連日完売のナンパ船に既婚者が乗ってみた。

島に遊びに行くのが好きで、夏ともなれば東京と伊豆諸島を繋ぐ東海汽船をしょっちゅう利用しています。株主優待券を使えば運賃が35%引きとなるので、予定が立てばヤフオクで株主優待券を買っていたのですが、これだけ利用するのであれば株主になってしまえということで、東海汽船に投資することにしました。これで私は東海汽船のオーナーです。
さて、東海汽船が夏季のみ運営している「東京湾納涼船」。年頃のギャルが浴衣姿でナンパ待ちしていることが評判であり、通称、難破船ならぬ「ナンパ船」。検索候補が酷いことでも有名です。実際に「納涼船 ナンパ」でググれば山ほど体験記が表示されます。
2018年は6月29日〜9月24日の期間、毎日運行。19:15に竹芝客船ターミナルより出港し、めくるめく宮廷風恋愛の世界へと誘います。残席があれば当日券も販売するそうなのですが、基本的には予約で完売の大人気イベント。
ネットや電話で事前予約した後、ターミナルの受付で搭乗券と引き換えます。1,500人もの乗客が18:30前後に集中して訪れるのですが、それを鮮やかに捌き切る東海汽船のオペレーション能力の高さに舌を巻く。
一般客は2,600円、私はオーナー様なのでたった1,000円で乗船することができました。ちなみに平日に浴衣を着ての乗船の場合は1,000円引き、つまり1,600円で乗船できることとなります。後述しますが、この値段で酒は飲み放題で夜景もチェンネーもキレイというお得なイベントは日本広しと言えどもココだけであろう。
別の船では年に数度しか開催されない「プレミアム婚活クルーズ」が開催されていました。ナンパ船の乗客が浮かれきっているのに、コチラの待合室は皆ひとり参加の方ばかりなので当然にお通夜状態。JDが「何このイベントうける~☆」と小馬鹿にしていましたが安心しろ、いずれキミたちの行く道である。
出港時間の少し前にゲートが開かれ、乗客は順次船内へと案内されます。船内の飲み物はフリーフローなので、いくつかあるドリンクステーションから自由に酒をピックアップ。繰り返しになりますが、ここまでのオペレーションが実にスムーズで感心しました。私は国内外問わずかなりの数の客船を経験しており、中にはこいつらに命を預けて大丈夫かよと思うことも多々あるのですが、当店の運用能力の高さは目を瞠るものがあります。
フードはどれも500円前後と良心的。唐揚げや焼きそばなどの伝統的なお祭りフードが揃うのですが、支払いは電子マネーに対応していたりとアーバンです。600円のケバブを買おうとしたら中東系外国人のオッサンに「2ツ買ッテクレタラ1,000円ニシトクヨ!」と営業をかけられたので、屋台にもある程度の裁量があるようです。船会社はショバ代だけ取って、後は出入り業者に自由にやらせているのかなあ。
定時に出港。東京の夜景が手に取るように感じられ、くどいようですがこの夜景クルージングと飲み放題付きで2,600円というのは奇跡の価格設定です。今夜は俺の船で心ゆくまで楽しんでいってくれ。
航路は竹芝を出てレインボーブリッジをくぐり、羽田沖まで足を伸ばしてUターン。19:15出港、21:00帰港という段取りです。
さて本題。ナンパの実態についての検証です。公式サイト上では明確に「ナンパNG」と謳ってはいるのですが、EDMを爆音で流し、船内を集魚灯のように怪しい光で満たせ、DJは乾杯を煽ってくる。どう考えてもナンパを助長させているとしか思えません。

ちなみに私は少し性格の悪い既婚女子と乗船し高みの見物。「あの男はキモいしデブ。服装もダサい。見込み無し」などと、ナンパ師たちに対する彼女の舌鋒はいつにも増して鋭い。
出港を待たずして、というかチケット引き換えの行列の時点から声がけが始まります。まさかここまで露骨にナンパが繰り広げられるとは思いもよりませんでした。平均以上の顔面をした女性であるというだけで入れ食い状態。周りがドンドンと声をかけ続けるので、普段こういうことをしないクラーク・ケントのような紳士であっても、周りの空気が手伝って、この日ばかりはスーパーマンになっていました。

「写真撮りましょうか?」「そのフードどこで売ってました?」のように、話しかける口実は尽きないので、ナンパのハードルが極めて低いのが印象的。他方、女性陣も「おかわり取ってきますね」「トイレ行ってきます」のように退散する口実も山ほどあります。
運営側もしっかりしており、警備隊が船内をパトロールし迷惑行為や危険行為を迅速に摘発します。トラブルメーカーを1,500人乗せたこの船において、この治安維持の実力は天晴れである。
小腹が空いたので我々も食事を。とんぺい焼き400円に
ケバブロール600円。味は中くらい。渋谷や原宿あたりの出店とそう変わらない価格設定という意味で、良心的と言って良いでしょう。1,000円のオードブルセットのようなものも販売されており、食については意外にもダイバーシティに富んでいます。
レインボーブリッジを通過。控えめに言って絶景であり、他人に話しかける必要のない我々は食い入るように夜景に魅入り、しばし愛を語らいあいます。
若者たちは夜景などには目もくれず、息つく暇も無くナンパに勤しんでいます。ある記事によると、「酒は飲み放題であり前金制でもあるため、船の上で女に奢る必要が無いのがいい。男性側が予算を立て易い」と記されており、なるほど納得。

女性比率が高いのも特徴的ですね。東京のクラブの男女比率は7:3で男の供給過剰との意見が多い中、当船については女性のほうが若干多いという印象。中でもJDが支配的であり、女性陣の平均年齢は22~24歳ぐらいか。そういう意味で、「街コン」や「相席屋」よりも効率的に出会いが転がっているという印象です。
さて、夜景も落ち着いてきたので船内散策。ちなみのこの船は「さるびあ丸」といって、普段は大島・利島・新島・式根島・神津島などの伊豆諸島航路に用いられているのですが、夏季のみこのパリピ船に転用されているとのこと。
大型客船であるため階層はかなり深く、上階に行けば行くほどテンションが高いです。
最下層にある予約制のブース。東京の夜景に囲まれながら窓の無い船室で地べたに座り込んで酒を傾ける様は実にシュール。このカップルは将来、必ず上手くいく。
フリースペース。何がどうフリーなのかはさておき、ナンパ師たちの声がけに疲れた人々の憩いの場となっております。こちらも窓の無い部屋であり、浴衣で無言で黙々と焼きそばを食べ続ける女子会が開催されていました。
中層にはダンスフロアならびにDJブースが。地元のラジオ局といった雰囲気の、親しみのあるトークと音楽が展開されており、楽曲のセンスも中々のものです。この雰囲気を質実剛健な船会社がクリエイトできるとは到底思えず、どこか凄腕のパーティ・オーガナイザーと提携しているに違いない。
「ゆかたダンサーズ」と称する踊り子たちのショー・タイム。ヲタ芸を披露する観客もいたりと、ここだけ妙に男性比率が高くAKB48劇場の公演感が滲み出ていました。STU48の最終形態はここにあるのかもしれません。
再びトップデッキへと戻ると特大の満月が。都会に暮らしていると中々気づきませんが、月って本当に明るいですよね。本が読めるぐらい明るい。「満月なので灯りは不要」という、時代劇でのセリフの意味がようやく理解できました。
ちなみにこの子は飲み過ぎです。
階下が騒がしいと思い、もう一度ダンスフロアに戻ると、「Yeah!めっちゃホリディ」「YMCA」「少年時代」と、これ以上ないという選曲で大盛り上がり。
歌詞がスクリーンに投影され肩を組みながら皆で熱唱。「少年時代」なんてもう30年近くも前の唄なのに、となりのトトロ的普遍性がありますね。音楽っていいな。そんなことを思った瞬間でした。
あっと言う間に2時間が過ぎ、21:00に竹芝に帰港。めでたく商談がまとまった人々は、そのまま浜松町周辺の居酒屋へと流れていきます。

成約率の観点から述べると女子2人や男子2人での乗船が勝ちパターンだと感じました。同性の大人数で乗船してしまうと、どうしても女子高や男子校的なノリとなってしまい声をかけづらくなる。首尾よく話がまとまりそうになっても、グループ内のヘソ曲がりのブスが「あたし行かない」の一言で破壊の嵐を撒き散らす蓋然性が高いので、やはり気心のしれた同性の共犯者と2人で乗船するのが良いでしょう。

そういう意味で、ピュアな遊覧目的でこの船に乗るのは避けましょう。人間の動物的な「性」や「欲」に満ち溢れ、弱肉強食の世界をまざまざと見せ付けられる光景は、ファミリーでの参加はどう考えてもそぐわず、付き合う前後のカップルでの参加も微妙でしょう。
いずれにせよ、「浴衣でクルーズのインスタ映え」→「若い女性が増える」→「ナンパ目的の男が増える」→「そういう船として煽って連日完売」というストーリーを創り出した東海汽船の商売っ気には脱帽。まさかローカルの船会社がここまで時流に乗って、ビジネスチャンスを生み出し短期間で完璧なオペレーションまで構築してしまうとは。間違いなく当社はストロング・バイであり、私は買い増しの方向へと舵を切りました。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。