すし初/湯島

十番の徳という和食屋に女子ふたり私ひとりで女子会した際、次回は彼女たちそれぞれと個別にデートし、改めて3人で集まり私のビヘイビアに対する振り返り作業を行うというエモい企画が立ち上がりました。今夜はその答え合わせの日です。
バターナッツのすりながし。すし屋でバターナッツを食べるのは生まれて初めてです。略して「すし初」です。さて、バターナッツのコクのある甘さにヨーグルトで酸味を与え、その味わいたるやフランス料理を頂いているかのようであり、強く記憶に残ったトップバッターです。
茹でた落花生。茹でて食べる専門の特大サイズであり、一粒一粒があと一歩で空豆のような重量感に驚く。

それじゃあ、僕の振る舞いの良かった点と、改善すべき点をそれぞれ言ってもらえるかな?と彼女たちに水を向ける。
魚介類専門のイタリアンレストラン。お店選びのセンスは抜群ね」と、まずは発言がモデル風の女の子から。「あたしの『本当に一番好きな食のジャンルはお鮨だけど、初回デートからお鮨行きたいとは言い出しづらいから、魚介類が好きって答えるようにしてる』って発言を完璧に汲み取ってくれたわ」
ズッキーニの味噌田楽。瑞々しいズッキーニに香りの強い味噌が実に良く合う。お酒が進む逸品です。
「改善すべき点は、、、特にないけど、強いて挙げるなら地震にビビりすぎ。もっとドッシリと構えていて欲しかった」確かにその日は震度3程の揺れがあり、人並みに怖がったつもりではあったのですが、彼女の目には取り乱しているように映ったのかもしれません。
お刺身第1弾。スミイカとタイが心に残りました。スミイカの赤ちゃんは煎り酒をちょこんと漬けるだけでイカの甘味が爆発します。滑らかな噛みごたえも素晴らしい。タイは熱を通してあるのか、凝縮感があって滅法旨い。
こちらは店主自ら酒蔵に趣き特別に誂えてもらった1本。神力米という、古の酒造好適米を復活させようというムーブメントの申し子です。芳醇な味わいで、メロウな瞬間は短くも長い、そんな時間が流れる1本。
お刺身第2弾。サバ、イワシ、カツオと私の好きなお魚ばかりです。カツオの筋肉質でシャープな味覚とサバ・イワシのコッテリとした味わいの対比が見事でした。
王祿酒造の渓。私の大好きな日本酒のうちのひとつです。華やかな香りにふんわりとした円みのある旨味。余韻もちょうど良い。
肉厚のタイラギにウニ。視覚的なインパクトは二次的なものであり、真骨頂はその食感。肉を食べているかのような噛み応えであり、まさにムシャムシャとした食感です。海苔の磯の風味にウニの特長的な甘味がハーモニーを奏でます。
「今度はあたしの番ですね」と、菅野美穂似の彼女。「うーんと、アドリブ力があるっていうか、その時の気分に合わせて行動を調整して、ドンドン楽しい提案してくれるのが良かったです。結局この夏は、あの日の花火しか観てないから、本当に良かった」
ちなみに彼女とのデートは昼から新大久保のイスラム横丁で飲み歩きつつ、「ゆうべの隅田川の花火が雨で今日に順延されたみたいだけど、行ってみよっか?」と、天候までをも味方につけたレジェンドとも言うべき1日。これは改善すべき点として、『どうして花火デートなのに手、つないでくれなかったんですか?』が来るであろう、と身構える。
丸々と太ったイワシ。ほどよい苦味が食欲をそそり、ブリブリとした肉質も酒を呼ぶ。それにしても凄まじいツマミの量だ。魚だけで満腹になる幸せ。
さて龍力。察しの良い方はお気づきかもしれませんが、先の神力は龍力で有名な本田商店が手がける1本だったのです。こちら龍力は山田錦の母にあたる山田穂を用いており、しっかりとした旨い酒。飲み応え抜群。
子持ちのアユ。こちらも、特に卵の部分が美味しいですねえ。醤油を使わずとも滲み出るこの色合い。スプーンで1滴余さず飲み干しました。
「改善すべき点はですねえ」エヘヘといたずらっ子のような表情を見せる菅野美穂。こういう表情をしている時の彼女は危ない。「ビビリというか、確かに物事に動じ易いところはありますね」との判決が下され無事死亡しました。
にぎりに入ります。まずはトリガイ。と言っても硬くて噛み切れないなんてことは全く無く、イカのようなサクサクした食感でスルスルと進みます。
丈参でしたっけ?確かにあの店主は感じ悪かったですが、ちょっと怖がりすぎだったかもしれません。まあでも、強いて挙げると、ですよ」と20代半ばの女の子にフォローされる私。
エビはいつだって正義の味方です。見た目が華やかでジュっとした歯ごたえも格別。深みのある甘さに官能的な香り。何個でも食べたい。
それにしても、強いて挙げたのにもかかわらず同じ点を指摘されるとは、私の肝っ玉の小ささは並大抵のものではない。物事に動じる男、タケマシュラン。
すじ抜き。マグロのトロの筋を1本1本丁寧に抜き、その美点のみを凝縮させたという背徳的なにぎり。舌の上でふんわりと蕩ける甘味と旨味、コク。
もちろん私の行動原理の重要なひとつに「君子危うきに近寄らず」というものがあり、危険を察知するとすぐにその場から逃げ出すので(電車でヘンな人がいれば車両をすぐに変えるタイプ)、彼女たちの指摘は的を射ていると言わざるを得ない。
カレイのエンガワ。コッテリと脂が乗っており、並みのヒラメよりも余程美味しい。やっぱ魚って値段じゃないよなあ。
「でも、お誕生日祝いで『つきうだ』に連れて行ってくれたのは嬉しかったわ。あたしの要望、全部満たしてもらえちゃった」「そうですよ。誕生日翌日にその約束入れられるのって、すごいですよ。よっぽどの人じゃないと、誕生日前後に予定あけないですもん」再び20代半ばの女の子にフォローされる私。優しい女の子である。
タイ。白身魚とは思えないほど旨味が強く、見かけの割に食べ応えのある1カンです。
ところで夏の最後の思い出として、彼女たちと3人で八丈島に遊びに行く運びとなりました。2泊3日。君子豹変すという諺を彼女たちは未だ知らない。
サンマ。こちらもたっぷりと脂がのっており、思わず脳汁が出る旨さです。
ふんわりと炊かれたアナゴ。舌の上でホロホロと崩れ、シャリと渾然一体となって解けていく。アナゴを食べるといつも寂しい気分になる。楽しい饗宴も終わりに近づいてきているのかと。
4番サード而今。この酒の旨さは語るに及ばず。パソコンに辞書登録するぐらい好きなお酒です。
〆にカンピョウとネギトロを細巻きで。これは追加して良かったなあ。脂の強いトロの滑らかな食感にネギのフレッシュな青臭さがベスト・マッチ。カンピョウも芯のある味わいで見事に大トリを飾りました。ユウガオも、死後まさかこんな形に美味しく仕上がっているとは思いもよらないであろう。
ビール1杯に日本酒を14種。店主はアカデミーデュヴァンで日本酒の講師をしているだけあって、薀蓄が1杯ごとに炸裂する。酒を飲み、情報を飲む。たっぷりと酔っ払い、翌朝、謎の打撲傷が身体に発見されました。まあいい、中世の時代は泥酔して嘔吐すれば身体が浄化されると信じられていたのだ。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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