Lasen(ラセン)/麻布十番

長い長いアジア出張から帰国した連れ。羽田に降り立ったその足で「向こうには無い、東京っぽい、西洋料理が食べたい」とのリクエスト。候補のリンクをいくつか送ると彼女は当店をチョイス。
入店数時間前の予約であり選択肢が限られているとは言え、あまりにネット上の情報量が少ない。自分から提案しておきながら、ほんまに大丈夫かいなと首を傾げながら店で待ち合わせる。
入店して絶句。インテリアが死ぬほどダサいです(写真は公式ウェブサイトより)。「リゾートダイニング」と銘打ってはいるのですが、カシータを更にダサくしてパセラぎり一歩手前ぐらいまで持ってきたような雰囲気。とりとめのない珍奇な装飾ばかりが目に付きます。
個室に案内され更にゲンナリ。何なんだこのセンスの悪さは。チープな壁材に野放図な写真立て。ご丁寧にキャンドルライトという重症まで3つも用意されていました。

数分遅れで連れが到着し、ニヤニヤと底意地の悪そうな顔で私を見つめ、「ステキなお店ね★ニャハハwww」と笑い転げる。彼女は他人の不幸を喜ぶタイプなのだ。しかしこういう事態に陥ったのも、結局は私の店選びの甘さと過信が招いた結果であり、責任は全て私にある。
ドリンクメニュー、ならびにワインリストをお借りしたのですが、これまた哲学の無いラインナップでした。シャンパーニュは異常に割高でありクラブかよと突っ込みを入れたくなるものの、その他の地域は妙に割安だったりもする。「なんかこの雰囲気でお酒にお金払うのアレだから、ビールでいいよ」と、連れ。お前いい女だな。
アミューズはガスパチョに一口サイズのパテドカンパーニュ。おや、旨いぞ。どういうことだ?思わず我々は目を丸くし、互いに驚いた顔を見つめ合う。美味しい。普通に美味しい。
続く前菜は『真サバの軽い炙り、シェーブルチーズといぶりがっこのソース』。はにゃ?どういうこと?盛り付けのセンスも良く、味そのものも悪く無い。いや、むしろ美味しいと評して良いほどのレベルの高さです。シェーブルチーズをソースに見立てたり、いぶりがっこを添えてみたりと創意工夫にも溢れています。
パンは2種類あり片方の柔らかいやつがグッド。白眉は燻製されたホイップバター。手の込んだフランス料理屋で供されるものと同等かそれ以上の味わいであり、店構えと食事に対する姿勢の差異にうろたえる。
「太刀魚のコンフィを使ったタリオリーニ、クレソンのジェノヴェーゼ」。何だよこのパスタめちゃんこ旨いじゃん。太刀魚の香りと旨味の引き出し方。大人の苦味をきかせたソース・シャッキリとした野菜たち。どのパーツを取り上げても大体や適当ということはなく、細部の積み重ねが全体としての料理となっています。
連れのメインは『骨付き仔羊肉のロティ、大葉の香り味噌とバターナッツのソース』。ひとくち交換こしましたが(個室なので堂々とシェアできる)、どう考えてもプロ中のプロの仕事です。
私のメインは『岩手県産プラチナポークの瞬間燻製 炭塩添え』。ふわりと漂う薫香が食欲をそそり、豚の脂の甘味、肉の旨味も堂に入っている。シェフには間違いなく素材に対する眼力がある。
連れが注文したデザートは『南国フルーツとシャンパンのゼリー ココナッツのグラニテ添え』。古力娜扎のように美しい外観であり、味わいも天真爛漫。女子ウケすること間違いなし。
私は『シトラスのパンナコッタとグァバのジュレ』。こちらもスイーツとしての濃度が高く、ミシュラン星付きレストランで供されるものに比肩する美味しさです。
小菓子はバジル風味のパート・ド・フリュイ(フランス風ゼリー菓子)に一口サイズのフォンダンショコラ。いずれも真心が伝わる手作りのものであり、甲斐甲斐しい味覚がキチンと伝わってきます。
コーヒーは淹れ置きのドリップコーヒーでは決してなく、質の良い豆を用い丁寧に淹れられた、カフェなら500円請求できる折り目正しいものでした。
なんなんだ、このギャップは。インテリアのセンスの無さはGODDESSと共に麻布十番1、2位を争う。サービススタッフも料理に係る知識が乏しく(バターナッツとピーナッツバターの意義を混同している)、配膳の所作についても心許ない。しかしながら料理だけは文句なしに旨い。

どうにもひっかかったので秘書に調べてもらうと、シェフは外苑前のリストランテ ホンダで10年も勤めていた方ということが判明し膝を打つ。なればこそ、この腕をこの雰囲気に埋没させるのは勿体無い。妙な装飾を排し料理に主軸を据えた飲食店に作り変えたほうが社会的に有用なのに。人生そうチャンスは何回もない。過ちては則ち改むるに憚ること勿れ。


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東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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