LE RESTAURANT GIRARDIN/Colmar(フランス)

La Maison des Têtesという、街一番のホテルのメインダイニング。ミシュラン1ツ星です。そもそもLa Maison des Têtes(頭の家)の建物自体は旧市街で一番の観光スポット。1609年に建てられたそのファサードには100以上の顔の彫刻が組み込まれています。
予約時間ぴったりにお邪魔するとシェフがにこやかにお出迎え。席数の少ないレストランであり、われわれ日本人2人の他は、アメリカ人2名、アメリカ人6名、ドイツ人4名+乳児1名のみ。ドイツ人たちはベビーカーをそのままテーブルに横付けしており、子供にも優しいレストランのようです。
地元のロゼ泡を1本。35ユーロと格安。繊細な泡に花の香りが感じられる賑やかな味わい。

さてコースメニューは野菜のみのコース、魚介のみのコース、8皿コースの3種。連日のヘビィな食生活により内蔵がおつかれーしょんだったので、今夜はアラカルトで注文することにしました。
前菜とメインを1皿づつ注文するのですが、フランスのきちんとしたレストランは、注文とは別にアミューズが出て来るのが嬉しいですね。こちらは小さなタルトにたっぷりのハーブと花が盛り付けられており、一口で頂きます。ある意味スパイシーな味覚であった。
ブロッコリーのムース。なるほど野菜推しのレストランだけあって、野菜の使い方が上手いような気がします。アミューズでこのレベルが出てくるのは幸せへの第一歩である。
アミューズ2皿目。左はエビに柑橘の風味を載せワサビをアクセントにした一口であり、間違いの無い味わい。右はシュークルートの再構築であり、酢漬けのキャベツを生ハムでクルリと巻いたものでした。

それにしても隣のテーブルのアメリカ人が絵に描いたようなアメリカ人で面白い。料理に対するコメントが「ファンタスティック!」「グレイト!」「オーマイゴーッシュ!」と、いちいちチープな感想を大げさに発するので、店全体が楽天的な雰囲気になります。
アミューズ3皿目。こちらはカプレーゼの再構築。バジルソースに高品質なトマトのスライスを重ね、ブッラータをエスプーマした料理です。もちろん美味しいのですが、ブッラーダのキュムキュムした食感が失われてしまっているので、これは無理にこねくり回す必要は無かったかもしれません。

ちなみにブッラータとは、モッツァレラチーズにクリームが練りこまれたような感じのフレッシュチーズであり、私の最も好きなチーズのひとつです。
パンはビール酵母を使って発酵させたもの。なるほど独特のワイルドな風味が立って、興味深い味わいでした。それにしても注文した料理が未だ1皿も来ていないというのに、お腹が膨れてきました。
私の前菜はお野菜の盛り合わせ。ナス・ネギ・チコリ・アスパラ・豆類など旬の野菜が五線譜のように美しく盛り付けられています。レモンやトマトなどの酸味を活かしたドレッシングもグッド。
妻の前菜は採れたてのホワイトアスパラガス。一口頂きましたが、グレービーソース主体で調味しており、ピンクグレープフルーツのアクセントがやんごとない風味を際立たせています。それにしても名状しがたい美しい盛り付け。このまま針を付けて時計にして飾りたいほどです。
私はメインにウサギを指定。五反田メイのように2パターンで供出するスタイルであり、まずはテリーヌで。ウサギそのものは極めてクリアな肉質であり、無菌室で育った鶏肉のような味わいで若干味気ない。フォアグラやハーブをたっぷり練り込んで、ようやくきちんとした料理に昇華するという印象です。
ウサギ2皿目はロースト。中央はロース肉であり、じっくりと火入れされ旨味が増しているように感じました。骨付き部分は脂のシットリとした甘さが味蕾に響き実に美味しい。ウサギ由来のグレービーソースは酸味が強く、皿全体をサッパリと食べきらせるパワーがあります。

付け合せはニンジン集団。ペーストに始まり丸のまま火を入れたもの、クルっと丸めたものなど、ニンジンをここまで多種多様に食べる機会は中々ありません。それにしても、ウサギの付け合せにニンジンを用意するとは洒落がきいている。
妻のメインはラングスティーヌ(アカザエビ)。丸々と太ったアカザエビをそのままエビフライ状態に仕上げます。「エビ好きでしょ?1匹あげるよ」と、彼女は気前よく1匹そのまま私にプレゼントしてくれました。お前いい奴だな。お味は神田七條のエビフライを凌駕する見事なものでした。
チーズが良い熟成具合だったので惹かれましたが、明日からも美食の旅は続くので今夜はパス。デザートも断腸の思いでパス。
ミニャルディーズは自動的に付いてきます。小菓子に至っても手抜きなどは一切なく、それぞれが立派なスイーツとして確立している味わいでした。
妻がお手洗いに立ったのでスマホをいじりながら待っていると、奥の6人グループのホストが突然ツカツカと私の元に訪れ、「私はテキサスでワイン商を営んでいるものですが、明日のご予定は?」と公衆の面前でナンパされました。私の予定を知ってお前は何をどうしようというのだ。
名刺からウェブサイトなどを辿るとどうやら怪しい人物ではなさそうです。それにしても他にも客はいるというのに、なぜ私に声をかけたのか。今回のフランス旅行の七不思議に加えよう。
「united states of texas」の画像検索結果
お手洗いから戻ってきた妻に一連の出来事を説明すると、「テキサス!?The United States of Texas!!Ha ha!!テキサスの人ってワイン飲むの?うけるwww」と妙にテキサスをバカにする。邪悪な女である。
お会計は合計200ユーロ弱であり、日本円にするとひとりあたり1.8万円程度です。ううむ、ミシュラン1ツ星店のディナーでこれだけ飲み食いしてこの値段はリーズナブルですねえ。接客も客層も申し分なし。フランスにおけるフランス料理屋の美点を凝縮したようなお店です。コルマール観光の〆に是非どうぞ。


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ミシュラン3ツ星を50年以上維持する3軒のレストランを巡る旅」目次

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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