After Seven/Zermatt


ツェルマットはスイスの南の僻地の山岳地帯にある、日本の温泉街ほどの大きさの街なのですが、なんとここにはミシュラン1ツ星のレストランが3軒もあるのです。

我々は2夜滞在する予定であったので、「3軒のうちのどれか2軒。こだわりは無いので2夜予約取ることができるように」という雑なリクエストを事前にホストに出しており、その期待にきっちりとこたえて下さいました。
1軒目はAfter Seven。Backstageというホテルのメインダイニングです。山奥に似つかわしくないガラス張りのエレベーターを登ると、ヘッドウェイターがにこやかにお出迎え。
テーブルまでの案内の仕草など、世界レベルのサービスが感じられ、料理に対しても期待が高まります。
それにしてもオシャレなインテリアと客層。ド田舎でこの雰囲気を維持するのには感心します。私も滑って転んで骨を折るのを覚悟でドレスシューズ、寒さに負けじとジャケット着用と、頑張った甲斐がありました。
食材だけ記すスタイル。なるほど、「我々の料理には物語がある」との自信の表れですね。我々も迷うこと無く最も皿数が多いものを。ワインのペアリングも併せてお願いします。
挨拶がわりの謎の粒。口に含むと瞬間的に山椒と判断。これからワインを楽しんでいくというのに舌がバカになるじゃないかどうしてくれる。ヘッドウェイターが「何だかわかりましたか?」という爽やかな笑顔が腹立たしい。
1杯目はシャルドネ。樽がバリバリにきいており私好みです。
巨大な砂時計と共に、店員が得意気に「ここで15分間、パンを焼きます」とドヤ顔。ってこれ、ナリサワのアレだよね。しかも生地から焼く訳ではなく単なるリヒートだよね。妻がひたすら「ねえあなた、ここはヤバイ店よ。やばいやばいやばい」とグロンベック&チャーチルのデジャブ。
お水用のグラスがマッターホルン。ワオ!これ欲しい!
バターの形もマッターホルン。これは心からどうでもいい。併せてカイワレが添えられ、自分たちで自由にハサミで切る。意味不明。
1皿目はウズラの卵とモヤシ。最初の一口目が半熟の黄身だと臭みが感じられイマイチ。
続いて鶏卵にモヤシ。味噌とフェタチーズがたっぷりと塗りたくられ、仕上げにカボチャのエスプーマを流し込みます。一人暮らしを始めたばかりの学生の創作料理のようである。とにかく味噌が濃すぎてヒリヒリします。お察しの通り、ワインとは全く合いません。
2皿目はホタテの燻製チップスとキュウリ。ワサビとピスタチオと海藻のソース。ホタテはコンビニの高級ツマミのように美味しいのですが、キュウリの青臭さと謎の酸味が際立って全体としては不味かった。
さらにはソテーしたホタテにキュウリとビーツ。ソースは先ほどと同じソース。なるほど、1皿ごとに2タイプを用意し、小さい食材から大きいポーションへと化ける工夫のようです。しかし、味付けそのものが全く同じであるため、ワクワク感に乏しく飽きが来ます。
 パンが焼き上がり、もとい温め直しが終わりました。
極めて普通のパンです。まずくはないが、うまくもない。散々焦らしておいてこれは無い。合コンで「もうひとり遅れて来るから~」と待たされた挙句、気の利かないデブが現れて食べ物を全て吸い込んで行かれる感覚に似ています。

と、ここまでは味はともかく許容範囲なお店だったのですが、ここから先が地獄でした。30分以上、ワインも食べ物も何も来ない。
出てきたロブスターのカクテル?航空会社のラウンジに並べられるアペタイザーの出来損ないのような味わい。マッターホルンの頂上で冷やしてきたのではないかと思えるほどキンキンに冷えています。
さんざん待たせたくせに、間髪入れずに次の皿が出され、今度は渋滞してしまう。何この人たち信じられない。ロブスターそのものは悪くないのですが、東京のミシュラン1ツ星レベルの品質ではありません。
半分以上食べ進めてもワインが出される気配が無いので思わず催促。ほぼ食べ終わった頃に出されましたが、料理とは決して合うことはなかった。
支配人が各テーブルを挨拶して周る。「ご満足頂けていますか?」と問われ、ここは正直に言うのがお店ならびに今後のゲスト、ひいては世界平和のためだと謎の使命感が湧き始め、いいえ全く、1皿ごとに30分以上待つのは退屈で仕方ないです、と丁寧に述べる。すぐさま彼は厨房へと飛んでいき、何やら交渉してきてくれた模様。ゲストに対する姿勢は悪くなく、誠実なお店です。

「あなた、彼、とても傷ついた顔をしてたわ。こんなこと言われたの初めてなんじゃないの?」と彼の心中を慮るのですが、私だってこんなこと言うの初めてです。

だがしかし、支配人の努力も虚しく次の皿が提供されるまで40分の時を要するのであった。
ブリオッシュにアヒルを載せた一口。悪くない味わいですが、なぜこんなものに40分以上の時間が必要なのか。開店前に仕込んでおくべきでしょう。
今度は渋滞することなくご丁寧に20分のインターバル。アヒル肉の本丸です。これは酷い。シイタケのソースが変に甘ったるくて食えたもんじゃない。「もういいわ、残りはどうぞ」って、ほぼ完璧な状態の皿が妻から手渡される。

予想はしていましたが、待てど暮らせどワインは来ず、水で食べるしかないのです。厨房はともかくサービスまでが回っていないのが不思議でしょうがない。提供する料理は無いのだからホールはヒマなはずなのに。
アヒルをキレイさっぱり食べつくし人心地ついたころ、恭しくメルロがグラスに注がれます。これはタイミングによる暴力です。しかも結構美味しくってさっきのダックにも合いそうなのが悔しくって仕方が無い。

妻が船を漕ぎ始めたので私はヒマ人。時間つぶしに周りを見渡す。どのテーブルも食事をしておらず、退屈そうに肘をつきケータイをいじっています。謎のタイミングで出されたワインでチビチビと繋ぎ、ちょうどワインが無くなった頃に次の皿が提供されるという悪循環。
ちなみにこの跡は、若いサービスくんが盛大にオリーブオイルをひっくり返した際に残ったシミです。そう、この店の従業員は全般的にどんくさいんですよね。我々はキッチンの音が聞こえる席に陣取っていたのですが、3時間のうち都合3回は盛大にドンガラガッシャンと何かが派手に落下する音が聞こえて来るのです。
七輪ごと提供されたのは豚のアゴ肉。ここのシェフは日本を訪れた際に何か間違った影響を受けてしまったのかもしれません。ヘッドウェイターが「料理が遅く、ワインまでもちぐはぐで大変申し訳ありません。ちょっと色々てんてこまいなんです」と真摯に謝罪して周る。何だか彼も可哀想。
続いて出された豚肉。火入れが中々良く、つけあわせも結構美味しい。暴力的な濃さのソースには食べ疲れてしまいますが、これまでの皿に比べると格段に良い出来です。しかし「あなた、全然美味しくないわ。美味しいと思うなら責任とって全部食べて」と小学生のような論理を根拠に殆ど手が付けられていない料理を全て引き受けるハメに。一体私が何の責任を取るというのだ。

今何皿目であと何時間かかるのかをヘッドウェイターに確認すると、現在5皿であと2皿との回答。ああ、あと2時間はかかるのか、こんなことならゲームボーイでも持ってくれば良かったと頭を抱えたその瞬間、妻が「もう結構、帰ります」とヘッドウェイターに死刑判決。女性ってイザという時、容赦無いですよね。コワイコワイ。

「こういう場合って、お代はどうなさるおつもりかしら?」とさらに追い込みをかける妻。「ご、5皿コースのお代で結構ですっ。ワ、ワインはペアリングコースではなくグラスで計算させていただきますぅ」ということで、ひとりあたり20,000円強で済みました。これは安い!フライドチキンが3,000円の国にしては破格です。
1ミリのズレもなくピッタリとナプキンを折りたたんでサヨウナラ。20,000円強はリーズナブルですが、やはりお金の問題ではないのです。アウト・オブ・アフリカ小笠原伯爵邸を超え、私の人生における最低レストランを更新することとなりました。ある意味偉大なお店である。
レストランは怖い場所ですね。ミシュランの星でも取ろうものなら私のようなミーハー客が毎日やって来て、失敗すれば次のチャンスは与えられることはなく悪口だけが独り歩きする。怪我をしようが病気をしようが言い訳無用。ショー・マスト・ゴー・オン。

こういった構造を打開する何かを見つけることができたらいいな。私の飲食業界への課題意識をより深めることとなった一夜でした。

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After Seven
夜総合点☆☆☆☆ 1.0
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