柊家/京都市役所前 vol.3

 食事中に女将さんが挨拶に来、部屋のつくりや見どころなどを丁寧に説明して下さる。なんとこの床の間は、すっげー古い木を人間国宝なお方が特別に作ってくれたものらしい。うおお途端に緊張するじゃないかそんなこと言われると。
天井などにも意匠を凝らしています。芸術品に囲まれて泊まる。
朝起きてすぐに貸切風呂へ。
良い雰囲気です。
朝食はよくある旅館のそれでした。可もなく不可もなく。
湯豆腐を何度もおかわりできたのですが、今回の旅行で自宅を空ける直前に、冷蔵庫の中身を片っ端から食べ尽くす必要があり、豆腐を何丁も何丁も繰り返し食べまくって来たので、ちょっとやそっとの豆腐じゃ動じないのだよ。

というわけで、全般的には満足できた宿でした。しかし、食事のレベルがやや低い。料理一本で勝負している和食店に食べに行った方が充実すると思います。

また、「歴史に泊まり、歴史の一部分となる」という体験をするという意味では妥当な価格だとは思うのですが、宿泊施設として公平に評価すると、ラグジュアリーなホテルのほうが分がありますね。1泊10万円以上なら百名伽藍とかリッツカールトンとかのほうが良いよなあ。じゃあ、当館にフィットネスクラブやバー等を取り付ければ良くなるかというとまたそれは違う話なので、難しいところ。ホテルと旅館を同じ尺度で比べること自体、野暮なことなのかもしれません。サッカーと野球のどっちが面白いか、みたいな。

そういう意味で、「京都の老舗に泊まる」ということを達成したいのであれば、素晴らしい旅館だと思います。外人に京都に泊まるのであればどこが良いかと問われれば、間違いなく当館をおすすめします。ここには日本伝統と世界基準の利便性が詰まっている。
錦市場の「有次」という、世界的に有名な包丁ブランド店を訪れた際、店員が全員、日本語英語できちんと外人に対応していたことに驚きました。同様に、柊屋も外人の扱いが非常にうまい。ドメスティックを究めれば究めるほどグローバルに近づくというパラドックス。

世界最高峰の調理器具を販売する有次は、京都にしかない(築地の有次はのれん分けの別会社)。柊家は、京都にしかない。したがって、外人はこの土地に来るしかない。日本が大恐慌に陥ったとしても、クーデターにより国家が転覆したとしても、有次や柊家の商売は未来永劫続くのでしょう。

グローバル化は目指すものではなく、道を究めれば自然と訪れるものなのかもしれません。色々と考えさせられた旅でした。

「関西ガストロノミーツーリズム」シリーズ目次