マ プール(Ma Poule)/東大前

フランス東部のジュラ地方に対する殆ど信仰にも似た深い献身で有名な「マ プール(Ma Poule)」。文京区の閑静な住宅街に位置し、ひときわ目を引く鮮やかな黄色の外観が目印。地下鉄の東大前駅から歩いて5分ほどです。
店内はカウンターが数席にテーブルがいくつかで、トータルでは十席強といったところ。暖かいニュートラルカラーを基調とし、親密で温かみのある空間です(写真は一休レストラン公式ページより)。

市岡徹也シェフは辻調理師専門学校を卒業後、「トゥールダルジャン 東京」でドミニク・コルビ氏の薫陶を受け、渡仏後はバスク、リヨン、ブルターニュ、ブルゴーニュ、ジュラなどで経験を積んだようです。帰国後は銀座「Le 6ème sens」や「フレンチ割烹ドミニク・コルビ」で活躍し、2017年に当店を開業。
柔和なマダムが提案するワインはジュラ地方産のものに厳格に限定されており、文京区のジュラシックパークです。ワインのペアリングは料理との完璧なマリアージュを実現しているので、余程の事情が無い限りはペアリングでお願いしましょう。
アミューズはエスカルゴのフラン。フランス産エスカルゴのキュッとした弾力ある食感が楽しく、ニンニクのパンチのある香りとパセリの清涼感あふれる緑の香りが心地よい。土台は茶碗蒸しを彷彿とさせる卵と出汁であり、絹のように滑らかな舌触りと凝縮された優しい旨味が特長的。
続いて川魚のアマゴ。特有の清らかな香りと繊細で上品な甘みが印象的。身はしっとりと保たれ、表面を覆うタレっぽいやつの滑らかな口当たりと融合し、旨味が凝縮されます。ソースはフロマージュブランがたっぷりで、その爽やかな酸味と乳製品の優しいコクが淡白なアマゴの味わいを重くならずに引き立てます。
生のアマゴと根セロリも添えられます。セロリの独特な土の香りに加え、シャキシャキとした食感が、全体にリズミカルなアクセントを加えます。
ライ麦パン。ライ麦特有の燻製にも似たスモーキーな香りに加え、しっとりと水分を含んだ密度の高い重厚な食感。ほのかに甘酸っぱい独特の酸味も感じられ、先のフロマージュブランに良く合います。
続いて鰻。濃厚な脂の旨味とふっくらとした身質がクラシックな赤ワイン煮込みによって新しい表情を見せます。赤ワイン由来の深いコクと芳醇な果実香に加え、トリュフの官能的な香りが重なり料理の格を一気に引き上げる。ジュラ地方を代表するチーズ「コンテ」のナッティな風味も見逃せない美味しさです。
スペシャリテの「伊達鶏とモリーユ茸のヴァン・ジョーヌソース」。ジュラ地方を代表する料理「コック・オ・ヴァン・ジョーヌ」の伊達鶏バージョンであり、鶏のしっかりとした肉質と凝縮された旨味を濃厚でクリーミーなソースが贅沢に包み込みます。ソースにはもちろんジュラ特産のヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)を用いており、その独特の熟成香が料理全体に深みと複雑さ、長い余韻を与えています。美味しすぎて夢にまで出てきそうだ。
デザートは秋の味覚が詰まったパフェ。紅玉リンゴの持つキリッとした酸味とキャラメリゼによるほろ苦く香ばしい甘さが主軸を形成しており、そこに栗のペースト(?)が加わり優しく素朴な甘みとホクホクとした食感を添えます。「ガトー・アルボワジアン」というジュラ地方アルボワの伝統菓子も含まれており、徹頭徹尾ジュラシックワールドである。
お茶菓子はマドレーヌ。焦がしバターの芳醇でナッティな香りと卵の優しい甘みを楽しむ
素朴ながら温かみのある、懐かしくも幸福感に満たされる味覚です。
ヴェルヴェーヌのハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。

以上のコース料理が1万円強で、ペアリングのワインをたっぷり楽しんでも2万円でお釣りがきました。素晴らしい。何が素晴らしいって、一過性のトレンドを退け、シェフ自身の個人的な専門知識と揺るぎない真正性を最優先するという誠実な決断が素晴らしい。最近の東京の潮流である「イノベーティブ」や「フュージョン」とは対極に位置するコンセプトであり、幅広さよりも深さを、斬新さよりも本質を追求するその姿勢は、ひとつの文化的な表明と言えるかもしれません。次回のフランス旅行の際にはジュラ地方を訪れようと決意した夜でした。

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