ポンチ軒/新お茶の水


「まんじゅうこわい」的なフリではなく、私は「とんかつ」という料理をそれほど好みません。しかし「ここなら絶対好きになるはず!」のような、謎の推薦状が日々山のように届きます。そのうちの1店がこちら、神田~小川町~新お茶の水エリアの人気店。
まさにトンカツ屋と言うべき特別感のなさ。妙に気取らず大衆料理の王道を行く店構えです。オーナーの斎藤元志郎シェフはフランス料理出身であり、赤坂に「フリッツ」という揚げ物中心のレストランを開いていた時期もあったそうな。
平日12:40頃にお邪魔したのですが、たまたま空いていたカウンター席に滑り込むことができました(写真は公式ウェブサイトより)。客の殆どは周辺の会社員であり、恒常的に行列が生じているというよりは、ときどき待ち順列が生じているなという程度。表参道駅の女子トイレぐらい並ぶのが普通のトンカツ業界において、この手軽さは嬉しい。
卓上の壺の中にあるキムチは食べ放題。特筆すべき味ではありませんが、調理に時間を要するトンカツという料理の繋ぎにちょうど良い。
注文後15分ほどしてお膳が到着。「特ロース豚かつ定食」2,400円です。タワー状の新鮮なキャベツにもたれかかるキツネ色の肉塊に思わず喉を鳴らす。
パン粉は粗い。揚げで黒くなるのを防ぐため糖分と塩分を少なめにした特注品とのこと。揚げ油はラードではなくコーン油とゴマ油。とんかつ特有のしつこさがなく、まさにカラっと軽く揚がっています。
断面は仄かに赤味を湛えた乳白色。まるで乳児の上腕二頭筋のような色合いです。一口でかぶりついて絶句。ミルクのような甘い香りにシルクのような舌ざわり。これが豚肉なのかと思わず唸ってしまうほどの食感です。味覚についても実務的で隙がない。わざとらしいジューシーさはなく、肉そのものの美味しさがダイレクトに伝わってくる見事な調理です。
卓上の調味料で味変は自由自在。私はゲラント塩→ゲラント塩+レモン→柚子ペッパーソース→ウスターソース→とんかつソース、と、徐々に味を濃くしていきました。ウスターソースは2年前に酒肆ガランスで出会った太陽ソース。複雑な旨味が千切りキャベツにピッタリです。
ライスは中の上。トンカツそのもののレベルに比べるとやや見劣りします。
豚汁もライスと同格。豚肉がゴロゴロと入っているのは嬉しいですが、もう少し奥行きのある味覚であって欲しかった。
お新香は非常に浅く漬かっており、漬物というよりは和風サラダといった様相。コッテリとした料理の対局に位置し、口腔内を調えるにちょうど良い誂えでした。
いやあ、めちゃんこ旨かった。バンドデシネのように行間を埋める必要は全く無く、脊髄反射で美味しいと感じられる料理でした。全てにおいて一分の隙もなく、選挙であれば楽勝するタイプ。次回はディナー限定の、500グラムのヒレを1本丸々揚げてしまう「棒ヒレ」にチャレンジしたい。そんなに混んでいないという意味でもオススメ。また来よう。


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私は「とんかつ」という料理をそれほど好みません。だって、豚肉を脂で揚げるだけじゃないですか。それなのに、行列するは調理に時間がかかるわ結構効高価だわで、積極的に取り組もうとしないのです。したがって、私は物凄く「とんかつ」ならびに「とんかつ屋」について、検察官のようにシビアに評価しています。思い入れが無い分、信憑性は高いかもしれません。
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とんかつを「超一流の大衆料理」として、グルメ業界の重鎮たちがひたすら議論を重ねる本。よくもまあとんかつでこれだけ語れるなあと呆れます。ここに記された「殿堂入り」のお店はさすがに外しません。