オルト(ORTO)/烏丸御池(京都)


地下鉄烏丸御池駅より徒歩数分の裏路地にあるレストラン。住宅街に溶け込みつつも異彩を放つ印象的なエクステリアです。
シェフは京都生まれ京都育ち。京野菜を身近に食して育ち、長い間イタリアンとフレンチを学んできたのですが、2008年からの看板にあった「リストランテ」を外したとのこと。すなわちジャンルの垣根を超えたイノベーティブ系のレストランです(写真は公式ウェブサイトより)。
ちなみに店名の「オルト」とはイタリア語で「菜園」を表し、『季節に寄り添い、旬素材の味を最大限に引き出すため塩分、油分を控えた調理法を大切に』がコンセプト。
8種のペアリングを注文。各80ccほどあり6,800円とリーズナブル。トータルでは結構な量となるため、飲兵衛には堪らないシステムです。まずはブランドブランから。想像以上に香りが豊かで逞しい風味。
最初のひと口は黒ニンニクで作ったクッキーに、柚子や唐辛子などの風味をきかせたペーストを挟みます。オレオ的外観で思わず笑みがこぼれ、またニンニクの刺激的な味わいが内臓を活性化させる。
新たまねぎのスープ。たまねぎとはこんなにも旨い野菜なのかとハっとさせられる味覚です。たまねぎ嫌いのヘボチンに食わせてやりたりレベルです。具材はイイダコに花わさび。ジュレにはタコの旨みが凝縮中。
あわせる酒はコチラ。あまりこういうレストランで日本酒を飲むのは好まないのですが、このマリアージュについては例外。たまねぎの甘みと絶妙に調和し、本日のベスト・マリアージュ賞を贈呈します。
金柑のピクルスにマグロのタルタルを詰め込み、醤油と赤カブの泡、ベルガモットのパウダー、カブをゼラチンで固めたソースを並べます。おいしいのですが、ちょっと構成要素が多すぎて凝りすぎかもしれません。途中から主題が金柑であることを忘れてしまいました。
サンセールなのですが、コクと旨みが強く変わっています。頭ではソーヴィニヨンブランなのに風味が異なる。そのギャップに追いつけない私がいる。
壁面左にあるのはイタリア製のオーブン。何を焼いているかというと、、、
九条ネギのパン。まさに焼きたてのアツアツであり、ネギの香り小麦の香りが素晴らしい。口に運ぶと意外にもあっさりとしており、いくらでも食べたくなる味わいです。
ホワイトアスパラと白魚のフリット。さらには一度冷凍して(?)どないかした卵に自家製のベーコンとミモレット(チーズの一種)。ソースは燻製したヨーグルトと、またしてもやり過ぎ感のある一皿。しかしながらこの料理は絶品。特に舌触り滑らかなベーコンに、親しみやすい卵の風味がベスト・マッチ。本日一番のお皿でした。
こちらはドイツのリースリング。遅摘みであり果実の凝縮は感じつつも決して甘いわけではないという面白いワインでした。
30種近い野菜やハーブ、花を組み立てたサラダ。こういう料理はレストランならではです。ソースにはよど大根や甘夏を用いており、それぞれの野菜の滋味を感じつつも輪郭のある味覚に仕上がっています。最近、野菜の品評会的なプレゼンテーションを行うレストランが増えてきましたが、これは風味が一体的であり料理として成立しておりグッドです。
ピノのロゼ。これは実に先のサラダに合いますねえ。ピノの酸味が甘夏の酸味に寄り添い、ほのかな甘みがサラダをもう一段階上へと引き上げる。
おや、パスタだ。新物のアオサ海苔に芽キャベツ、タイの白子をあしらい、最後に芽ネギをパラり。心地よい海の香りに春そのものといった芽キャベツの味わい。クリーミーな白子はまさにタイだと言わんばかりの濃い口。このパスタ料理はイタリア人にはどうやったって作ることはできないであろう。
こちらは北イタリアのもの。ちょっと変わった味覚であり、若干オレンジワインっぽい。先の白子を考えると、ボリューム感のあるシャルドネで食べたほうが私は好き。
サワラは菜の花のソースにヘーゼルナッツのソース。随分とややこしい調理をしているらしいのですが、火入れの頂点がとうに過ぎてしまっておりイマイチでした。ソースは旨かっただけに残念。
カタルーニャの土着品種を6~7種ブレンドしたもの。ワインも徐々に王道からズレつつあり、このワインの本懐を正確に理解できる人間は日本で1,000人もいないのではないか。
メインは京鴨。ガルニ(付け合せ)は驚きの鮒寿司。これが欧米系の前提をひっくり返す味覚であり、ガイルに昇竜拳を叩き込まれたような衝撃がありました。セロリのピュレに鮒寿司の米(?)を利用した赤ワインソースも面白い。これは外人はもちろん、関西人で無ければクリエイトできない逸品です。天晴れじゃ。
合わせるワインはガメイ。なるほどこれは鴨というよりも鮒寿司に合いますね。ワインと鮒寿司を合わせたのはワタリガラスぶりで、そのときはシャンパーニュでしたが、なるほどライト系の赤ワインもアリですな。
〆は鴨のカレー最高か。スパイスの立った味覚に、これまたスパイスを感じる白米。いわゆるライスカレーとは異なり独自色の強いカレーでした。
最初のデザートはローズヒップのパンナコッタ。イチゴとバルサミコの取り合わせの妙が見事であり、レモンのソルベで口直し。いいデザートだ。
デザート2皿目はセミフレッドにフキノトウのコンポート。シェフには申し訳ありませんが、これは全然おいしくありません。クドクドとした苦味が支配的であり、ふきのとうを除けて食べたいぐらいです。まあ、コース料理にはたまにはみ出すぐらいの皿がちょうどいいのだけど。
小菓子は田辺一休寺納豆を用いたフィナンシェに生チョコをほうじ茶パウダーで囲む。いいですねえ、この京都な感じ。われわれ旅行者にとっては堪らない演出です。やはり料理を作るということは、食べる人間のことを考えることである。
お土産にゴマを練りこんだメレンゲ菓子を。説明書きはやや演出めいており理解に苦しみましたが、味わいはゴマの風味が楽しいひと口でした。
京都でイノベーティブ系を食べるのもなあ、と気は進んでいなかったのですが、実に見事なレストランでした。お会計は飲んで食べて1.7万円弱。東京であれば倍請求されてもおかしくありません。レヴォショクドウヤーンなど、地方にはダイヤの原石のようなレストランが点在している。これだから美食巡りの旅はやめられない。


このエントリーをはてなブックマークに追加 食べログ グルメブログランキング

関連記事
イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。