ネパール出身のシェフが日本の食材とネパールのスパイスと伝統技法を融合させることを志向して開業した「ADI(アディ)」。魚介類は焼津の「サスエ前田魚店」から仕入れていることが話題を集め、食べログでは百名店に選出。中目黒駅から高架下沿いを祐天寺方面へ7-8分ほど歩いた場所に位置します。
なお、店名はサンスクリット語で「始まり」を意味するそうですが、この夜の私にとっては「試練の始まり」でもありました。
店内は暗く、メニューなどの文字は小さく、老眼の年配者には厳しい環境かもしれません(写真は食べログ公式ページより)。また、大きなテーブル1つを複数組で共有する隣人ガチャなスタイルです。
私は赤の他人と同じテーブルを囲むことは普通に気色悪いと考えているタイプであり、そこに今回同席した最大勢力が、遅刻はするわ、高笑いしながらテーブルをバンバン叩くわ(振動でこっちのグラスまで揺れる)、それをスタッフは特に注意しないわで、食事を楽しむ環境としては試練としか言いようがありません。「汽(ki:)」もそうですが、ちょっと変わったエスニック料理の店って、どうしてこういうことをやりたがるんだろう。
飲み物は成層圏レベルの高さです。ネパールのビールの小瓶が1,430円で、さらに10%のサービス料がのってきます。そのへんのネパール料理屋であれば1本600円程度で楽しめるものが、です。
しかも18:00一斉スタートのはずが、結局は遅刻者を待つ運用。待っている間にビールの小瓶は普通に飲み切ってしまい、酒代だけが着実に育っていきます。中目黒で飲み食いするような連中が時間を守るわけがないので、賢明な読者の方は自衛のため、敢えて少し遅刻するぐらいの感じで訪れることをお勧めします。
入店から26分経ち、ようやく1品目が出てきました。バスマティライスで作ったパパド(薄いおせんべい的なもの)にアチャール(南アジアの漬物・薬味的なソース)を添えたもので、味は悪くないのですが、こんなスナックのために私の寿命が26分も縮んだのかと思うと悲しくなってしまいました。
冷製のスープはキュウリを土台にしたもので、フワフワと泡っぽい口当たりが印象的。そこにパイナップルの華やかな甘酸っぱさが加わり、これがモダンネパール料理かと発見のあるひと品です。
ところで、ホールスタッフの咳が気になりますね。マスクなしで手のひらに咳を受け、そのまま鼻もかんでいたように見えたのですが、その手を洗う素振りは見えないまま配膳・カトラリーとおしぼりをセットするという強気の接客姿勢です。
続いてカツオ。「サスエ前田魚店」から仕入た自慢の魚であり、オレンジのチャツネ(果物や野菜をスパイスで煮込んだソース)と共に楽しみます。なるほど日本人では到底真似できない酸味の表現は見事であり、チリオイルとオレンジオイルでスパイシーかつフルーティーなアクセントを加えているのも面白い。
ちなみにこのちょっと酸味をきかせたスタイルは、ワーホリで働いているチリ人のセビチェ的嗜好が反映されているそうです。チリ人がワーホリで日本を訪れ、ネパール料理店でモダン・ネパール料理に取り組むとは数奇な運命である。
鹿のモモ肉。しっとりと柔らかく仕上げており、赤身そのものの旨味を楽しみます。ソースはパセリを軸に据えており、酸味もあって清涼感のある味覚。そこに濃厚なドミグラスソースを重ねる二段構え。私はフランス料理が好きというのもあり割と鹿肉を食べる生活をおくっているのですが、この味覚設計は斬新で興味深く感じました。
お食事は、はい、また出ました、焼津の「サスエ前田魚店」のマグロを用いたカレー。マグロのコラーゲンが溶け出し、重厚でトロッとした奥深い旨味が生み出されています。あわせるゴハンは噛むほどに芳醇なアロマが立ち上る香り豊かなお米を使用。添えられたピクルスのシャキシャキとした食感と酸味が濃厚なカレーに心地よいアクセントをもたらしています。それにしても、さっきからサスエサスエしつこいですね。料理で語れ、言葉で補足するな。今夜だけで1年分のサスエを聞いた。
デザートはピンクペッパーのアイスクリーム。仄かな辛みとフローラルな香りを活かしており、甘さの中にスパイシーな余韻が広がります。私のそう短くない人生においても初めての味覚であり、何とも洗練されたスイーツです。
以上のコース料理が11,000円なのですが、公式ウェブサイトにも予約サイトにも一切記載のないサービス料が10%が上乗せされました。こういう不意打ちは支払金額以上に嫌になる。今日びキャバクラでさえ事前に丁寧に説明するぞ。飲み物の高さについては既に述べた。
今夜は遅刻者のせいでかなり待たされたため序盤からバッド入ってしまいましたが、料理そのものは独創性があり素直に美味しかったので、貸切でお邪魔できればまた違った印象を受けたかもしれません。それにしても、恵比寿のタコス屋もそうでしたが、サスエから仕入れていることを自慢する店は時間にルーズなことが多い気がする。
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