川㐂(かわき)/三国港(福井)

冬の味覚の王者「越前がに」。福井県で水揚げされたオスのズワイガニをそう呼び、山陰では「松葉ガニ」、丹後では「間人ガニ」、石川県では「加能ガニ」と呼んだりします。ちなみにメスのズワイガニは福井では「セイコガニ」、富山や石川では「コウバコガニ」。
さてその「越前がに」を食べさせる料理屋として世界トップに君臨し続けるのが「川㐂(かわき)」。帰りのタクシーの運ちゃんも「川㐂!どうしでした!?いやあ、このあたりでも川㐂さんが一番って言われてますよ!」と興奮気味に仰っていました。食べログは4.45(2020年12月)で蟹料理としては全国1位。シルバーメダルを獲得しています。
それにしても遠い。金沢から在来線特急で小一時間でJR芦原温泉駅へ。そこからタクシーで20分ほど(3,000円強)かけてようやくたどり着きました。駐車場が広く、また、酒を楽しむ余裕がないため(後述)、金沢や小松空港からレンタカーで来るのが一番でしょう。
店内は全て個室。そこかしこにアルコール消毒の設備があり、手づかみが前提の食事だけあって感染症対策の意識はとても高く感じました。サービスのオバチャンたちはざっかけない雰囲気で半タメ語な勢いですが、結果、居心地のよい空気感をクリエイトしてくれており、世話好きな親戚の家に遊びに来たような感覚。
食事は時価でひとりあたり4.5万円~(これに税サが10%づつ加算される)ですが、アルコールは居酒屋価格であり、総額の内訳で考えれば誤差と言って良いほどの支払金額です。これなら気持ちよく飲めるなあと思ったのですが、結局カニを食べるのに忙しく、ほとんど飲む機会がありませんでした。
予約時間に合わせてカニを〆、ゲストの到着と同時にカニをボイルし始めます。茹で上がりまで30~40分を要するので、それまでの間は地元の海の幸で繋ぐという仕組み。まずは甘海老。卵のプチプチ感が楽しい。
カレイのキモを煮たもの。濃密な味わいで日本酒が進みます。
黒ひれカレイの汐入。このあたりの郷土料理らしく、こってりとしたカレイをシンプルに塩味で煮付けます。ネット上の口コミでは絶賛してる人も多いですが、私には繊細すぎるようで、普通に甘辛く煮付けて欲しかったなという感想。
セイコガニが茹で上がりました。オバチャンの指導を受けながら自力で解体していきます。
こちらはB面。左奥の個体にチラっと見えるように、メスガニの主力は卵。外子はプチプチサクサクと食感を楽しみ、甲羅の中にある鮮やかな朱色の内子はホクホクとした歯ざわりに濃密な旨味を楽しみます。まさに赤いダイヤである。
続いてオスが茹で上がりました。こちらもオバチャンのレクチャーに従いながらアチチアチチを自力で解体を進めていきます。甲羅にある黒いツブツブは「カニビル」という寄生虫の卵。年数を経て何度も脱皮したカニの硬い甲羅が産卵し易いようで、つまりこの黒いツブツブは美味しさの目印(カニはある程度年数が経っているほうが上質)だそうです。
「しがんでしがんで!」と、新出単語。調理器具でホジホジするのではなく、足の付け根に直接むしゃぶりつき、流れ出るエキスを逃さない豪快な食べ方です。なるほど旨い。ジューシーで濃厚な味わい。カニミソもレンゲでザブンザブンとダイナミックに頂きます。
ただ、確かに美味しいのですが、半分を過ぎたあたりから飽きてきます。自分でカニを解体していくのも面倒だし、同じ味がずっと続くし、しかも塩気がキツく喉が渇くしで、逃げ場が一切ない。鳥取「みつき」のように刺身やらお椀やら焼きやらフライやらで色々楽しむ方が私の性に合っています。
〆は雑炊。ここまで来るともう限界。平常時に食べれば美味しいのでしょうが、すべてを呪いたくなるようなほどカニに接した後に、あろうことかカニのエキスと塩気がたっぷり詰まったスープで雑炊とは。バカ騒ぎはバカのまま終わりました。
デザートはミカン。これが、旨い。ひさしぶりにカニ以外の味覚に接することができ味蕾が息を吹き返す。皮を剝く際に柑橘の香りがカニの匂いを打ち負かしてくれるのもすごくいい。
1人1杯のコースに酒をちょこっと飲んで、税サを加えてお会計はひとりあたり6万円弱。覚悟はしていましたが、これはさすがに高いです。もちろんお店への文句は1ミリも無く、世界一のカニを、まさにそれだけで腹を満たすという奇行に出ればこの支払金額でも仕方が無いでしょう。
費用対効果を超えた概念。「きちんとした日本料理屋なら、同じカニをしっかり使った手の込んだ料理を半額で食べることができる」などという感想を述べるのは野暮の極み。「いやあ、ひとり6万円だよ。確かに美味しいけど、もうしばらくカニはいいや」とウエメセでグルメ仲間にドヤリングするまでがセットの料金です。美食の追求というよりはエンターテインメント。酔狂なグルメ仲間と一緒にどうぞ。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。