銀座「THIERRY MARX(ティエリー マルクス)」で総料理長として活躍した小泉敦子シェフが大伝馬町に「Cheval(シュヴァル)」を開業。店名はフランス語で「馬」を意味し、この地名の由来に対する直接的なオマージュなのかもしれません。ちなみに最寄り駅は小伝馬町駅です。
店内はL字型のカウンター8席を主役とした空間構成であり、落ち着いた内装が洗練された大人の空間を演出しています(写真は「BRUTUS:グルマン温故知新」より)。入口横にテーブル席も置かれていましたが、ワンオペでもあるので、あまり使われていないように見えました。

小泉敦子シェフは都内の名店で経験を積んだ後、ボルドーの星付きレストランを経て「マンダリン オリエンタル パリ」でスーシェフを務め、帰国後は銀座「THIERRY MARX(ティエリー マルクス)」で総料理長として厨房を預かりました。
ワインはフランス産のものが満遍なく取り揃えられている印象で、グラスワインの用意もあります。
まずは「ひとくちパテとチョリソー」。着席直後のとりあえずのひと品として最適であり、シャンパーニュと共に胃袋を開く役割を担います。「ひとくち」という言葉からは想像できないほど肉の旨みと脂の甘みが層を成して押し寄せる。内臓にスイッチが入る「ひとくち」です。
パンが美味しい。大きな気泡と力強い焼き色が特長的で、皮はバリバリにハードな一方、内部はは水分をたっぷりと抱き込んでおり、しっとりと吸い付くようにモチモチします。噛み締めると程よく酸味が感じられ、料理の油脂を上手く中和し口の中をリセットしてくれます。
聖護院カブのポタージュとカニのサラダ。カブ特有の土の香りを纏わせつつ、ミルクのようなクリーミーさと清廉な甘みを楽しみます。トップに置かれたズワイガニには塩気と旨みが凝縮されており、スープの甘みをより一層引き立てます。
金目鯛の鱗焼き。パリパリと音を立てるほど香ばしく焼き上げられた鱗の食感が心地よく、そのクリスピーな表面の下にはふっくらと蒸し焼きにされた身があり、溢れ出す脂の甘みが口いっぱいに広がります。合わせるソースは王道のヴァン・ブランであり、金目鯛の強い脂をしっかりと受け止めエレガントな余韻へと昇華させます。クタクタになったネギ(?)の甘味もお洒落な味わいです。
メインはマグレ鴨。分厚い脂の層と赤身の力強さが特長的で、断面は艶やかなロゼ色に輝き、ナイフを入れるだけで肉質の弾力が指に伝わります。皮目はカリッと香ばしく、赤身からは鉄分を含んだ野性味あふれる肉汁が零れ落ちる。特筆すべきは脂の甘みで、しつこさがなくナッツのようなコクを感じさせます。赤ワインのために存在するような肉料理でした。
深川リゾット。土地へのリスペクトを感じさせる〆のひと品で、深川の名が示す通り貝とそのエキスをリゾットとして上手く活かしています。どこか和食を思わせる安らかな味覚であり、胃が落ち着く美味しさです。ちなみにシェフの出身地もこの近辺であるそうで、その文脈が料理に説得力を与えています。
デザートはクレームブリュレをチョイス。 表面のキャラメルを割った瞬間のほろ苦い香ばしさが堪らない。その下には濃厚なカスタードクリームが隠れていますが単なるバニラ味ではなく、ジャスミン茶葉の煮出しによって華やかな香りと僅かな渋みが加わっています。甘いだけで終わらせない、食事の余韻を美しく締めくくる計算されたひと皿でした。
以上を食べ、そこそこ飲んでお会計はひとりあたり2万円強。料理の美味しさは当然として、小料理屋のようにアラカルトで好きなものを自由自在に注文できるのが良いですね。シェフのバックグランドは厳格な大箱でありながら自身の店舗では日常を志向しているのが興味深い。近所にあれば月に数回は訪れたくなるような、居心地の良いフランス料理店でした。
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