タシケント北部のユヌサバード地区、テレビ塔の至近距離に位置する「Besh Qozon(ベシュ カザン)」にお邪魔しました。かつて「中央アジア プロフ センター」と呼ばれたこの施設は2016年にユネスコの無形文化遺産にも登録されたウズベキスタンの国民食「プロフ(オシュ)」の聖地。タシケント市内に4店舗を展開し、従業員は700人超、年間400万人以上ものゲストが訪れるというバケモノじみた集客力を誇る巨大チェーンです。
店名の「Besh Qozon」は「5つの鍋」を意味しますが、屋外のオープンキッチンには直径2メートルを超える巨大な鋳鉄製カザン(鍋)がそれ以上の数並び、薪の直火で一度に数百人から数千人分のプロフが炊き上げられています。
1台のカザンで最大1,000人分、あるいは5,000kg規模の材料を一度に処理できるというそのスケールは、単なる調理を超えた食のパフォーマンス。職人が大きなシャベルのような道具で米や肉をかき混ぜるライブ感あふれる光景に圧倒されます。訪れる客は食事の前にこの調理エリアを通り抜けることで、プロフが完成するまでのもうもうと立ち上る蒸気とスパイスの香りを全身で浴びる儀式を体験することになります。
なお、プロフという料理は巨大な鍋で一度に大量に炊き上げ、それを数時間かけて提供するという特性を持っています。そのため午後遅い時間には人気のメニューから容赦なく売り切れの憂き目に遭うのが常態化しています。これは鮮度の高いプロフを提供し続けるという品質保持の裏返しでもあるのですが、せっかく訪れたのに目当ての品にありつけないのは悲劇でしかありません。ベストな状態である炊きたてを狙うべく、万難を排して11時半〜12時頃に突撃するのが、当店を楽しむための絶対条件です。
店内へ入ると、ソ連時代のブルータリズム建築を彷彿とさせる高い天井と広大な空間が広がります。内部装飾には精緻なウズベキスタンの伝統的意匠が施されており、巨大なシャンデリアや中央アジア特有の幾何学模様が刻まれた柱、そして何百ものテーブルがズラリと並ぶ様子は、さながら「プロフの宮殿」と呼ぶにふさわしい威容です。
ちなみに屋外にはテラス席も用意されており、乾燥したウズベキスタンの熱気と風を感じ、そびえ立つテレビ塔を望みながら開放的な気分でプロフを掻き込むのもまた一興です。宮殿のような屋内で厳かに食すか、オープンエアでワイルドに楽しむか、その日の気候や気分に合わせて座席を選べるのは、このマンモス店ならではの強みと言えるでしょう。
巨大なホールの座席運用は至って合理的、というか放任主義です。入り口で案内を待つような野暮なことはせず、空いている席を見つけて勝手に陣取ればOK。着席するとほどなくして、忙しなく立ち働くスタッフがテーブルへとやって来ます。言葉の壁に怯む必要はありません。メニューを指差すだけで注文はすんなりと完了し、あとは席で待っていれば熱々のプロフが運ばれてくるという寸法です。この荒削りながらもシステマティックなオペレーションが、1日数千人を捌くマンモス店の回転率を支えているのでしょう。
ちなみにプロフのメニューは写真付きで何とか理解できるのですが、サラダ類は文字列のみの表記であり、グーグルレンズで読み取るなどまごついていると「こっちに来い」とサラダの待機場所へと連れてこられ、ここで指差しオーダーさせてもらいました。言葉なんてできなくても何とかなるのだ。
イスラム圏の大衆食堂であるためアルコール類の提供は無く、「ノンアルコールモヒート」で乾杯。フレッシュなミントとたっぷりのライムの酸味が効いた爽快な一杯です。ウズベキスタンの乾燥した気候とこれから始まる脂ギッシュなプロフに対する食中ジュースとして、実に理にかなったセレクションでしょう。見た目にも涼しげなグリーンが、茶色系の多いテーブルに彩りを添え、現代的なウズベキスタンのランチスタイルを演出してくれます。
サラダは2種を注文。まずはプレーンな「アチチュク」。完熟トマトにキュウリ、スライス玉ねぎを塩で和えただけのシンプルな代物ですが、ウズベキスタンの強烈な太陽を浴びて育った野菜は暴力的なまでに味が濃い。素材本来の力強さを感じる、引き算の美学が詰まった一皿です。
もう一つは伝統的な濃縮ヨーグルト「スズマ」で和えたタイプ。中東のザジキやインドのライタにも似ていますが、よりコクが深いのが特徴です。乳酸菌の働きが消化を助け、ディルやコリアンダーなどのハーブが清涼感を与えてくれます。これらが後述するプロフの油分を洗い流す最強の脇役となります。
まずは「TO'Y OSH(トオイ オシュ)」。結婚式などのお祝いで供されるプロフです。牛肉や羊肉の塊に、黄色い人参(ムシュナク)、レーズン、ひよこ豆がたっぷりと炊き込まれています
。米一粒一粒が黄金色の油膜を纏い、人参の優しい甘みとレーズンの酸味が絶妙なバランスで迫り来る。カロリーの暴力ですが、食べる手が止まりません。ちなみに写真は0.7人前のスモールサイズですが、日本のラーメン大盛ぐらいの食べ応えがありました。
続いて「CHOYXONA OSH(チャイハナ オシュ)」。こちらは男子(?)が集まって作るワイルドなスタイルであり、米はより茶色く色づき、羊の脂(ドゥンバ)の香りが強烈に鼻を突き抜けます。トオイ オシュのようなお上品な甘さはなく、ニンニクや唐辛子が丸ごと炊き込まれており、ほのかな辛味とパンチの効いたコクが米に浸透しています。トッピングによる装飾よりも、肉と油、そして火力の強さが生み出す米の旨さそのものにフォーカスした味付けと言えるでしょう。ガツンとした食べ応えを求める現地の常連客に人気が高いのも頷ける、男のための炭水化物です。
ちなみにいずれの注文も「Komplet(コンプレット)」というトッピング全部のせバージョンでお願いしました。プロフという料理はも元来おもてなしの料理であり、トッピングが最初から全部乗っている状態こそが完成形とされているそうです。
ちなみにトッピングは「カジ」という馬肉の特製ソーセージのスライスにウズラの卵が2つ、「ドルマ」というブドウの葉で肉や米を包んで蒸したものであり、それぞれから出る独特のスパイス感や塩気がプロフの油と混ざり合い、より重厚で複雑な味わいになっているような気がします。
腹がはち切れるほど炭水化物と脂を摂取して大満足。ウズベキスタンという国を胃袋でダイレクトに理解するための壮大なエンターテインメント施設です。いずれのプロフも700-800円で、サラダ類も300円かそこらなので、コスト度外視でバンバン注文しましょう。オススメです。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。














