日本料理とらや/円山公園(札幌)

円山公園駅から歩いて数分に位置する「日本料理とらや」。ミシュラン1ツ星で、食べログでは百名店に選出されています。お向かいには「すし善」、近くには「姫沙羅(ひめしゃら)」「料理屋 素(そ)」など、和食の名店が綺羅星のように連なるエリアです。
2階建ての一軒家レストランであり、1階はカンターに個室。2階にも個室がいくつかと使い勝手良し。

丸山聡士シェフは北海道出身。ご両親は天ぷら店を営んでいたそうで、まさにサラブレッドな料理人。彼も「東京竹葉亭 札幌店」では料理長を5年務められたそうです。
この日は鰻のみを用いた「うなぎ特別会席」を予約。まずは鰻の肝のカナッペに鰻の南蛮漬けに鰻の煮凝り。日本人はパテとエスカベッシェ、ジャンボンペルシエを鰻という食材で表現するのだ。鰻は煮込むのみのフランス人に食べさせてやりたい気分です。
煮鰻の巻き寿司にう巻。煮鰻は良いのですが、シャリ(?)と海苔に課題を感じます。う巻はしっかりと火を通した凝縮感の強いものであり、「うなぎのしろむら」のような出汁シャバダバ系とは真反対のベクトルで面白かった。
鰻の肝焼き、うざく、鰻のお出汁を用いた茶碗蒸し。鰻の肝焼きが絶品。鰻の美点が極限まで濃縮されており、コロナのせいで酒と合わせられないのが悔やまれます。うざくもこんなに上品なうざくがあるかと思うほど緻密な仕上がりであり、鰻屋で食べるうざくとはまた違った魅力を感じました。
燻製した鰻をサラダ仕立てに。鰻をサラダにつこてまうなんて前代未聞。ふんわりとした薫香が食欲を刺激し、あっという間に平らげてしまいました。
白焼きはコースの中のひと皿とは思えないポーションで登場。ちなみに当店の鰻は鹿児島からの直送品。彼の地ではバリっと焼くだけの焼魚方式が主流なので、当店のように関東スタイルの蒸し工程を挟んだ鹿児島産は珍しいスタイルと言えるでしょう。
冷製の焚き合わせは揚げ煮した鰻にお茄子など。この揚げ煮もべらぼうに美味しいですねえ。これだけでいくらでも食べ続けることができ、量さえ確保できれば3年ぐらい食べ続けるかもしれません。
〆のお食事はもちろん鰻丼、なのですがちょっと待てタンマ、何だこのビッグサイズの鰻丼は!〆のお食事だけで驚きのフルファイトであり、東京の鰻屋で食べればこれだけで5千円は超えるかもしれません。
調理は関東スタイルの鰻であり、香ばしい焼き目を湛えつつもフワフワとした食感を奏でます。タレにクドさは1ミリも無く、岡副麻希のような健康的な味の濃さを感じました。個人的にはフォッサマグナより西の地焼きバリバリスタイルを好むのですが、まあそのあたりは宗教論争のようなものであり捉え方は人それぞれでしょう。
甘味はとらや特製あんみつ。このあんみつも丁寧に作られており、素朴なデザートが多い和食においては心躍る手の込みようです。

お酒を飲まなかったのでお会計はひとりあたり1.4万円。これだけ上質の鰻をたんまり食べてこの支払金額はリーズナブル。大津の「う嵐」のような直球勝負の鰻も良いですが、当店のようにひとつの食材でバリエーション豊かにあれこれ試すのも楽しい。次回は普通(?)の時期にお邪魔し、お酒と共に鰻でない王道の日本料理コースを楽しんでみたいと思います。

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