ウルトラチョップ/神楽坂

リアルな口コミ、すなわち信頼のおけるグルマンや趣味嗜好の合うお友達から情報を仕入れることができるかどうかがますます重要になってきました。情報化すればするほどアナログ化も進む。なんとややこしい世の中なんでしょう。

さて、渦中の「ウルトラチョップ」。私は麻布十番店をしょっちゅう利用しています。麻布十番の夜は早いので3次会などでは難民になりがちですが、麻布十番店は朝の4時まで開いているという、夜光虫にとっての最後の砦。ボトルワイン1本を2人でわけ合って、ちょこちょこつまんでも総額6~7,000円におさまるのでちょうどいいでしょ。今回は、その神楽坂店へ4人でお邪魔します。
麻布十番店はカウンター主体ですが、神楽坂店はテーブル主体。奥行きもあり結構広い。カーテンで仕切られた個室風の席もあります(写真は食べログ公式情報より)。
ロゼ泡で乾杯。赤系ベリーの健康的で可愛らしい香りが印象的。発泡は控えめで飲み易く、スルスルと飲み干してしまいました。
白桃の冷製カッペリーニ。季節感たっぷりの逸品。大量の瑞々しい白桃に髪の毛のように細い冷製のカッペリーニが見事な調和。細い麺って調理が難しくデロデロに茹ですぎたり塊になって食感が悪くなることが多いのですが、当店のそれは1本1本ハラリと解け、心地よく味付けもされており印象的。先頭打者がスリーベースヒットを打ってくれた感覚に似ています。
メゾンカイザーのパンは食べ放題。小麦の丸みを帯びた味わいと攻撃的にバリっと焼いた皮目が堪りません。
オーストラリアの気鋭のワイナリー、First Dropのワインがたんまりとオンリストされていました。翌週にはオーナーが来日し、当店でメーカーズ・ディナーを開催するとのこと。アイレンにシャルドネとピノグリをブレンドし、溌剌とした味わいで夏にぴったり。
ラムのたたき。新鮮なのでしょう、ラム特有の臭みなどは一切ありません。一方で、肉の味は極めて濃い。スライスも厚く、噛めば噛むほどに羊肉の享楽的な味わいに漬かることができます。花びら状に削られたテット・ド・モワンヌ(チーズ名)による旨味の演出も心憎い。
稚アユと夏野菜のフリット。ラムだけでなく魚介類も豊富。鮎のほろ苦さと太陽に溢れた夏野菜を共に食す幸せと言ったらない。特にヤングコーンが良かったです。健全な甘味たっぷり。
スペインのシャルドネ。ギンギラギンの太陽にぐわーって照り付けられたようなワインです。完熟トロピカルフルーツのように濃厚。樽からのバターもたっぷり。酸もある。レーダーチャートで表現すると全項目が最大値のような味わいで意外とバランスも良かったです。
スモークチーズ。マッチ箱大のチーズがドンドンドンドンと並べられ迫力満点。ミルクの濃さに薫香が相俟って酒が進みます。シンプルなツマミですがわかり易くてすごく好き。
真打登場。ラム様です。通常はラムチョップとして1本1本の調理ですが、我々は良く食べる4人組であったため、8本分をガツんと塊で炭火焼にして頂きました。トリュフマスタードは以前よりもトリュフの香りおよび味わいが濃くなった気がします。つまり美味しく、皆で限られた液体を奪い合う。

「あたしトリュフ大好き。この前スペインに行ったとき、業務用市場で何キロもトリュフ買ってさ。劣化しないようにホテルの室温を22℃とかに保たなくちゃいけなくって、大変だったんだから」。ちなみに彼女はレストランで提供するわけではなく、全て家庭消費用とのこと。「朝は毎日トリュフオムレツ♪」豊かな生活の横綱である。
贅沢に2本分まとめてかぶりつく。断面は5×5センチほどの大画面なのですが、サクっと噛み切れるほど柔らかい。香ばしい炭の香りとクリアな羊肉、ジューシーな肉汁、完璧な火入れ。皆、黙々とあっという間に食べ切ってしまいました。ハンドボール程の肉塊が数分で骨と化すのは痛快ですな。
ダークチェリーやブラックベリーのはっきりとしたアロマに若干のスパイシーな香り。樽の香りとラムのスモーキーな味わいが名コンビです。アルコール度数が高いのかやや甘く感じ、どっしりとした濃密な飲み応えで凄く好き。あと、このワイナリー、エチケットが面白いですね。
シェフは魚介料理にも強いとのことで、お任せで自慢の1品をお願いすると、アイナメのアクアパッツァが登場しました。アイナメの品質が良い。白身はクセのない上品な味わいであり、淡泊な中にも旨味がハッキリと感じられます。小骨も無く食べ易いのがいいですね。一方で、皮の脂はこってりとしておりそれはもう天上の美味。

数々の魚介類から抽出されたスープは一口一口に深みがあり、大ジョッキで注文して好きなだけ飲みたい。バゲットで名残惜しく皿を拭って最高かよ。
合わせるワインは南アフリカのシャルドネ。これが驚くほどレベルが高く、ブルゴーニュの傑出した作り手のそれだと言われても信じてしまうと思います。品の良い樽の香りとバターのようなふくよかさ。宝石を溶かしたような味わいで、本日一番のワインで賞。
〆の炭水化物。ラムの自家製ソーセージと焼きとうもろこしのリゾット。独特のコクに溢れたソーセージに愛くるしいチーズの旨味。他方、とうもろこしが暴力的なまでに甘く存在感抜群です。斬新なリゾットだなあ。世の中には旨い飯が無限大に溢れている。

「じゃあ、そろそろカラオケ行きますか!」と、店先からタクシーで乗り込み麻布十番へ移動します。「ウルトラチョップ麻布十番店」の前を通り過ぎるのが何だか可笑しかった。記念にUltra Soulの替え歌でウルトラチョップ!とシャウトしたら盛り上がりました。

翌朝は左手に原因不明の激痛。何事かと記憶を巡らせると恐らくタンバリンの叩き過ぎ。どうしよう、恥ずかしくて病院行けない。まず何科に行けばいいかわからないし、「カラオケで盛り上がってタンバリンを叩きすぎたかもしれません」だなんて死んでも言えない。



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神楽坂に特化したグルメ本は以外と少ない、というか紙媒体ではほぼ皆無。本書はKindleからでも読みやすく、コンパクトにまとまっているので使い勝手が良いです。安いですし。