abysse(アビス)/代官山

もともとは青山「フロリレージュ」の跡地に、魚介専門のフランス料理店として開業し話題となっていたのですが、いつの間にやら代官山に移転していました。代官山駅と恵比寿駅の間、やや代官山寄りといった立地です。
おおー、店名(深海)を彷彿とさせるシックな内装にオープンキッチンが格好いい。格好いいのは良いのですが、こんなに厨房の照度が低くて手元が狂わんのかな、というほどルーメン暗めです。ここはひとつインテリアコードに合わせてブラックな服装で訪れましょう。
目黒浩太郎シェフは都内のレストランを経て渡仏。帰国後は「カンテサンス」を経て2015年に当店を開業。ミシュラン1ツ星。
アミューズはムール貝。ほんのりと温かく手の込んだひと品で好印象。
コハダ。フランス料理でこの食材を起用するのは珍しく、トマト系統の酸で仕上げているあたり、フレンチ×魚介をコンセプトとした矜持を感じました。
タケノコ(?)にエンドウ豆のソースとパステルな色合いですが、底には剣先イカが横たわっており、不思議とセクシーな味覚です。
こちらは太刀魚。普段は塩焼きでしか食べる機会が少ないので、細切りで半生調というベクトルには気づきがあります。
パンは麻布十番「Comète(ブーランジュリー・コメット)」謹製。たまにテイクアウトで買ったりはしているのすが、旨いがめっちゃ高ぇなあという印象であり、そういう意味でこういった形で出会えると素直に味覚に向き合えて良かったです。
ピスタチオ豆腐の揚げ出しにウニ。ウニが旨いのは当然として、ピスタチオ豆腐がグリーン系統の生麩のようで面白かった。
イクラ。すごくすごく美味しいのですが、やはり魚卵をワインと合わせるのは難しいなあという印象。もちろんペアリングでソムリエにお任せしていれば結果は違ったのかもしれませんが、成功も失敗も自分の手で選びたいボトルワイン族には難しいひと皿でした。
お、この伊勢海老は美味しいですねえ。海老の深い甘味に加え、イカスミを活かしたソースの味覚に397。思いのほか赤ワインの合うひと皿です。
小柱には落花生とレンズ豆を組み込んでおり、貝の旨味以上にお豆ちゃんたちのうそ甘い風味に身を委ねます。外観は地味地味ですが、私はとても好きな味覚でした。
こちらはアナゴ。調味にヴィネグレットを起用しており酸味が強く、どことなく納豆のような風味が感じられます。私はこういった蛮勇とも言うべき試みは好きですが、好みが大きく分かれるかもしれません。
メインはアカムツ(ノドグロ)。フランス料理で用いられるのは珍しい食材ですが、コッテリとした脂の乗り具合など欧米系の料理にも良く合います。みずの実の食感や赤万願寺唐辛子のソースなどのセンスが良く、ノドグロの未開拓領域を垣間見ました。
デザートはちょっと雑ですねえ。味そのものは悪くありませんが、嬌声が上がるといった外観ではなく、これまでの魚介料理に比べると物寂しい。
デザート2皿目もコミットしてる感じがない。パンも仕入れ品ということを考えると、あまりデザートとかパンとかワチャワチャした部分に興味が無いお店なのかもしれません。5年ほど前に訪れた際も同じ印象を受けた気がする。
ハーブティーで〆てごちそうさまでした。割にしっかり飲んだので、お会計はひとりあたり3.5万円。通常コースにペアリングを付けて楽しめば3万円程に着地するはずであり、立地やサービス、独創性、食材の質の高さを考えれば妥当な支払金額です。

一方で、肉は出ずデザートも貧弱ということを考えると、保守的なフランス料理ラヴァーにとっては物足りなく感じるかもしれません。加えて、ひと通りフランス料理を食べているゲストにとっては面白いかもしれませんが、あまりフランス料理に慣れていない方が「今夜はフレンチだ!」と意気込んで臨むと肩透かしを食うでしょう。

玄人好み。グルメ仲間と共にどうぞ。

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