御成門はる/御成門

超人気店「くろぎ」で研鑽を重ねた小川晴行シェフが2019年3月にオープンした和食店。コース1.5万円という、日本料理としては破格の値付けで瞬く間に予約困難店となりました。
店内はカウンターが6席前後に個室がふたつ。オンコロナのためか満席には埋めていませんでした。BGMにはジャズが流れており、明るく気軽な雰囲気です。

なのですが、テイクアウト客とタイミングが重なったのか入店してから随分と長いあいだ待たされました。すぐ目の前のお客様を大切にできないのであればテイクアウトなんてやるべきじゃないと思うのだけれど。サービス料を徴収するのであれば、接客は常に完璧を目指さなければならない。
飲み物メニューは無いため、「ビールの後はお料理に合わせて日本酒を」とお願いしたのですが、「日本酒はどういったものがお好みでしょうか?」と頓珍漢な受け答え。いやだから料理に合わせてって言ってんじゃん。そっちで合わせる自信がないから最初からメニュー用意してくれよ、こっちで勝手に選ぶから。あとビールのグラスが鉄っぽい味がして嫌だ。
相当待たされて出て来たお椀。どれぐらい待たされたかというと、もう一組のゲストは2人でワインを1本空にしておられました。そんな雰囲気の中で食べる料理の味など中くらいである。
このあたりからエンジンがかかって来始めテンポが良くなりました。目の前で香り高くゴマをすったのち、手早くセリを和えて胡麻和えに。軒先のお香のかおりやお手洗いでのディフューザーなど、匂いを大切にするお店なのかもしれません。
ホタルイカの沖漬けは日本酒に定番の組み合わせ。右のタコはたっぷりと酸味を纏っておりビビッドな味わいで美味。
うすい豆。悪くはないのですが、なぜこのタイミングでアツアツの薄い豆を単品で提供するのか意図がわかりかねる。
続いて新じゃが。「くろぎ」のような自然の摂理に反した豪華食材を連続で出すべきだとは言いませんが、このまま一生イモやら豆やらが出され続けるのかと不安になる。
白エビとウニに鯛の出汁のジュレを流し込む。そうそう、これこれ。開始1時間超にしてようやくテンアゲな料理に巡り合えることができました。
牡蠣のソテー(?)にタラの芽の天ぷら。タラの芽の大人の苦味がグッドです。
色々なツマミの盛り合わせ。いずれも不味くはありませんが、何だかずっと冷たい料理をチマチマと食べ続けているので、正月のおせち料理のような気分になってきました。
真鯛の昆布締め。おかきや梅肉、紫蘇の花などをトッピングしていますが、真鯛の昆布締めそのものがそれなりに美味しいので、こんなにややこしいことをする必要があるのかなあ。
マグロは「やま幸」から本マグロ。なのですが、妙にキンキンと冷えており、マグロの折角の繊細な味覚が台無しです。
エビのお団子でしょうか。エビの塊がゴロゴロと入っており、新玉ねぎのフレッシュな甘味と最強タッグです。アクセントのひじきやエビの出汁などを含めて、本日ダントツで一番のお皿でした。
フルーツトマトに鯛の白子。濃厚な口当たりを土佐酢がキリっと締めて旨い。
揚げ物として太刀魚。さすがのアツアツでジューシーな食感。トロりと溶ける肉の味。山椒の風味も実に上品。
太刀魚からしばらく経ってから空豆が到着。味は悪くないけれど、ちょっとリズム感が無いですね。ちょろちょろ出されて段々めんどくさくなってきました。
メインは甘鯛をシンプルに煮た鍋。ここに至るまでめちゃめちゃ引っ張った割に、素朴なフィナーレです。
土鍋ごはんの前に謎の巻き寿司。こういうちょいちょい意味不明な皿出しは何なのでしょうか。
土鍋ごはんの具材はホタルイカ。たっぷりと豪快にホタルイカが用いられており、コクのある味わいがごはんにしっかりと染み渡ります。
桜餅をイメージした(?)アイスクリーム。シャリシャリとした舌触りでアイスクリームというよりはシャーベットに近くイマイチです。
甘味の2皿目は紅ほっぺを温めたぜんざい。イチゴは温かいわりにアンコは冷たく一体感が無い。珍紛漢紛なフィナーレであった。
ちょいちょい飲んで、お会計はひとりあたり2万円強。個別具体的な質およびトータルの量を考えればリーズナブルかもしれませんが、色々とツッコミどころは満載のディナーでした。シェフに色々とやりたいことが多く意欲的なのは伝わって来るのですが、客としてはもっと腰を据えて味わいたい。料理の数が多いため出来不出来の波も大きく、フレーバーの種類の多いラーメン屋のように自信の無さの裏返しのようにも取れてしまいました。

一方で、シェフのやりたいことがキチっと定まり、全体を貫くストーリーが完成すれば大化けしブロックバスターともなり得ます。これからが楽しみなお店。伸びしろは物凄くあるため今回は真心をこめて多くを指摘しました。しばらくは草葉の陰から見守り、数年後にまたお邪魔したいと思います。


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