草喰 なかひがし/出町柳(京都)


京都、いや日本で最も予約の取りづらい和食店のひとつ、草喰(そうじき)なかひがし。店名の通り中東久雄シェフが畑や山野で採取した季節の恵みを愉しむ、ちょっと変わった日本料理店です。ミシュラン2ツ星。ちなみに広尾のイタリアン、エルバ ダ ナカヒガシは息子さんのお店です。
銀閣寺に参拝してから近場のカフェで時間をつぶし、いざ出陣。18時に予約を入れたのですが、18時きっかりにならないと入れない仕組みなので、気の早い方はお気をつけて。
厨房を取り囲むコの字型のカウンター(写真は公式ウェブサイトより)。女将が高らかに開会宣言を行い、どうぞどうぞと酒を注いで頂き、全席同時に一斉に料理が供されます。これはある意味、西麻布81の和食バージョンであり、客同士にも不思議な一体感が醸成される。客層は小松弥助と同様に、億り人&港区女子カップルが殆ど。中にはモノホンの舞妓を連れたアニキもおり、さすがにちょっと憧れてしまいました。
一皿目はイイダコを炊いたものに、ジャガイモのお団子。ランチでも同じことを思いましたが、やはりこの時期のイイダコは絶品である。

右上は健康なイノシシ。山椒で煮たゴボウの風味がアクセントになってすごくいい。また、トッピングされているのはキュウリを黒糖で煮たものなのですが、これが見た目も味も昆布としか思えなくて面白かった。
ハマグリを開くとお鮨(?)仕立てとなっており、興味深いひと工夫。
シイタケとコンニャクを白和えにしたものに、フキノトウの天ぷらをちょこんと乗せる。シイタケの旨み、コンニャクの歯ごたえ、白和えの上品な味付け、フキノトウの苦味が渾然一体となって味蕾を刺激する。
スープは白味噌。まるでコーンポタージュスープのように旨味と甘みが迫りくる。赤カブや大根の滋味深い味わいに目が覚めるようなカラシの風味、栃餅のコッテリとした歯ごたえも素晴らしい。本日一番のお皿でした。
岩魚。丸ごと1匹であり、頭と尻尾の酒を呼ぶ香ばしさ、おそるおそる飲み込む背骨の旨味、ホクホクとした身など、様々な味覚を楽しむことができました。芽キャベツの使い方も興味深く、敷かれた田芹の春の味も心に残りました。
酒はオーガニック農法で造られた八鹿酒造の自然米酒。パワフルな味わいであり、旨い、という言葉がピッタリの日本酒です。
スペシャリテの鯉。こちらも刺身だけでなく、揚げたウロコや骨など、余すところなく全てを頂きます。覚えきれないほどのハーブが散らされ、たっぷりの大根と醤油をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせ、辛味と苦味が心地よく響く和風マリネである。
お椀は雪の下に育っていたホウレン草に、雪に見立てたウド。湯葉でぐるぐる巻きにされたふくよかなブリに柚子の風味をきかせます。これはホウレン草が素晴らしいですねえ。緑の味が極めて濃い健康優良児であり、ブリの旨味よりもホウレン草の味わいのほうが記憶に残りました。
お米からゴハンに変わる瞬間を捉えたファースト・ライスで食事の出来を予告。米の香りが濃厚であり、日本酒好きには堪らない香りです。
ワインポイント・リリーフにサバのなれずし。乳酸発酵により酸味を生じさせるもので、古くはタイより伝わりこれが本来の鮨(鮓)の形態だそうな。九条ネギと新玉ねぎのトッピングもピッタリ。あわせてお出しいただいたナイアガラは、期待していたほどのマリアージュではありませんでした。
炊き合わせ、と思いきや、タケノコは蒸し、ワカメは生、レンコンは揚げ団子。ワカメが絶品。磯の香りが爆発し、余計な手を加えずとにかく素材の良さが際立ちます。なるほど日本料理とは引き算の料理とは良く言ったものである。
お食事前の一休みとして菜っ葉などのおひたし。など、と濁したのは、駄洒落好きの店主は、時々冗談で言っているのか本気で言っているのかわからなくなってリアクションに困る場面があるからです。
厨房中央にある「おくどさん」でゴハンが炊き上がりました。「ゴハンは5杯食べてこそゴハンですからね」とゲストを挑発する店主。
「これがメインディッシュです」と胸を張る店主。炭火で丁寧に焼かれためざしに
おから(紫ニンジンを混ぜ込んでいるため紫)、
自家製のお漬物に
琵琶湖のイサダも並べてくれました。
おこげは山椒油と塩でシンプルに頂きます。
「さっきのオコゲはパリっとするからパリで、こっちはお湯に浸して入浴だからニューヨークね」と真面目な顔でゲストに勧める店主。茶目っ気たっぷりのサービスです。
デザートは朝摘みのイチゴに酒粕(?)のスープ。これはこれで美味しいのですが、やはり甘味に限ってはフランス料理が圧倒的にレベルが高いと感じた瞬間でもありました。
3週間かけてじっくり抽出した水出しコーヒー。空気を含ませるためチャコリよろしく高所から注ぎ込むパフォーマンスが楽しい。味もびっくりするほど美味しくて、私の笑顔が素晴らしかったのか「もう一杯どうですか?」とサービスして頂きました。得する性格である。

なるほど評判に違わず面白いお店でした。何より中東シェフのキャラがいいですねえ。彼は調理の殆どを若手に任せ、基本的には接客がメイン。妙に神格化されていますが、本人にスター意識はまるでなく、親戚にひとりはいそうな駄洒落好きの気の良いオッチャンです。

かどわき龍吟のような攻めの和食ではなく、自然との調和をめざすダウナー系の日本料理です。ゴージャスさを目指さない渋い夜。こういうお店の価値がわかるのが、大人なんだろうなあ。


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JR東海「そうだ京都、行こう。」20年間のポスターから写真・キャッチコピーを抜粋して一冊にまとめた本。京都の美しい写真と短いキャッチフレーズが面白く、こんなに簡潔な言葉で京都の社寺の魅力を表せるのかと思わず唸ってしまいます。

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