ラ・ファソン古賀/代々木上原


日本フランス料理界の巨星、シェイノ井上シェフ。彼の片腕として活躍したのが当店のシェフです。フランスではトロワグロおよびコートドールという三ツ星レストランで鍛錬を重ねました。うーん、これは絶対に私の好きなタイプの料理だろうと、お邪魔する前から全幅の信頼感。
最も皿数の多いコース、ならびにワインのマリアージュコースをお願いします。まずはシャンパーニュ。ペアリングのお店ってシャンパーニュは除外されていることが多いですが、当店は込みなのが嬉しいですね。
ヤングコーンの焦がし焼き ラヴィゴットソース添え。ヤングコーンの大地の味が秀逸。これぞ素材の力です。ラビゴットソースも対等に渡り合う仕上がり。種々の野菜と卵の優しさをビネガーの酸味で引き締める。アミューズで理解しました。当店は本物です。
ズワイ蟹のブランマンジェ。これには悶絶。絶品です。凝縮されたカニ味に贅沢なカニ肉の使いっぷり。トマトのジュレの濃い旨味に生姜のアクセント。ポーションもたっぷり。非の打ち所がありません。本日一番のお皿です。
1杯目からヴィオニエと冒険するなあと思いましたが、カニの旨味にジャスト・フィット。今後の展望に期待が持てます。
パンもコロンと小さいながらも実力派。密度が高く小麦の味を感じることができました。
赤ピーマンの冷製クリームスープ。 茄子のコンポートとビーツのマリネが浮かべられ。バジルで抑揚を与えています。素材の味を直接的に感じさせてくれる一皿。ただし先ほどのブラマンジェの印象が強烈で舌先にカニの余韻が残っているためか、相対的に印象は小さい。
輪郭のはっきりした白が赤ピーマンにきちんと寄り添う。ぴったりだ。ソムリエールがシェフの哲学や料理をきちんと理解している証拠です。
ボルドー産のホワイトアスパラガスにジロール茸のソテー。 もろきゅうのようなものはマディラ風味のデュクセルソース。微細にカットされた玉ねぎやマッシュルーム、セロリなどを丁寧に丁寧に炒め込む。ううむ、ソースが素晴らしい。シェフの技術の真髄を見たような気がします。
一瞬おやっ?と思いましたが、なるほどキノコの野性味とピノの土臭さが面白い取り合わせを見せてくれました。
こちらのパンは一般的なものでした。ソースを拭って食べるにはプレーンで心地よい存在です。
伊勢海老出汁のブイヤベース。いわゆるドロついたタイプのそれと異なりクリアな舌触りです。香りを取ると磯の力が爆発。ううーんヨダレが出てしまう。贅沢にゴロンと大きいオマールの身に食べ応え抜群の焼ハマグリ。味わいのボキャブラリーが多彩です。極めつけは花ズッキーニに詰められた魚のムース。オリジナリティ溢れるブイヤベースです。日本よ、これが料理の再構築だ。
合わせるワインはロゼ。教科書のように正統的な重ね方。イチゴの香りがチャーミングでガブガブ飲めてしまう。
メインはスペシャリテのロールキャベツ。和牛のトモサンカクを春キャベツで包みます。キャベツの甘味と肉の旨味、程よい脂。完璧な調和です。そして何よりもテールスープ。滋味を深く深く溶け込ませた飴色が食べ手を魅了する。おかわりしたいなあ。
ワインそのものはハッキリとした酒躯体で好みなのですが、パワーに溢れすぎるため奥ゆかしいロールキャベツを圧倒してしまいました。肉料理だけれども、意外と樽のきいたシャルドネとかでもよかったかもしれません。
デセールは新茶と大葉のアイスクリームにリモンチェロのグラニテ。並の料理人であれば抹茶アイスに流れるところですが、新茶と大葉という強烈な個性をテーマに据えるドクトリン。手抜きなど一切無し。
 こちらはオレンジの風味が絶妙。最後の最後まで本当に美味しかった。
ダブルのエスプレッソで〆。ごちそうさまでした!

シェフの経歴からするに、もっと重厚な料理をイメージしていたのですが、体に負担のかからない颯爽とした料理の数々でした。ありそうでないコース構成。見事です。全く重くないので年配の方はもちろん、フランス料理は好きだけど胃袋がついていかない女の子にもおすすめできます。
オマケで黒豆茶を頂きました。優しい味わいで妙にほっとしました。

と、その時、隣のテーブルで常連と思しき方々が何とも美味しそうにカレーを食べているじゃありませんか!鼻腔をくすぐるスパイスの香り。幸せそうな笑顔。思わずお連れ下さった尊師に何ですかアレは!と突っかかってしまう。「ごめん、オレ、あそこまで常連じゃない」と苦笑い。これほど食べ物に嫉妬したのは久々です。

調べてみると、「ソース・キュリー」という当店自慢の逸品で、事前に予約が必要とな。「このさらりとしたソースの中には、和牛すね肉と何種類もの野菜から抽出した、たっぷりのコラーゲンとビタミン、又肉の旨味と野菜本来の甘味が豊富に含まれています。さらに手間を加え、一切の油分を取り除いているため胃もたれもありません。」と、公式webサイトに大変に魅力的な説明書き。

ああ、カレー食べたいカレー食べたい食べたいカレー。近々何としてでも手にしようと決意しました。続きのあるレストランっていいですね。

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