水道業界の闇、これがプロの世界である。

今回はお馴染みのレストラン紹介記事ではなく、日常生活で印象に残った事件、というか、単なる私の愚痴です。

朝起きると、食洗機の給水部から水が漏れてて、ちょっとした水溜りができていました。私は賃貸マンションに住んでおり、その食洗機は備え付けの設備ではなく入居後に私がヤマダ電機で購入して業者に取り付けてもらったものです。

秒でマンションの管理会社に連絡して業者を手配してもらい、数時間後には作業員が到着し、キュキュキュっとネジを締めてもらうと水漏れはすっかり止まり事なきを得ました。

ここまではいい。

翌朝キッチンに行くと、食洗機からは確かに水漏れはしていないのですが、別の部分(以下、「蛇口の根元部分」)から水が漏れており、やはりちょっとした水溜りが生じています。

改めて管理会社に連絡し、依頼した箇所の不具合は治ったが、別の箇所から水漏れが生じた旨を手短に伝えると、その日の夕方に、同一の作業員が気まずそうな表情を抱えながら再び我が家を訪ねてきました。

今回の作業は前日よりも手が込んでいるようで、ガチャンガチャンと穏やかでない音がキッチンから聞こえてきます。途中、事務所なのか上司なのかに電話をかける音も聞こえ、あまり状況は芳しくないのでしょう。彼が電話を切った後、「お客様~」と呼ばれキッチンへと向かう私。

蛇口の根元部分を見ると、少しづつではありますが、確実に水は漏れ続けています。彼は開口一番、こう述べました。

「これは、私の作業ミスではありません」

しばし沈黙する私。あなたが作業するまでは漏れていなかったのに、あなたが作業してから漏れるようになりました。どういうことでしょう?と静かに訊ねる。

何でも、食洗機側のネジをキチっと止めたため水圧が蛇口の根元部分へと向かい、結果として根元部分から漏れるようになったとのこと。が、そんなことは素人の私が知った話ではなく、言いくるめられている感が半端ない。

という、あなた個人の見解ですよね?静かに私が訊ねると、再び部屋を沈黙が支配します。

膠着状態を脱するために私は言いました。いずれにせよ、昨日まで水漏れしていなかった部分が、あなたの作業により水漏れするようになってしまったので、元の状態に戻して下さい、と依頼する。彼は、まさに渋々といった表情で再び作業に取り掛かります。

20分ほど経った後、「できました!」との威勢の呼び声と共に再びキッチンへと呼ばれる私。

目を疑うとはこのことであり、食洗機からボッタボタに水が漏れています。

いや、あの、どうみてもボッタボタに水が漏れているように見えるのですが、と作業員に訊ねると、「元の状態に戻しました!ホラ、蛇口の根元部分からは漏れてないでしょ?」と胸を張る。

再び部屋を支配する沈黙。

おっしゃりたいことはわかりました。静かに私は語り始める。ただ、胸に手をあてて考えて下さい。プロとして、本当にこれで良いと思ってますか?

「え~、だって、元に戻せって言われたから戻したんですけどぉ」と、口を尖らせる作業員。

再び部屋を支配する沈黙。

この議論はやめましょう。忘れてください。再び私は静かに語り始める。私は水漏れの無い快適な生活がしたいだけです。食洗機からも、蛇口の根元部分からも、どちらからも水は漏れて欲しくない。どうすれば解決するでしょうか?

「え~、これは蛇口の根元部分の経年劣化なので、そこを丸ごと換えるしかありませんよ」

換えましょう。

「部品代とか、作業費が別途発生しますよ」

金なら払います。

「すぐに着手はできなくって、見積りを取って、部品を手配しないといけません」

見積りを取って、部品を手配してください。

「でも、ここ、賃貸ですよね?であれば、一般的に負担するのはオーナー様なので、オーナー様に見積書を出さなきゃいけないんですが」なぜか途端に歯切れが悪くなり始める作業員。そのへんの調整は管理会社に相談しましょう。これが管理会社の電話番号なので、今すぐここに電話して、現在のトラブルの状態をプロの視点から説明して下さい。

「え~、僕が電話するんですかぁ?」モジモジが止まらない作業員。一体何が障害になっているというのだ、困ったことがあるなら全てこの場で言ってくれ。

「管理会社様とオーナー様の間で連絡がつかなかったら、どうすれば良いのかなあと思って…」杞憂かよ。オーナーと連絡がつかない不動産管理会社など聞いたことがない。何と逞しい想像力。まさにヒポコン。

絶対に連絡がつくから大丈夫。万一連絡がつかなかったら、それはその時考えよう。嫌でも明日は来るぞ。まずは今、電話してみよう。俺も隣にいてやるから。まるでダメな新入社員を教育するように激励の言葉をかける私。

不承不承といった表情で私から管理会社の連絡用紙を受け取ると、途端に目を輝かせる作業員。「あ!このコールセンター、たぶんウチの会社が業務委託受けてて、ウチが運営してますっ☆」

途端にニッコニコとした表情でスマホを操り、「あー○○です。ええ、ハイハイ、今、××の物件にお邪魔してて、ええ、そうそう…」そこからは話の展開がめっちゃめちゃ速い。「今、オーナー様に確認とってるんで、すぐに連絡来ると思いますぅっ!あ!きたきた!」バイブするガラケーに嬉々として飛びつく作業員。

「オーナー様負担で着手して良いことになりましたっ!見積り取りますっ!ただ、部品が手元になくて、取り寄せが必要で、土日も挟むので最短で水曜日になりますっ!手に入り次第すぐに連絡差し上げて、再びお邪魔します!」と、まるで別人のように活き活きとした表情で今後の段取りを述べ、軽やかに去って行く作業員。漏れ続ける水道と共に独り部屋に残された私。

水道業界の闇を垣間見ました。大丈夫か?この業界。これまで私が出会ってきた人々とは別の次元で生きています。アナザー・ディメンションです。

もちろん彼ひとりだけの問題の特殊事例なのか、業界全体の問題なのかは判断できかねますが、いずれにせよ、日々の単調な生活にちょっとしたスパイスを与えてくれたのは確かです。「元の状態に戻しました!」の際に見た、あの爽やかな笑顔は生涯忘れることは無いでしょう。

ちなみに翌朝、管理会社から連絡があり、「もっと速く対応できる業者が見つかったので、そっちに代えます」との死刑宣告で本件は幕を閉じました。泣いて馬謖を斬る。これがプロの世界である。


このエントリーをはてなブックマークに追加 食べログ グルメブログランキング

関連記事

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。