ってお会計はひとりあたり1.8万円。まあこんなもんかという食後感。やはり飲み物の異常な値付けは精神衛生上良くないですね。2万円ポッキリで食べ飲み放題とか、酒は普通の居酒屋価格にして料理は16,800円とかにした方が、店と客の双方にとって互いにハッピーなような気がします。
注文はタブレット経由で、「終了まであと〇分!」のようにカウントダウンされるなど、サービス料を10%取る割にはカラオケ屋と変わらないチープな仕掛けであり私のロマンチシズムに反する。うーん、これなら「田中田(たなかだ)」で同じ予算で普通に飲み食いしたほうが気持ちいいなあ。
誤解の無いよう申し添えておくと、料理のクオリティは食べ放題とは考えられないほど高く、ホテルのディナービュッフェなどとは段違いの美味しさです。だからこそ、なおのこと、食べ放題にするのはちょっとどうなんだろう、というお気持ちです。

話のタネに一度行ったらもういいやと思えるお店の代表格に感じました。

食べログ グルメブログランキング


人気の記事

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。