鮨さいとう/六本木一丁目

鮨さいとう。食べログ4.90とイミフなポイントで全体2位、鮨部門では1位、ミシュラン9年連続3ツ星と、およそ無敵のお店です。当然に普通には予約が取れないのですが、待てば海路の日和あり。グルメ仲間がお誘いして下さいました。
自宅から歩いて、すれ違うひと全員に「おれ今から『さいとう』行くんだぞ、いいだろう?」と自慢しながらアークヒルズまで来ました。ちなみに前日は同じくアークヒルズの金子半之助で夕食を摂っており、その帰りに当店の下見まで来るという念の入れようです。
我々は男だけでお邪魔したのですが、他のゲストにつき、男に連れられて来た女性は資本主義の権化のような服装をした絶世の美女ばかりであり、やはり色々と考えてしまう。小松弥助に似た客層です(以上、写真は食べログ公式ページより)。
まずはビールで乾杯。液体と泡の比率、ならびにクリームの滑らかさも完璧で、やはりビールサーバーのメンテナンスならびに注ぎ方には正解があるのだ。
ツマミから入ります。まずはイシガキガイ。高級すしダネのひとつではありますが、良く言えば磯の香り、悪く言えば生臭さが残ります。
アワビはキモのソースで、タコはワサビで。いずれもバッチグーな美味しさですね。キモのソースの量が気前良く、コッテリと塗りたくって一口で頬張る至福のひと時。タコも見た目からは考えられないほど柔らかく深みのある味わいでした。
カツオのタタキ。これは猛々しい味わいですねえ。一般的なそれよりも思い切り火を入れており、ところどころ焦げ目が生じているレベル。それが香りと食感に変化を与え、ジュワっと楽しい一皿でした。
毛ガニはスカッシュボールほどの特大サイズ。ただし味わいはソコソコなので、ここは思い切って特大のにぎりにしてしまったほうがインパクトがあって面白かったかもしれません。
日本酒に入ります。黒龍 のひやおろし。品のある果物の香りに滑らかな口当たり。あれ、このお酒ってこんなに美味しかったっけ?今度酒屋で1本買ってみよう。
クエの身とそのスープ。ううむ、これは神々しい美味しさだ。クエは味の割に割高だよなあと思うことが多いのですが、当店のそれはそのポテンシャルを見事に引き出してくれています。つまり、とても旨いのである。
焼き物はタチウオ。ホクホクとした食感に鼻から抜ける香ばしい香り。淡白な魚なはずですが、身そのものがキッチリと美味しかった。付け合せのお漬物もめちゃんこ旨い。
にぎりに入ります。まずはマツカワガレイ。ツヤのある外観であり歯ごたえも楽しめます。余韻が長い粘り強い個体であり、咀嚼するたびに味わいが滲み出てきました。
サワラのヅケ。ぐわー、これは何とも緻密な味わいですね。神はサイコロを振らないとばかりに計算しつくされた美味しさであり、私の南半球を刺激する。
コハダはビシっと締まっています。力強く、ああ、今わたしはコハダを食べていると認識し易い味わい。
ヅケ。おー、さすがというべきか、やはりというべきか、いいですねえ。私は当店のヅケの方針がタイプなのかもしれません。
トロ?中トロ?いずれにせよ、サシが細やかに入った極上品であり、その脂の繊細さはクリームのようです。
大トロ。ここまでくると、もう、なんというか、和牛のような魚ですね。ジューシーという肉料理に使う表現を思わず取り出したくなる味わいでした。
シロイカ。清澄かつ官能的という矛盾した味わい。
アジ。むほっ、私の大好きなタネ、かつ、さいとうさんだぞっと言わんばかりのクオリティです。トロなどの高級食材はどこで食べても似たような味わいですが、やはりこういう安魚の取り扱いの良否でお店に対する印象が変わってくるような気がします。
クルマエビ。今しがた茹で上げられたばかりの紅白柄であり、めっちゃくちゃ熱そうに、しかしながら手早くムキムキされていきます。にぎりが、熱い。口の中でハフハフと、およそ鮨屋ではあまりない動きになったのが何だか可笑しかった。味については語る必要も無いでしょう。
イクラ。小ぶりな軍艦ながら一粒一粒に存在感があり、海苔とのバランスも上々です。
球体状に仕上げられたシャリの上に行儀良く居並ぶウニたち。ポーションこそは大きくありませんが、とにかく濃厚な個体であり、この凝縮感は筆舌に尽くし難い。
アナゴ。どうして握ることができるのだと問い詰めたくなるほど柔らかい。口の中で身とシャリがホロホロと崩れまさに渾然一体。ツメの味わいもちょうど良く、ヅケにしろツメにしろ、当店のこの手の調味が私のタイプなのかもしれません。
太巻き。アナゴやカニなどが入った豪勢なものですが、十番の秦野よしきのようなやりすぎ感は一切なく、凛とした光を放っています。そしてトップには一片のツメ。旨し。
お椀は海苔とネギのみと実にシンプル。率直で素朴な味わい。私は具材がたっぷりつまったゴテゴテした椀を好むですが、当店に限ってはこれぐらいシンプルなものでちょうど良くも感じたりします。
玉子はちょっと変わっています。カステラやチーズケーキのような食感のギョクを出す店が雨後の筍が如く増えつつありますが、当店のそれはさらに一歩先を行っており、不思議と水分を湛え、高野豆腐のようにしっとりとした口当たり。卵そのもの味が濃く、魚のすり身の風味(?)がそれを下支えし、唯一無二と言って良いほど素晴らしいフィナーレでした。
ひとりあたり、ビールを1杯、お酒を1合飲んで税サ込30,000円ほど。これは、安い。いや、全然安くないのですが、ひとり4~5万は普通というバブルの様相を呈している鮨業界において、その最高峰に君臨する、世界最強と評しても過言ではない当店が3万円ポッキリです。この価格設定には色々と考えさせられました。

崇高な創作活動というよりは季節を切り取った料理。入念でいて漏れもダブりもない印象。連れの表現を借りると「120点のように驚愕の最大瞬間風速はないが、全てのにぎりが95点を超えて来る」お店。よほど無感動な人でない限り当店の鮨は楽しめます。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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