Restaurant T3(ティースリー)/麻布十番

麻布台「サヴールコンプリス」が装いを新たに「T3(ティースリー)」としてリブランド。ちなみに運営会社は「北の家族」などを展開する株式会社subLime。高級業態として当店や「エルバ ダ ナカヒガシ」「虎峰」なども展開しているのです。店名は 「Time(時間)×Temperature(温度)×Terroir(テロワール)」がコンセプトだそうなのですが、媒体に拠っては「 Travel(食体験の旅行)」や「TASARA(多皿)」など複数の説があります。
山下浩幸シェフは銀座「レカン」マンダリン「シグネチャー」で腕を磨き、アメリカにてエリック・ジーボルトの薫陶を受け帰国。純粋なフランス料理というよりは、アメリカの異種格闘技的フュージョンフレンチのようです。
ワインはペアリングでお願いしました。飲み進めると気前よくバンバンと注いでくれるのが気持ち良いですね。大きな会社が経営しているレストランの美点である。
博物館にでも収蔵されていそうな特大の有田焼が届きました。こんな体験初めてであり先制パンチを喰らった印象。中央は伊勢海老(?)の出汁であり、シンプルながら素材そのままの味わいで美味。稚鮎のエスカベッシュも前半戦に適任の味覚であり、牛タンの用い方も興味深い。まさに何でもありなプレゼンテーションなのですが、それぞれがきちんと美味しいのが良いですね。
それぞれの皿に合わせてジャンジャカ酒を持ってくれるので嬉しい忙しさ。このタイミングでキンキンに冷えたアロース・コルトンを持ってくるのはセンスいいなと思いました。
焼きたてのポップオーバー。これは普通のポップオーバーです。他の手の込んだ料理に比べると力不足に感じてしまいました。まあ、パンとは本来そんなものなのかもしれません。
酒に料理に忙しく、1枚写真を撮るのを忘れてしまいました。お魚料理は金目鯛のヴァプール。温度帯が中途半端で素材の旨味甘味が出ていなかったのが残念。他方、ホタテのムースは頬ずりしたくなるような味わいです。
力強いシャルドネ。破天荒な料理に合わせてワインのラインナップも良い意味で無茶苦茶です。イノベーティブなレストランのソムリエは大変だ。
ピザ生地の窯で豚肉に熱を入れていきます。「50℃になったら教えて下さい」と、客席参加型の提供方法。エレベーターの階数表示よろしく不思議とじっくり眺めてしまう。
熱が通りました。北海道の大変ありがたい豚のようであり、なるほどややこしい調味無しでも率直に美味しい。脇を固めるガスパチョソースはソースというよりもガスパチョそのものであり、それ単体で料理として成立する美味しさでした。
オーストラリアのオレンジワイン。なんとソムリエールが収穫から醸造までお手伝いをしたそうです。いま流行のオレンジワインやでぇ的な押し付けがましさはなく、こうして造ると美味しいから結果としてオレンジワインにしたんだろうなという、意義深い1杯でした。
島根県は出雲のかつべ牧場から年間50頭しか出荷されない幻の牛をシンプルに。ただ柔らかいだけでなく香りが豊かであり、脂からは野暮ったさが一切感じられません。良い肉だなあ。よく育つものはゆっくりと育つのだ。付け合わせのゴボウとそのエスプーマも大地が感じられる力強い味わいでした。
シラーもこの肉にピッタリと寄り添う味わいであり、力強いながらも肉の味は決して邪魔しない、奥ゆかしい味わいです。
お茶を複数種から選択できたので、私はソムリエールおすすめの「甜茶(てんちゃ)」を選択。上品な甘味が感じられる一方で、お茶特有のザキザキした舌ざわりの無い、円みのある味わいでした。
スペシャリテ(?)のメロ吉。シェフが夜な夜な3時間かけて彫刻する当店のマスコットです。メロンの果肉と果汁、適度な炭酸が溶け合って、楽しく美味しい気分転換です。何でもない素材に意義を持たせる。これが料理である。
しかしながらメインのデザートは凡庸。決して不味くはありませんが、これまでの料理に比べると外観も味覚も期待外れに終わりました。当店の課題はデザートかもしれません。
デザートに合わせてカクテルを作ってくれました。生クリームを主体としてエルダーフラワーの風味。これは女子ウケ間違いなし。連れが美味しいと10回ぐらい言っていました。
食後の飲み物はコーヒー紅茶ハーブティなんでもござれなのですが、私は抹茶をチョイス。連れはハーブティーを選択し、かなりややこしい仕様であり、ソムリエにせよソムリエールにせよ、明るいヲタクが勢ぞろいのお店です。
お会計はひとりあたり1.3万円と、ランチタイムとは言え驚愕の費用対効果です。これだけ食べてあれだけ飲んでこの金額は奇跡。倍請求されても納得のいくレベル。オープン当時は、またイノベーティブ迷走系が出てきやがったな、と敬遠していたのですが、1年前の私を張り倒してやりたいほど魅力的なお店でした。前衛的なのにきちんと美味しいお店って貴重。サービスも軽快で慇懃無礼でなく、非常に居心地の良い空間を演出してくれていました。いい会社だなあ。「エルバ ダ ナカヒガシ」や「虎峰」にも行ってみたくなりました。


このエントリーをはてなブックマークに追加 食べログ グルメブログランキング

関連記事
麻布十番にはフランス料理屋がたくさんあるのですが、残念ながら割高でハズレなお店も多い。外さない安定したお店は下記の通り。
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。