108/コペンハーゲン

外食フリークであれば必ず知っているであろう有名店、ノーマ(Noma)。恐らく世界でトップクラスに予約が取れないお店でしょう。私は2012年と2018年(今回)の2度、キャンセル待ちにチャレンジし、
一瞬、空きが出たとの連絡は来たのですが、このメールを受け取ってから早い者勝ちというシステムであり、時差の関係で日本在住の私にこのお知らせが届くのは丑三つ時。まあ、無理ですね。そもそも行ったことがある日本人に未だ会ったことがないので、半分諦めています。
しかしながらセカンドラインの当店108は余裕で予約取れます。我々なんて、「1.5時間で出てもらうことになるが、それでも良ければ」と、条件付き運航で土曜日夜に予約ナシでお邪魔することができました。
店内は非常にカジュアル。北欧お得意のモノトーンカラーに曲線を活かした木製の家具。溢れ出るKEYUKA感。半パンビーサンこそは居ませんでしたが、ジーンズにTシャツなど普通です。ジャージ姿の中国人もいました。
デンマークはワインではなくビールの銘醸地であるため、地場のビールを注文。パイントを超える容量のクラフトビールが1,500円程度なので、この手のレストランとしては悪くない価格設定です。左はIPA。ホップ由来の華やかな香りが素晴らしい。右はエール。正統派な味わいです。
夏のテイスティング・メニューを注文すると「通常は2時間超かかるメニューなので、厨房に確認してくる」と察しの良い店員。当店はカジュアルな接客ながらポイントを抑えた親切心が感じられ、セカンドラインと言えども上質なサービスを得られることができます。回答はもちろんOKであり、めでたく108の魅力を余すところなく堪能できる運びとなりました。
1皿目はダイコン。底に塩漬けしたイチゴも並べられており、緑色をした謎の液体を注ぎ込む。とにかく酸味が支配的であり、平たく言うと全然美味しくありません。新鮮なザワークラウトを食べ続けているような感覚。
緑色の葉っぱに山盛りの海藻、トップを飾るのはマリーゴールドの花びら。北欧らしい不気味なプレゼンテーションであり、Grønbech & Churchillを彷彿とさせます。恐る恐る食べ始めると、マリーゴールドの下にはソルベが収まっており、それがまた妙に酸っぱく思わず眉をしかめる。

しかしながら全体を丁寧に混ぜ込み味を周して口にすると驚くほど美味しく生まれ変われました。構成要素をひとつづつ確認すると、グリーンも海藻も味が濃く上質な食材であると得心。
パンはフランスのパン・ド・カンパーニュに近い芸風であり、やはり酸味が豊かです。付け合せの塩ホイップバターが地味に旨い。
こちらはロブスター。海老の風味をしっかりと引き出す調理であり、味付けもしっかりしています。タイムやコリアンダーの香りの華やかであり、これはフランスのきちんとしたレストランで出てきそうな味わい。特徴的なのはやはり酸味。カラント(ブドウの一種)が山ほど盛り付けられており、やはり当店の芸風は何かに取り憑かれたように酸味を押してきます。
これまた不気味なプレゼンテーション。葉っぱの外皮には韓国海苔よろしく油と塩が塗布されています。肉料理と聞いていたのに、これはなんじゃらほい?
中を開くと生のラムでした。種々の野菜やハーブと共にカクテル化されており、また、ラムの臭みなど一切なく、素直に美味しかった。

ただ、美味しいは美味しいのですが、高級レストランで食べる必要があるかは疑問。ホームパーティの延長線上にある味覚であり、ラムをサーモンに変えれば私でも作れそうです。
ズッキーニ。これはどう考えても焼いて塩をふっただけです。もちろん焼いただけのズッキーとしては美味しいんのですが、先の料理と同様に、高級レストランで食べる必要があるかは疑問。
味変用に左はハーブ類、右は卵黄のソースです。前者は塩気と香りが強く悪くないフレーバーなのですが、右は殆ど味がしない割に油っ気ばかりが強く、平たく言うと不味かった。
食事の最後を締めくくるのはロブスター。このクリスマスツリーみたいなものの裏側にロブスターが鎮座しています。ちなみにこの緑色は食べることができません。
緑色を外す。うん、こっちのほうが美しい。食べれないし、見栄えも悪いし、あのクリスマスツリーの役割は何だったのか。

お味はグッド。ロブスターにほんのりと火が入り、甘味が増す。また、ソースたちが海老油のような味覚であり、ロブスターの美味しさを引き出す仕組みです。ポーションも結構大きく、1.5万円ほどのコース料理にしては気前の良いメインディッシュでした。
デザート1皿目はラズベリー。当店は細やかな食材を連続的に並べるプレゼンテーションが好きですね。味は見たとおりのラズベリー味。ヘーゼルナッツのミルクも良いのですが、いかんせんラズベリーの酸味が支配的でした。
最後のデザートは羅臼昆布のアイスクリームにキャビアを気前よく6グラム。どう考えても企画モノだ、ふざけやがって、と思わず舌打ちをしそうになりましたが、実際に口にすると驚くほど美味しかった。昆布出汁の旨味がミルクにほんのりと響き、きなこもちのような優しい味わいへと昇華します。キャビアもヘンに悪目立ちすることなく、昆布アイスに静かに寄り添う風味。悔しいが、すっごく美味しい。本日一番のお皿でした。

お会計はひとりあたり2万円ほど。消費税が25%ということと、街中の何でもないレストランで普通に飲み食いすればすぐに1万円を超えることを考えれば、意外にリーズナブルなような気がします。
明確な肉料理が無いのがちょっと物足りない。ミッシェル・ブラスの野菜づくしを想起させるほど野菜中心でヘルシーなコース料理。全体を通して酸味が支配的で、温かい料理が一切無いのも気になり、総合点としてはなしよりのありといったところでしょうか。どう考えてもフランスにおけるフランス料理のほうが美味しいですが、新たなコンセプトを提案するという意味では存在意義があるお店です。
普段食事にそれほど興味がなく、たまたまコペンハーゲンに行ったから訪ねてみるか、という方にとっては色々と拍子抜けするかもしれません。一通り西洋料理を食べこんで1周まわってきた方は是非どうぞ。



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