La Palme d'Or/Cannes


カンヌのグランド・ハイアットのメインダイニング。ミシュラン2ツ星のフレンチレストラン。
ホテルの正面入口脇の専用エレベーターで登り、プライベートプールを横目に長い廊下を進むと
海を望む最上のテラス席が広がっていました。ここまで開放的なレストランは中々ない。客層も素晴らしい。コート・ダジュールの人々はTシャツい短パン、ビーサンの人が殆どで、街中を歩く際に革靴にジャケットを着ている私は完全に場違いだったのですが、当店のゲストは皆きちんとドレスアップしていたので、ああ、面倒臭がらずにちゃんとしていて良かった。

数年前、40代半ばのビジネスマンと食事した際に「テーブルマナーなんてクソ食らえ。笑顔でテーブルを囲むことができればそれでいいじゃないか」と意見されたことを思い出しました。個人的にそういうことを言って良いのはGパンにTシャツでもサマになるAリストのみであり、市井の人にそのように熱弁されても苦笑いでしかありません。
食前酒にはテタンジェのロゼでシュワリング。ランチ限定のプリフィクスコースをお願いしたのですが、選び方が中々に難しく20分近く悩んでしまい、その間にシュワちゃんは蒸発してしまいました。これぞフランス式の食事。ザ・心の余裕。
お通しは薄い煎餅のようなものと思いきや、ひとひらのパイ生地のような食感で、ホロホロと舌先で崩れて行き、余韻にしっかりとしたバターのコクが残る。ありそうでない、不思議な食べ物でした。
アミューズは奥からキャビア煎餅、パプリカパウダーをまぶした豚肉のリエット、緑色はギモーブ(マシュマロみたいなやつ)。

キャビア煎餅は磯の香りの凝縮感が素晴らしい。リエットも高踏的な豚肉そのものであり、目が覚めるような色彩に心を奪われます。一方、ギモーブはどうでしょう。かなり甘く、最初に食べさせるものとしては疑問を感じました。
円盤型はラヴィオリで中身は緑色の酒が進む何かが入っています。パフを身に纏うはフォアグラ。まだ何も始まっていないのにこの壮大なウォーミングアップには脱帽する。
フォカッチャはローズマリーとプレーンから選択することができたので、前者をチョイス、オリーブオイルは地元の最高品質らしいのですが、フォカッチャ自体がフワフワでフォカッチャらしくなく、オリーブオイルも期待させておきながら味わいは中くらいといったところです。
マンダリン・オリエンタルのようなフォルムはイカスミのパン。極めて印象的な外観であるものの、味わいはごく普通。隣はチーズのパン。こちらはイカスミと正反対で、何の変哲もない見かけではあるものの、チーズのコクがしっかりと活きたものです。
バターは有塩のものと無塩のもの。立派な外観ですが味わいは一般的。これ残っちゃったのどうするんだろう。料理に使うのかな。
私の1皿目はラムとイチヂク。何とも見目麗しいプレゼンテーション。ラムは殆ど火が通っていないのですが、どこまでもクリアで透明感のある味わい。ウルトラチョップのラムのたたきを思い出しました。イチヂクも程よい完熟感でラム特有の香りにぴったり。最高の前菜ここにあり。
妻の前菜は牡蠣。どこがどう牡蠣なのか非常に興味深い。彼女は終始無言でニコニコし、たまに言葉を発するかと思うと「海だ海だ」という謎の呪文だったりするので、いずれにせよ満足しているのでしょう。

ちなみにランチコースは各人にハーフボトルのワインがついてきます。妻は完全にソムリエ任せ、私は赤とだけ指定してソムリエに託します。
が、なぜか私に供されたワインはボルドー。え?ボルドー?と思いながら、ソムリエに任すと言っておきながらやっぱ止めたは失礼極まりないので、そのまま受け入れ、結果として残念大臣となってしまいました。

恐らく料理にもワインにも罪はなく、気候に合っていないだけ。そういえば南仏に来てから泡とロゼしか飲んでいない。4日目にしてようやくの赤ワインです。重すぎる。暑苦しい。
妻の2皿目はエビ。2日前に彼女は海老を食べ過ぎ、夜中に具合が悪くなっていたので、「あたしは海老アレルギーになってしまったかもしれない」と暫く思いつめていました。そんな彼女がここに来て海老ですよ。「海老だ海老だ」とご満悦の妻。お前のような病人がいるか。
私はイワシ。何と見事なイワシの発表会。見掛け倒しではなく享楽的な味わい。苦味が旨味を引き立てる。付け合せはイカスミを練り込んだマカロニ?イカに類するコクがスイスチャードを包み込み、これだけでもうユニークな逸品です。
私のメインディッシュは牛肉にマッシュポテト。これはベタベタなフランス料理であり、良い意味で何の工夫もなく美味しかった。周りのシュー生地のようなものも、生地そのもののレベルが高いです。ここにきてようやく料理がワインが追いついてくれました。

ところでワイン、「ひとりにつきハーフボトルが1本ついてくる」という説明だったのですが、実際はフルボトルから適当に注いでいく方式でした。つまり、数名のソムリエが、私の液面が下がる度に入れ替わり立ち替わり注いでくれるので実質的に飲み放題。体感的には1本近く飲んだかも。重いだの暑いだの言いながら失礼しました。
妻のメインはLeerfishという名の魚。「マグロみたい」とのことです。黒い豆の付け合せの色合いも思い切りがあって良いですね。
デザートに入る前の儀式として、謎の手づかみ一口ショコラ。味わいは悪くないのですが、唐突に手づかみさせる狙いは良くわかりません。
私のデザート1皿目はラズベリーアイスをラズベリーで支えるというラズベリー特集。南仏特産の花ズッキーニのムースが愉快なアクセントです。
妻はマシュマロをチョコレートでコーティングした目を引く一皿。マシュマロの中にはキャラメルクリームがたっぷりと詰まっており、見ているだけで焦げた甘さに恋をしそうになります。
私のデザート2皿目は、ポップコーンのような風味が漂うズッキーニのスフレにラズベリーのアイス。先の皿と食材丸かぶりですが、これはシェフの意図があってのことでしょう。ヴァニラの香りが心地よく、独創的な味わいで文句なしの逸品です。
妻はチョコテリーヌ。「チョコは当然、ドライフルーツまで完璧に美味しい」とのことでした。
ミニャルディーズ(小菓子)は手前から甘酸っぱいゼリー(ラズベリー?)、スミレのギモーブ、マカロン生地を台座にした柑橘系のムース、一番奥がラズベリーのパルフェです。最後の最後まで全く手抜き無し。恐れ入りました。
ゆったりとしたエスプレッソでごちそうさまでした。一般的にフランスのコース料理は代金にコーヒーが含まれていないので、お会計で1杯8ユーロとかチャージされていて愕然とすることが多いのですが、当店は明朗会計、ピッタリとコース料金に含まれています。
〆に巧緻を極めたひと口のキャラメル。ごちそうさまでした。

お会計を見てひっくり返りそうになりました。総額200ユーロ。ひとり200ユーロの間違いではないかと何度も伝票を見返しましたが間違いはありません。こんな有用な1万円があるか?

海に面したテラス席で完璧な接客に最上の味覚。おなかいっぱい食べてたっぷり飲んで、ひとり100ユーロポッキリという奇跡。皆さんコート・ダジュールに来る機会があれば是非どうぞ!



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