シチリア屋/白山

シチリア島の郷土料理とシチリア産ワインを専門とする「シチリア屋」。都内では珍しいニッチな業態で、食べログでは百名店に選出されています。白山駅や春日駅、東大前駅から歩いて10分ほど。大通りから一本入った住宅街にあり静かな環境です。
店内は深みのある青い壁と木の温かみがある落ち着いた雰囲気。客席のレイアウトが変わっていて、写真のカウンター席に加え特大テーブルを数組でシェアして利用するスタイルです。

大下竜一シェフは都内のイタリア料理店で経験を積んだのと渡伊。プレシアやフィレンツェに加え、シチリアでも腕を磨きました。自転車でシチリア島を1周したこともあるそうです。
酒は高くなく、グラスワインはいずれも千円強といったところ。シチリアのクラフトビールの用意もあり、興味深いドリンクプログラムです。
付き出し4種。ツブ貝やホタテの貝ヒモなど、貝類を多用するのが面白いですね。ニシンのカラスミも起用されており旨味たっぷり。何とも酒を呼ぶ導入部です。
野菜のズッパ。素材の原型を留めないほどクタクタに煮るという、シチリア郷土料理の醍醐味が詰まったスープです。赤キャベツや菜の花、からし菜、わさび菜といった、特有の苦味を持つ野菜を主役に据えており、その苦味は決して不快なものではなく、質の高いオリーブオイルの青い香りと相まって、ワインを誘う力強い味わいです。
冷前菜はニシンとフィノキエット団子。燻製されたニシンは旨味が凝縮されており、オレンジのみずみずしい酸味と甘みを纏ってお洒落な味わい。フィノキエットとはフェンネルのことで、独特の清涼感が鼻を抜けます。
温前菜はマンジャ・エ・ベーヴィにヤリイカのエオリア風。マンジャ・エ・ベーヴィは「食べて、飲む」を意味するストリートフード由来のひと品だそうで、ネギを生ハムで巻いて熱を入れています。ネギの甘みと肉の脂が一体となり、香ばしい焦げ目が食欲をそそります。ヤリイカはプリッとした食感にケッパーの酸味と塩気がキレを与えて乙な味。
こちらは「ギオッタ」という、シチリア・メッシーナ地方のお料理だそう。お魚はブリでしょうか、シンプルな仕立てで素材そのものの味わいをダイレクトに楽しみます。
最初のパスタはリングイネ。マダラの卵を用いているそうで、トマトベースのソースに細かく溶け込み、リングイネの表面をコーティングするように絡みつきます。
続いてシチリア発祥のショートパスタ「カサレッチェ」。具材にはサルシッチャ(ソーセージ)を用いており、肉の塊感とそのエキスがパスタに絡み、噛みしめるたびに肉の野生的な風味が弾けます。
お口直しにオレンジとローズマリーのグラニタ。オレンジの鮮烈な甘みと酸味をローズマリーの清涼感ある香りと共に粗削りのシャーベットに移しています。程よく苦味があって、大人っぽく奥行きのある味わいです。
メインは馬肉のビステッカ。よりも鉄分を感じる赤身の力強さが特長的で、余計な脂がないため澄んだ旨味をストレートに味わえます。
デザートはもちろんカンノーロ。映画「ゴッドファーザー」でおなじみの、シチリアを代表する伝統菓子です。筒状に揚げたサクサクの生地の中にチーズのクリームがたっぷりと詰まっており、ミルクの優しいコクと控えめな甘さで期待通りのフィナーレです。
アールグレイティーを楽しんでフィニッシュ。ごちそうさまでした。

以上のコース料理が1万円ほどで、そこそこお酒を楽しんでお会計はひとりあたり1.5万円。なるほど郷土料理の専門化という潮流の最先端に位置するスタイルで、是非ともシチリア現地にお邪魔したくなる魅力的な構成でした。ウクライナーロシアに続いて中東と、日に日にヨーロッパが遠くなりますが、せめてこうして皿の上でシチリアを旅できることを、今はありがたく思うばかりです。

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