カラペティ・バトゥバ!(QUAND L'APPETIT VA TOUT VA!)/麻布十番

むかしむかし麻布十番にカラペティ・バトゥバ!(QUAND L'APPETIT VA TOUT VA!)という、ややこしい店名だけれども一度覚えればつい人に発音したくなるようなフランス料理屋がありました。
「食欲さえあれば何も問題なし!」という意味の、妙な説得力を持つ店名。その名に恥じず料理はどれも美味しく、ワインもリーズナブルであり、朗らかな接客も相俟って麻布十番屈指の人気店へと成長していったのです。
悪夢は2016年12月21日に起こりました。下の階の中華料理屋「エリート」が失火しビル全体が大炎上。もらい火を受けたカラペティヴァトゥヴァも営業が困難な状態へと追いやられてしまいます。クリスマス直前の、店も客も最も気合が入る時期にこの試練。十番住民の誰もが当店の行く末を案じつつ、静かに、そして確実に、ひとつの名店の幕が降りました。

数ヶ月後。麻布十番のグルマン界に激震が走ります。「カラペティ・バトゥバ!のオーナーが物件を探している。しかも十番」あの店に相応しい物件がそんな都合よく見つかるか?しかも十番に?

クルム伊達の復活もかくやと思わせる十番住民の熱狂ぶり。SNSに錯綜する情報。「カッシータのビルらしい」「シーファンの上らしい」と徐々に真実味を帯びてくる噂。そして閉業から半年後の2017年6月、噂は現実となり、麻布十番の地にカラペティ・バトゥバ!が復活したのです。
入店して思わずため息。内装がカッコ良いのです。最近流行のコの字型のカウンター。厨房はカウンターの奥にあるのですが客席からも見えるようになっており、料理の鉄人さながらにライブ感を楽しむことができます。

テーブル席が増え、グループでの食事もし易くなりました。半個室らしき空間も見えたので、会食などにも良いかもしれません。男女のつがいがカウンターにズラりと並び、互いに品定めをされているようでやや気恥ずかしい。
泡をボトルで注文し喉越しを楽しみながらじっくりと料理を選ぶ。このあたりフランス本国におけるレストランと流れが同じであり、フレンチ・ラヴァーが萌える瞬間です。
コース料理もあるのですが、やはりグルメは自分の好きなものを好きなだけ食べたいもの。このメニューに記載されているものは全て2人前の料金およびポーションであり、ひとつ選べば2人で食べ易いように取り分けてくれます。
最初の一口はパイ的なもの。一口サイズのグラタンのようであり、ミスドのホットパイのような安定した味わいです。
秋刀魚のスープ。内臓などは取り除いておらず、そのまますりつぶしたハードボイルドな逸品。もったり。ザラり。液体というよりも半固形の離乳食のような食感です。そして期待していた通りの濃厚な風味。脂と旨味、苦味など複数の構成要素がハリケーンのように押し寄せます。
パンは黒味がかったストロング系のパンであり、小麦の風味がしっかりと伝わる私好みのタイプです。
何倍もの時間をかけてストレス無く育てたマス。なるほど健康的なマスであり、シャケのようなクドさがなく清澄な味わい。備え付けの柿と共に食べることを推奨されたのですが、これはあまり意図がよくわからなかった。単体でポンと並べるのではなく、ピュレなどにして自然に口に届くスタイルのほうが良かったかもしれません。
ズワイガニとアボカドにコンソメジュレを載せ、ウニをトッピング。伝わってきます。食べる前から美味しさが伝わってきます。海を感じさせるカニの旨味にトロりとしたアボカドの食感。濃い目のコンソメが全体をまとめあげ、濃厚なウニがスマッシュを決めてくれます。
メインは鶏肉のパイ包み焼き。ドカンとしたパイ包み焼きを想像していたのですが、コロンと愛らしく上品な外見。トリュフのソースの香りが脳天を刺激し食欲を掻き立てます。
味覚は粗めに挽いたつくねという印象。皮目近くの脂の乗った肉の醍醐味まで余すところなく用いられており、トリュフのソース、パイのバターと共に渾然一体となって味蕾を刺激します。「あたしのパイ包み焼きの印象を覆した」と、肉料理をそれほど好まない連れもご満悦の様子。
2本目のワインはモルゴン。酸味が強い一方でややヘヴィ。ちょっとメインには合わなかったかもしれません。しかしこれはソムリエと相談せずワインリストで独断専行に決め打ちした私の責任である。
お会計でぶったまげる。ふたりの合計金額が驚きの21,000円。フランスのワインを2本飲んで(フランスワインは基本的に割高)この金額で済むのは奇跡。近所のフレンチで言うと、麻布れとろラ・リューンのような満足感があります。

席は全て予約で埋め、1回転目が完了した後もひっきりなしにフリーの客が訪れます。開店から閉店まで常時満席状態。名実共に復活です。火災については不幸以外何物でもありませんでしたが、そこは当店の歴史を振り返った際のアクセント程度と前向きに捉えたい。

「十番っぽい、美味しくてオシャレなお店はどこ?できればそんなに高くなくて」と問われれば、いの一番に勧めたいお店がここ、カラペティ・バトゥバ!です。


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麻布十番にはフランス料理屋がたくさんあるのですが、残念ながら割高でハズレなお店も多い。外さない安定したお店は下記の通り。
  • エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理。
  • ALLIE ←ワインという食事の知的部分を担うソムリエの重要性を再認識させてくれるお店。
  • ラリューン ←クラシックな調理で正統派。むちゃ穴場です。
  • 麻布れとろ ←ここで合コンすれば幹事がモテる(と信じている)。
  • RRR ←ワインが割安。飲みまくれ!
  • ルバーラヴァン52 ←全般的に安い。2時間で追い出されるのが玉に瑕。
  • ブラッセリートモ ←和魂仏才、リーズナブル!
  • タストゥー ←トリュフを使ったデザートに身悶え。
  • 麻布十番グルメまとめ ←ほぼ毎日、麻布十番で外食しています。その経験をオススメ店と共に大公開!
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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