祇園 にし/祇園四条(京都)

2016年7月オープンの新しいお店。店主は木屋町のとくをで研鑽を積まれた方で、イタリア料理の経験もありソムリエでもあるというマルチタレントです。
3月中旬ながら20℃を超えた日であり、生ビールが悉く旨い。薄はりのグラスも口当たりが良く、2杯も飲んでしまいました。
先付はイイダコに鯛の子、そら豆にクリームチーズを挟んだひと口。ジュレはタコの旨みを凝縮したものです。タコの旨みが実に素晴らしいですねえ。鯛の子のザラりとした舌触りも酒が進む。
お造りはヒラメに氷見の天然のブリ。「毎朝市場で最高のものを仕入れている」と胸を張るだけあって抜群に美味しい。響きからしてブリに目がいってしまいますが、ヒラメのほうが目立った美味しさがありました。
お椀は明石の天然の鯛に、タケノコしんじょう。具材の質がどうのこうのというよりも、出汁がやはり旨い。どうせカツオと昆布と醤油なのに、店によってどうしてこうも味が違うのでしょうか。
シマアジの幽庵焼き。美味しいのですが、魚そのものの風味は控えめであり、もっと幽庵幽庵した調理のほうが私は好きです。それよりも脇を固めるホタルイカが絶品。春を告げる苦味が日本酒の消費量を押し上げます。菜の花や木の芽、せりなど春満開の一皿。氷魚(ひうお)という鮎の子供を食べたのは生まれて初めてでした。
日本酒に入ります。酒を注いでくれた女将に、軒先にあった胡蝶蘭が見事であったことを伝えると、「お客様が贈ってくださったんです。華やかで素敵ですよね」とのこと。続けて、まるで女将みたいですね、と軽口を叩くと「よう言われます。大盛りにしときますね」と、素晴らしき上方気質。
上等なタケノコと白魚を柳川鍋風に。タケノコと白魚は当然に旨いとして、卵と出汁の味覚が素晴らしい。和食っていいよな。そう思わせる実力のある一皿でした。
メインは牡蠣とタラの芽の天ぷら。この牡蠣がもう旨いのなんのって。もともと風味の強い個体でしょうが、揚げることにより品良く水分が抜かれ旨みが凝縮。タラの芽も大人の苦味を展開し、本日一番のお皿でした。
食事は先の明石の天然鯛をお頭を丸ごと釜飯で。インスタ女子なら濡れてしまうフォトチャンスです。
香り高いたっぷりのネギを散らし、小気味良い漬物を添えながらガツガツを胃袋を膨らませる至福のひととき。数時間後に草喰なかひがしの予約を入れていたのでおかわりは控えめにし、持ち帰り用に包んでもらいました。
赤出汁も抜かりなく美味しく、
漬物は残った日本酒の良き友。こういう脇役まで美味しいって、本物ですよね。
デザートにキウイのシャーベットに貴腐ワインのジュレ。貴腐ワインのジュレとはワイン好きならではの工夫。味覚の奥行きが増すので、和食の料理人にとってもワインの勉強は極めて有用でしょう。欧米系のライフスタイルを送る我々にとってはコーヒーのサービスもありがたい。ごちそうさまでした。

ビール2杯に日本酒を半合飲み、お土産に釜飯まで詰めてもらってひとりあたり7,800円。京都最高か。祇園最高か。銀座であれば3倍とられてもおかしくないクオリティです。
ソムリエバッヂをつけた大将は酒好きの気の良いアニキといった風情(写真は公式ウェブサイトより)。女将さんの当意即妙なサービスや、店全体の明るい空気感など、非の打ち所のないお店でした。オススメ!


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