とんかつ成蔵(なりくら)/南阿佐ヶ谷

食べログとんかつ部門全国1位、百名店はもちろん銀メダルも獲得しており、日本のとんかつ業界においては無敵の存在である「成蔵(なりくら)」。なのですが、2019年3月に突然の閉店。2時間待ちはザラのお店が閉店間際の駆け込み時には朝から並ぶ猛者もいたそうな。
その数か月後には南阿佐ヶ谷に移転オープン。運用が落ち着いてからはOMAKASEを用いた事前予約制へと移行。来店前の注意が記載されたメールが人生最長クラスに長いものであり、何とも注文の多い料理店です。
時間厳守。遅刻は入店不可の上キャンセル料を徴収という巨人軍のような厳しさがあるため、余裕を持って定刻の20分ほど前に到着。皆も考えが同じなのか我々と同じターンの民は皆、似たような時間に到着していました。
店員に入店を認められるまでは軒先のベンチで待機します。この間にオーダーを済ませ店内では見切り発車で調理が開始されるという段取り。このメニュー表が非常に難解で、IQ100前後を誇る私であっても読み解くことができず、店員を捕まえて解説してもらうという体たらくです。
おや、店内が明るい。移転前の店舗は地下の穴倉のような場所にあり、待ち時間にくたびれ果てた、つはものどもがゆめのあと、というハードボイルドな雰囲気だったのですが、新店舗はちょっとしたオシャレカフェのような内装。予約制になったためか女子の割合も増えており、とにかく明るいトンカツ屋といった印象です。
席について数分でもう着丼。以前は並び始めから入店まで2時間、入店後に30分という苦行とも言える待ち時間がネックでしたが、新店舗のオペレーションになってからはおよそ待たされたという気が全くしません。これぞデジタルトランスフォーメーションのパワーである。
ヒレカツ推しの私は「美ら島あぐー豚 ヒレかつ3枚付き(100g)定食」を注文。3,300円です。ひと口食べて絶句。えっっ、成蔵ってこんなに美味しかったっけ?以前の店舗では高いしそりゃあ美味しいよね、といった印象しか持てませんでしたが、今回は最高峰とも言うべきレベルの高さをビンビンに感じました。前回は体調でも悪かったのかなあ。私の味覚などアテにならないものである。
連れは「TOKYO X 特ロースかつ(180g)定食」を注文。4,980円です。ちなみに「TOKYO X」というのは日本のブランド豚の名前です。
長細いラグビーボールのような形をしたロースかつ。「白いトンカツ」として名を馳せただけあって、音が立たないほど静かな低温で長く揚げたことが手に取るようにわかります。ザクザクと広がる荒いパン粉も特長的。個人的には十番「とんかつ都」のような肌理の細かい衣が好みなのですが、当店は好き嫌いを超越したミラクルな味わいがあります。
断面は薄いピンク色で脂身が非常に多く、見ようによってはグロいのですが、これが信じられないほど軽やかに胃袋に落ちていく。私は正直言って神田「丸山吉平(まるやまきっぺい)」のような脂の旨さで勝負する味覚は苦手なのですが、当店のそれは好みのタイプを凌駕する問答無用の美味しさがありました。
単品メニューでも色々と追加しました。コチラはハモのフライ。和食と言うべきか洋食というべきか不思議な食感ならびに味わいであり、ある意味では「成蔵料理」と言えるでしょう。
手前は「ささみかつ」で奥は「チーズメンチかつ」。「ささみかつ」が秀逸。パッサパサになりがちなササミ肉がどうしてあんなにシットリとジューシーに仕上がるのでしょうか。
豚汁も美味しい。具材がたっぷりであり、飲むというよりも食べると表現すべき1杯です。おかわりは180円なのですが、これはお買い得と言える価格設定でしょう。
他方、ゴハンは凡庸です。八尾の「とんかつ マンジェ」などはこういった細部まで完璧に仕上げてくるので、当店はトンカツのレベルが高い分、ライスが悪目立ちするような気がしました。
美味しかった。本当に美味しかった。お会計は2人で1万円を超えましたが、納得の支払金額です。もちろんトンカツ定食が5千円というのは狂気を感じますが、これはトンカツというよりもまた別のジャンルの料理と捉えるべき完成度であり、名古屋「にい留(ニイトメ)」に通じる水分を保った瑞々しい揚げ物料理です。「トンカツに5千円?しかも予約制?」と食わず嫌いせず、一度はお試しあれ。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
私は「とんかつ」という料理をそれほど好みません。だって、豚肉を脂で揚げるだけじゃないですか。それなのに、行列するは調理に時間がかかるわ結構効高価だわで、積極的に取り組もうとしないのです。したがって、私は物凄く「とんかつ」ならびに「とんかつ屋」について、検察官のようにシビアに評価しています。思い入れが無い分、信憑性は高いかもしれません。
>
とんかつを「超一流の大衆料理」として、グルメ業界の重鎮たちがひたすら議論を重ねる本。よくもまあとんかつでこれだけ語れるなあと呆れます。ここに記された「殿堂入り」のお店はさすがに外しません。