Audace (アウダーチェ)/中目黒

中目黒駅から歩いてすぐのイタリアン「Audace (アウダーチェ)」。参宮橋のミシュラン1ツ星イタリアン「レガーロ (REGALO)」の姉妹店であり、期待に胸を膨らませて予約を入れました。が、予約日の前々日に「従業員にコロナが出たので暫く閉める」との連絡があり、1か月後に仕切り直しての訪問です。
中央にドーンと大きなテーブルが1卓のみという不思議なレイアウト。結婚式などのバンケットのような座席配置であり、他のグループと隣り合わせ&向かい合わせでアクリルボードは無しという無防備な状態。また、お店側からドタっておいてスミマセンの一言も無く、CRMという概念からは程遠い価値観のようです。この店はヤバいと本能が警告する。
スタッフにワインリストを求めると用意が無く、また、数秒の片言隻句からこれは完全に素人だと思料。であるのにも関わらず「お好みを仰って頂ければ」などと大見得を切って来るのですが、できないことを求めるのはパワハラになるので、何本か適当に持って来てもらい自力で選ぶこととしました。ああ疲れた。その後もワインの取り扱いが本当に本当に無茶苦茶で愛情が一切感じられず、賢明な読者である皆さんはビールや炭酸水に留めるのが良いでしょう。
料理のテンポも試練とも言うべき遅さですね。最初のひと皿が出るまでに入店から30分以上が経過しており、そのような気分の中で食べるヤングコーンの味など中くらいである。しかしながら我々を除くゲストは皆、フェイスブックの友達が3千人はいそうな大らかな方々ばかりであり、皿出しの遅さにイラついている狭量な人間は私くらいだったので、これが中目黒という街の色気なのかもしれません。京都の「LURRA°(ルーラ)」みたいな客層です。香水の香りも充分に豊か。
あまりにも料理が出て来ないので厨房での出来事をじっくり観察するのですが、なるほどアシスタントの料理人はいつも何かに追われているほど忙しく、一方で、シェフと思しき人物はその様子を袖手傍観しているだけであり、その動じることの無さは全盛期のオシム監督のようです。そのような気分の中で食べるクスクスの味など中くらいである。
やはり30分の間隔があいてしまう料理。あまりにもテンポが悪いので、前菜の途中で泡を1本飲み切ってしまいました。図々しくも次の酒を注文するよう店員から促されるのですが、もうなんかこのお店にこれ以上お金を落とすのが悔しいので、ちょうどカバンの中にあったお泊り用のオプティフリーでも飲んでお茶を濁すことにします。そのような気分の中で食べるホワイトアスパラガスの味など中くらいである。
入店して90分が経過してようやく「プリモ・ピアット(第1のお皿)」が提供されました。店内は決して満席というわけではないのにこのスピード感。逆ギネスに申請したいくらいです。加えてピントのズレたボケボケの味わいであり、ツェルマット「After Seven」の時のように途中で帰ろうかと真剣に悩みました。今月いちばん悩んだ瞬間です。
タリアテッレはバターのソースで行者ニンニクが大量に組み込まれているのですが、その風味が強すぎてウニの繊細な甘味を全て塗りつぶしています。まさしくウニの無駄遣い。ムンクなら叫ぶレベルでしょう。

それにしても、この皿出しの遅さは何とかならんもんかね。そのうえ店に電話がかかってきたらシェフ自らが対応し、そのたびに厨房が停滞するのは許しがたい。目の前の客を大切にできない店が明日の客を大切にできるとは思えないのだけれど。
メインは牛ヒレ肉の炭火焼きなのですが、おや、これは結構、いやかなり旨いじゃないか。手元のオプティフリーでは力不足であり、うっかり赤ワインを注文しそうになりました。ギリギリ我慢したけど。
デザートも一応は用意されているのですが、さすがに門限に間に合わないほど遅くなってしまったので、秒で流し込んでお会計。ところでグーグルマップにおける当店の登録名称として「AUDACE アウダーチェ 深夜まで楽しめるイタリアン」とあるのですが、それはつまり日本語に訳すと、単に仕事が遅いだけという意味でしょう。
厳しい結果を迎えることとなりました。母体となるレストラン「レガーロ (REGALO)」が魅力的なだけに、山高ければ谷深しという格言が身に沁みたディナーです。母店の経営者は中目黒のこの状況を把握しているのかどうか心配でなりません。

一方で、厨房にきちんと物申すことができる職業意識の高いサービスマンがひとり居れば大化けする気配も感じられるので、広い心と深い愛で全部受け止めて、これからもどうぞよろしくね、こんな私だけど笑って許してね、ずっと、大切にしてね、永久保証の私だから。

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