パラオ ダイビング クルーズ vol.3~死の淵のチームサムライ~

6時起床。まるで部活の合宿。身なりを整えて6:45に出発。昨日に引き続き、今回もブルーコーナー。
先述した通り、ブルーコーナーは大人気スポット。ただ、街のあるコロール島からはボートで小一時間かかるため、コロール島に滞在しているダイバーが集中するのは10~14時。しかし我々はブルーコーナーの近所に船で滞在しているため、朝イチガラ空きのブルーコーナーを堪能することができるのです。
昨日に比べて天気がよく、チームの皆の士気もあげぽよ。
というわけで、お目当ての場所に到着。なんじゃこら昨日とは比べ物にならないほどの激流。サメもうまく泳げずフラついています。
たまたま運良くフックし易い岩を見つけたので、私は早々に落ち着くことができましたが、他のメンバは悪戦苦闘。特に女性は腕力と握力に乏しいため、左手で岩を掴み、右手でフックをかけるという作業が難しい。

それにしても流れが強い。流れの強さを写真におさめようとカメラを探すも遥か遠くまでヒモが伸びきっており、必死の思いで手繰り寄せて横を向いてシャッターを押すと、レギュレーター(口にくわえているやつ)が吹っ飛びそうになる。みんなのマスクも外れそう。
見よ、この泡の角度。こんな流れの中、高い金と時間をかけて、水中の岩場に這いつくばっているのです。ただのバカである。呼吸も自然と荒くなり、エアが心配になり残圧計を確認しようとしてもどっか流れて見つからない。

と、ガイドのジャレットくんが何故か私のフックの位置を少しだけ掛け替える。なんだよあの位置結構気に入っていたのに、と思ったその時、

「バツんっ!」

一生忘れないあの嫌な音。世界が一面モノトーンになり、全てがスローモーションに。カレントフックが外れてふっ飛ばされました。山田はその瞬間を目撃しており「あ、この人死んだわ」と後日談。

無我夢中で手近な岩をリポビタンDのCM並に引っ掴み体制を整える。ジャレットくんが慌ててサポートに来てくれたのですが、彼の「マジでごめん」と申し訳無さそうな顔と言ったらない。てーめー余計なことしてくれんじゃねーよとキレてやりたかったのですが、命懸けである事態は変わっていないので、お叱りは後じゃ。

ジャレットくんとアイコンタクトで「行けるか?」「戻りましょう」と頷き合い、ほうほうの体でチームの元へ戻る。
「あ、戻ってきた。しぶといな。スティーブン・セガールですか」と、山田談。しかしさすがに先ほどのような最前列へは戻れない。

危機一髪は乗り越えたものの、流れの酷さがおさまったわけではなく、チームの女性ひとりがパニック気味になってしまったので急遽中止という判断。

ガイドのベルが鳴り響き、上がれ上がれ今すぐ上がれとのサイン。皆が流れに飲まれながらもなんとか上昇を続け、安全停止(深度5メートル程で数分間留まり身体の窒素を抜く作業)も行わずに海面へ飛び出しました。

パニック気味の女性はガイドに曳行されながらようやく言葉を取り戻し、こわいよーこわかったよーと涙を流しながら叫びまくる。うーん、悲鳴や叫び声は人の恐怖心を煽るので良くないですね。災害時など大変な事態になった際には、口をつぐんで静かにしておこうと心に誓いました。

しかし彼女を除いたメンバは戦地から帰還した兵士よろしく変なテンションで、イエーイみんなお疲れ無事で良かったワッハッハと結束力が高まり大きな盛り上がりを見せました。岩で手を切り血を流す者。服が破れる者。満身創痍ではあるものの、皆が皆、良い経験になった自然には逆らえないと肩を叩き合い朗らかな雰囲気です。

ガイドは誰よりも疲れきっていて10歳ほど老けこんでいるように見える。「ブルーコーナーであんな酷い流れは初めてです」と、我々は大変な場に立ち会うことができ、貴重な体験ができました。
船に戻って朝食。そう、これは朝飯前の午前7時の出来事なのである。
ひと心地つき、2本目へ。昨日と同様にジャーマンチャネル。今回こそマンタに出会えるか。
途中、新品の真っ白なウェットに身を包んだ美女とムキムキマッチョを発見。ダイビング雑誌の撮影ですな。確かに行きの飛行機で妙に背が高く真夜中だというのにパラソルみたいな麦わら帽子を身につけた女性が居た。なるほど、彼女はこの撮影で来ていたのですね。おそらく2〜3ヶ月後に発売されることでしょう。
結論から申し上げると、今回もマンタに出会うこととはできませんでした。そもそもダイバーの数が多すぎで、そこかしこで泡がブクブク上がっており、まあ、こんな所にマンタも来るわけないですね。
少し移動するといくつかの群れ
サメちゃんが居てくれたのが唯一の慰み。
海面に顔を出すと、太陽が全力で照らしてくれており、うーん、キレイだなあ。海の色で感動したのはメキシコのコズメル以来です。
船に戻って昼食中に、3本目のポイントが発表される。「リベンジ、ブルーコーナー」湧き上がる歓声。みんな前向きだなあ。パニック女子のみ「ほ、ほんとうにまた行くんですか」と顔にタテ線が入っていました。
バラグーダの群れ。バラグーダと言えば一般的にゲームボーイの魔界塔士SaGaに登場するザコキャラを想起すると思いますが、ダイビング業界では結構人気がある魚なのです。
日光もあり視界良好なのですが、いかんせん深度があるため赤が減色されてしまい、青系モノトーンとなってしまうのが残念。補色フィルム買おうかな。
再びサメさん。奴らに群れで来られると肝が冷える。
さてお待ちかね。フッキングポイント。なのですが、早朝と打って変わって流れが弱い。自然って不思議。
うまく流れに留まることができないため、BCD(空気入れるジャケット)に結構な量のエアを入れなければならず、怖かった。もしフックが外れたら急浮上してしまい身体から窒素が抜けきらず減圧症という病気になってしまうのです。
流れが弱いためか、アジの群れもサメもゆったりと進んでくれ、写真が撮りやすかった。
しかし大物が通り掛かる気配はなく、暇してるとガイドがフグ(?)を持ってきてくれました。素手で触れるだなんて、トゲトゲの意味はあまりない。もうちょっと進化せよ。
仕方なしにフックを外して移動すると、こちらのほうが群れていたりする。
サンゴに住み着く小さな魚。肉眼で見るともっと赤味がありカラフルで美しいのですが、写真だと、うーん。
と、突然ナポレオンの大群が通りがかかる。え?ナポレオンって群れるの?単独行動のイメージが強かったので我が目を疑いました。
その中でもトロそうな奴に照準を定め急接近。
しばらく並走させて頂きました。
船に戻っておやつ。ダイビングは水に浸かっているだけなのに、異常に腹が減る。日常の倍ほどの炭水化物を摂取して後ろめたさ満開なのですが、3時間間隔で腹が鳴るのです。
ラストダイブは本日4本目でもあるため、最大でも18mほどに留めてのんびり行きましょうというブリーフィング。
日本軍だかアメリカ軍だかが戦時中に使用していた鉄球。
日も傾き透明度も良くないため、ナイトダイビングの様相。
目立った魚はおらずガッカリしていたところ、フラフラと亀が通りかかる。こういう瞬間にパラオの底力を感じます。
結局、なんだかんだで30mまで潜ることになり、水もめちゃくちゃ冷たく凍え死ぬかと思いました。
全てのダイビングを終え、船に戻りチームで記念撮影。
明日の体調を心配する必要がないためグビグビいきます。
ちなみに、お酒などはこちらの冷蔵庫から自由に取り、
何をどれだけ飲んだのかという自己申告方式です。
チームの皆で乾杯お疲れ様でした。なんとも合宿の最終日感あふれる一コマ。
命の危険を晒しながら2泊3日寝食を共にすれば親しくならないはずがなく、ダイビング談義や互いの身の上話に華が咲きます。
蓋を開けてみれば、男性陣の職業は全員が弁護士・会計士・税理士・医師のいずれかという、士業だらけのチームサムライでした。
「成田の免税店で買ったものだけど」とシャンパーニュが開かれる。あ、マムだ。この夏にこれ造ってるトコ行きました、と私が述べると、その話に乗って来るワイン好きも2〜3人。偶然に趣味の合う集団である。
白と赤を一本ずつごちそうになり、程よく酔っ払って楽しくなり、そして冒頭の美女ふたりがこの場にいない悲哀を嘆きました。

「パラオ ダイビング クルーズ」シリーズ目次


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