鮨西むら/六本木


「いい鮨屋を見つけたから一緒に行こ☆」とバリキャリ女子からお誘い頂けました。え、鮨とか食べるんだまだ若いのに、と驚く。「銀座ばっかりだけどね」と、謙遜なのか何なのか、マリー・アントワネットのような発言に動揺する。
公式webページによると、本郷の個人店にて11年の修行の後、帝国ホテル「なか田」で12年勤め上げての独立のようです。ホテルでの経験からか、客あしらいの上手さが際立ちます。気品溢れる佇まいながら人懐っこい笑顔と会話。接待やでガハハハのような客は一切おらず、純粋に鮨が好きな30~40代といった客層で好印象。
私はビール。連れは泡。当店にはソムリエールが居り、彼女と相談しつつワインを組み立てていくのもまた一興。
白魚で幕開け。澄んだ身体と適度な苦味で後々の物語に想いを馳せる。
タコの柔らか煮。これは凄い。マジで柔らかい。タコの柔らか煮、といいつつ消しゴムのように硬いままのお店が多いなか、当店のそれは茹で卵の卵黄ほどの柔らかさ。タコ独特の海の野性味も伴っており美味。
一口茶碗蒸しにイクラですっ、ってどこが一口やねん!と、思わず嬉しいツッコミをしたくなる一皿。毒々しい醤油味は一切無く、イクラそのものの健全な味わいがクリアに伝わってきます。
日本酒は七田からスタート。そう、このお店、飲み物が全般的に安くて嬉しい。ビールは600円~、日本酒は1合800円程。ワインもグラスで1,000円切ります。もちろんプレミアムなものもあって上を見れば青天井ですが、普通に鮨を楽しみに来た客にとっては大変ありがたいです。
12時から時計回りにアワビ、コダイ、牡蠣、カワハギ。アワビは物腰が柔らかくいつまでも噛み締めていたい味わい。コダイは適度な酸味が食欲をそそる一方で、自家製のエビのおぼろと食べ合わせると絶妙な甘酸っぱさへと移り変わります。牡蠣の旨味は迫力ありで酒が進む。カワハギの品の良さに肝醤油の大胆な味わいが乗りかかり、いずれにせよ酒が進む。ツマミとして申し分のない一皿でした。全般的にもうちょっと量があれば完璧。
 小柱の天ぷら。いいツマミだなあ。旨味の凝縮された小柱が衣とスダチに優しく包まれザ・快感。
クリームチーズに酒盗。なんと直線的な一皿。「酒、早く飲めよ」と酒盗のアルハラ声が今にも聞こえてきそうです。
酒盗様に敬意を払い、ペースを無視してもう1合。和歌山の紀土KID。酒盗の塩辛さ内臓味を日本酒と共に口の中でごちゃまぜにして新たなソースを創り上げる。ああ、酒飲みに産まれて良かった。
にぎりに入る前に獺祭のグラニテ。試みとしては悪くないのですが、獺祭らしさはあまり感じず印象に残りませんでした。
ナス旨し。フレンチにおけるパンや焼肉屋におけるライスなど、脇役のレベルが高い店にハズレなし。
生のトリガイ。胸を衝かれる柔らかさ。トリガイっていつまでたっても噛みきれなくて、口の中で段々臭みが増してきて、もういいやと投げやりな気持ちで飲み込むことが多いですが、このトリガイは唇でプツっと千切ることができるほど柔らかく清澄な味わい。ブラインドで食べればホタテと答えてしまうかもしれない。衝撃的なトリガイでした。
ガリは意外と普通です。薄切りではなくその場で漬けた生姜を厚めに切ったガリを私は好むのですが、まあそれは人それぞれ。
マコガレイはごくごく柔らかく線の細い味わいであまり印象に残りませんでした。
生の芝エビは享楽的な甘さ。茹でた際の弾力とは対極に舌にペタペタと纏わりつく食感が官能的。
金目鯛って文句なしに美味しい食材ですよね。世の中全てが金目鯛になってしまえばいいのに。飲み下すのが勿体無くて、牛のように咀嚼してしまう。
長崎のトロ。多少のスジは残るものの、舌先であっという間に溶けていく甘さに快哉を叫ぶ。これ、スジ抜きにしてネギトロ巻にしたら無敵だろうな。
コハダは緩い〆であり、適度な爽やかさの上にコハダ本来の魚の旨さが乗ってくる。口いっぱいに頬張る江戸の味。こういうネタが一番好き。
大根の漬物は柚子を散らして爽やかな一品。ナス同様、縁の下の力持ちが大層充実しています。
のどぐろ。思いっきり味が厚く脂が潤沢。軽く炙りが入っており、身の焦げた香ばしさが鼻腔をくすぐり舌先では魚の旨味が躍る。金目鯛と双璧をなす本日一番のネタ。
ホッキガイはトリガイ同様に実に柔らかい。当店の店主は貝が柔らかくなる魔術でも心得ているのか。ただ、どことなく貝特有の臭みが残っていたのが口惜しい。
楯野川。華やかで芯のある味わい。日本酒って安くて美味しい最高だ。
 ウニは2種でのご用意。ウニの出自を比較テイスティングしながら日本酒を口にする幸せ。
ハマグリは迫力満点のにぎりにて。ぷっくりと膨らんだ厚い身を緻密なツメとともに大口で頬張る。グリルで焼いた際の凝縮感とは異なり、ハマグリの自然体の味わいに納得。
くどいようですが、漬物がいちいち旨く思わず唸ってしまう。
イカも極めて厚い。当店は決して巨大なネタというわけではないのですが、食感というか食べ応えというか、印象的な口当たりのにぎりが多いです。「私は今、鮨を食べている」という自覚症状を大いに感じることができる店。
アナゴが出ると寂しさがこみ上げる。終わりの始まり。終曲まであと少し。しっかりと蒸し揚げられ右手で掴むのが覚束ないほど柔らかく、口の中でシャリと共にホロホロと解けていきます。
エピローグはカンピョウとエビのおぼろ。脇役美味しいラインを維持し予想通りカンピョウも旨い。おぼろはおぼろで美味しいのですが、カンピョウと同居して味がぼやけたので、また違った接し方でも良かったかもしれません。
金目鯛と真鯛の味噌汁。最後の最後 ひときわ光彩を放つ。すし通の味噌汁は甲殻類をこれでもかというほど圧縮した男性的な味わいですが、当店のそれは鯛の中核を精錬したフェミニンな液体。出されるタイミングも良く、しばし悦楽に浸るふたりは無言になる。
甘味は栗とアンコ。そのままです。〆にしては味が直球勝負。もう少しジェラートやムースなどのマイルド系のほうが私は好きです。

たっぷり飲み食い大満足。連れも私と同等かそれ以上飲んでいたのにもかかわらず、お会計はひとりあたり20,000円弱。六本木の格調高い鮨屋でこの価格は見事。店主の物腰も柔らかなので、鮨屋デビューとして最適。もちろん自腹でなんとかなる範囲なので、これからも通いたい。

全般的に主張の強いツマミとネタが多く、酒の値付けは控えめなので、酒飲みであればあるほど満足感の高いお店だと思います。裏を返せば下戸の方はどうなのかな。飲めない人向けに適宜チューンナップしてくれると嬉しいな。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。



鮨西むら
夜総合点★★★☆☆ 3.5
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