夕星(ゆうづつ)/恵比寿

銀座のクラブでバイトリーダーを務める元モデルちゃんから久々の呼び出し。彼女は何か事件があったときしか私に連絡を寄越さないので、どうせろくでもない相談なのでしょう。
恵比寿から代官山方面へ。坂の途中のナナメってる建物の1Fにオープンした「夕星(ゆうづつ)」。並木橋「レザンファン ギャテ (Les enfants gates)」が手掛ける蕎麦屋です。
北斎などあの頃の絵がたくさん掛けられており、和モダンとはまた違った不思議な内装。カウンター席にテーブルがいくつかあり、ウォークインでも入れますがグループの場合は予約を入れたほうが良いでしょう。メニューは豊富でアラカルト注文はもちろんのことコース料理もあり、我々は「今宵ノ酒ト蕎麦ヲ愉シム」という3,500円の蕎麦コースを注文しました。

1年以上ぶりだねえ。どう?『係』の仕事の調子は。「仕事なんてしてないわ。毎日機嫌よく遊んで暮らすのがあたしに課せられた使命よ」彼女は小さく鼻を鳴らす。
酒は高め。中ビンは税サを含めれば千円近く。日本酒はいずれも1合で千円台半ばです。蕎麦屋でサービス料というのは変な感じ。

「あけましておめでとう」普段、夜の仕事で酒をあびる優に飲んでいるためか、炭酸水で乾杯する彼女。おや、そういえば靴もペタンコだ。いつもはキリンのようなヒールを履いているというのに。ってことは、妊娠したの?
前菜三種盛り。この日は牡蠣にレンコンの梅肉和え、鴨肉です。牡蠣がでっぷりと太りつつも凝縮感があり美味。思わず牡蠣の天ぷらも追加で注文してしまいました。

「いきなり本題に切り込んでくるわね。そうよ、悪い?」悪いだなんて一言もいってないよ。良かったじゃないか、おめでとう。形式的な祝辞を述べて、私は食事を続ける。
「レザンファンギャテ特製 コラーゲンたっぷり、鶏肉と豚足のテリーヌ」。なるほど旨い。蕎麦屋らしく(?)ポーションは控えめであり、上手く盛り付けられているので不思議と蕎麦屋のツマミに見えてきます。

「なによ、もっと詳しく聞いてこないわけ?」私が口をつぐんでいると、彼女は勝手に話し始めます。「コロナでお店が閉まっちゃってさ、そしたら馴染みの客から連絡が来るようになって、店を介さずに会うようになって、そしたら結構悪くなくて、付き合うようになって、しばらくしたら生理が来なくなって」生理の代わりにいつか来るはずの未来が急に来たってことだね。三流芸能人にはお似合いの末路だね。
こちらも追加で注文した牛すじ煮込み。どろどろの煮込みではなく、しっかりと肉の造形を保ったまま澄んだスープに浮かんで登場します。

「どうして憎まれ口ばっかり叩くの?素直に祝福しようって気はないわけ?」憎まれ口も何も、一般人として素直な感想を述べているだけだよ。きみが思っている以上に、世の中はきみに対して関心がなくて、それは僕も同じだ。でも、大き過ぎる野望は挫折のもとだから、そのへんで手を打つのも悪くない人生だと思うよ。ここがロドスだ、ここで跳びなよ。
ごぼう天麩羅。これはまあ、普通のゴボウの天ぷらですね。こんなにゴボウばっかしいらんくて、何か他のタネとの盛り合わせのほうが嬉しいかも。

「カレ、〇〇の××で△△なわけだから、異性関係には色々シビアなのね。だから、あたしが夜の仕事をしてたってことは色々と問題があるみたい。そもそも芸能界に居たってことも気に入らないみたい」自分はそういうお店に行って店外で中出ししておきながら随分と勝手な男である。
追加で注文した牡蠣の天ぷら。前菜で見込んだ通り牡蠣の質が良い。この2粒が700円というのは悪くない費用対効果です。

「今夜みたいに、男の人とふたりきりで会うのはもうダメなのね。だから、もうあなたとは会えない。わかってくれるかしら?」わかるも何も、きみの人生だ、きみの好きにすればいいよ。もともと僕はきみにとってBGMのような存在だったってことは、僕が一番よくわかっていたし。
蕎麦に入ります。「もりと粗挽きの二種盛りセイロ」と題されており、まずは「もり」。十割であり香りが良く、細身ながら歯ごたえや喉越しに申し分なし。旨い蕎麦です。思っていたよりも量が多かったため、あんなに追加注文するんじゃなかったと少し後悔。
「粗挽き」は極太麺。品の良い二郎のような口当たりであり、モシャモシャとした食感が病みつきになります。かなり特殊な蕎麦であるため、これ単体だけで当店を判断するのではなく、やはり2種盛りで試すのが良いでしょう。

ビール1本にコース、アラカルトで2品追加してひとりあたり6千円台半ば。うーん、ちょっと高いかなあ。酒の高さとサービス料が誤算だったかもしれません。それでも蕎麦の美味しさは本物であり、やはりココは蕎麦屋、蕎麦だけを楽しみに来るのが正解なのでしょう。そういう意味ではランチが勝ち組。次回はお昼にお邪魔したいと思います。

「今までありがと。さよなら。でも、たまにはあたしのこと、思い出してね」そう言うと、彼女は平たいシューズをぺたぺたと鳴らしながら、あとを振り返りもせずそのままどこかに行ってしまった。どうせ数カ月もすれば泣きついてくるくせに。つくづくわきまえない女である。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
恵比寿も十番に負けず劣らず良い街ですよね。1度住んで、片っ端から食べ歩いてみたいなあ。よそ者ながら印象に残ったお店は下記の通り。
恵比寿を中心に話題店が整理されています。Kindleだとポイントがついて実質500円ちょい。それにしては圧倒的な情報量。スマホやタブレットに忍ばせておくと出先で役立ちます。