おにまる/麻布十番


シイタケ嫌いのお誕生日カウントダウンパーティ。年に一度の一大イベントなので、イケてる飲食店が集う街、麻布十番の九州料理屋をスーパーバイザーがアレンジしてくれました。隠れ家感満載でお邪魔する前からワクワクです。
シイタケ嫌いが誕生日を既に迎えたわけではないので、特におめでとうというわけでもなく、微妙な雰囲気のまま乾杯。歳を重ねた際の抱負を述べるタイミングは未だ先なので、いつも通りくだらない話に華が咲く。この日の議題はタクシー代でした。
できたてのガメ煮。当店のガメ煮はいきなり煮込むのではなく、素材ごとに一旦茹でてから味をつけ始めるので、食感と味の沁み具合が均一で美味しいのです。

山田「飲み会ではいつも女たちからタクシー代をせびられる」という発言に怒号が渦巻く。
私など、タクシー代という名目で現金を女性に渡したことはこれまでの人生で一度としてありません。そもそも近所でない限り女の子をそんな遅くまで引き留めないし、何より現ナマを渡すだなんて援助交際のようで失礼ではないか。

女も女である。初対面の男と深夜まで遊んでタクシーに乗って帰るような人は私の周りにはひとりもいないので、その心中を伺うことができないのです。
マグロの中落ち。マグロの中落ちをスプーンで丁寧に削ぎ落とし香ばしい載りにマグロを乗せネギを散りばめ小さくワサビを添えてみんなに配る。私はその係をいつの間にか押し付けられていました。マグロ中落ちが乗せられた大皿がテーブルに置かれると誰も手をつけようとせず、その代わりに「タケマシュランがやるんだよね?」という妙な空気感。人を何だと思ってるんだ。
スペシャリテのゴマサバ。甘辛いタレとごまの香ばしさが粘着質にサバに絡みつく。

ある意味、山田は被害者です。丁寧に話を聞くと、彼は現金を配り歩いて悦に浸っているわけでは決してなく、飲み仲間の男性陣が深夜まで遊ぶタイプであり、「女はタクシーで送って当然」という思想のもと行動しているため、結果的に女性陣は全オゴリかつタクシー代も付き、男性陣はそれにかかる費用を全てワリカンにされる仕組みらしいです。
私は自分に関係のないヒトやコトにはビタ1円払わない主義。もちろん私が過度な吝嗇家というわけではなく、例えば出自のはっきりとした芳香かぐわしい森の黒いダイヤについては財布の底をはたかずにはいられないし、本来の意味でその価格が妥当であれば割と気前良くお金を払ったりもします。

したがって夜中のタクシーについては、そもそもそんな時間ににムリに飲もうとせず、今すぐ解散して電車で帰って10時間後に再集合して、浮いたタクシー代でリッツ・カールトンの朝食でも食べたほうが余程有意義ではないか、とすぐに考えてしまうのです。
もちろん私も0時を過ぎたというのに十番まで来てくれ3時まで付き合ってくれた子には当然車で送らせて頂きましたが、用いたツールはUberなので「送っている」感たっぷりで自分的にOK。やはり現金を受け渡しするのは心理的に抵抗があるのです。
白子ポン酢には日本酒と相場は決まっております。ひやおろし。タサキ・ショックを受けて今年のソムリエ2次試験にも出ましたね。日本のお酒を学ばせる方向性には大賛成。外人からしたらワインなんかより日本酒との取り合わせを聞きたいですもんねソムリエには。
「でも、『タクシー代出すからもうちょっと付き合ってよ』って言いながら、タクシー代くれない男たちも結構いますよ!」と声を上げるのはえみちゃんスーパーバイザー。まるで詐欺ではないか。

「あたしたち学生の時だったから、社会人がそんなことするだなんて信じられなかった!」と憤慨するふたり。だがしかしちょっと待って欲しい、君たち学生時代にどんな遊び方をしていたんだ。
「でも、そんな遊び方できるようになったの、ほんとここ最近っすよ。ちょっと前まではボロ雑巾みたいに明け方まで働いて、店なんて開いてないから仕方なしにコンビニのゴミ箱の前でサンドイッチを立ち食いして。それなのに○○のやつ(町内会の飲み仲間)、小奇麗な女連れて朝から腕組んでオレの目の前通りがかっていって、オレのことなんて全く気付かないで」と肩を震わせる山田。大丈夫だ山田、人生は一筆書き。そのエピソードがあるからこそ、今みんなが笑顔で君を囲んでいるんじゃないか。
チキン南蛮。通い始めて数年にしてようやくおにまるずの意志が統一されました。当店で最も美味しい料理はチキン南蛮です。たっぷりとタレを吸収したアツアツの鶏肉に雪崩のようなタルタルソース。野菜もたっぷりで抜群のヘルシー感。
引き続き日本酒を。全体的にまろやか。口当たりも良く開放感のある風味です。
「だからこれ、お誕生日おめでとう」と、ボトルを突き出す山田。わーお、素晴らしいワインじゃないですか。店主に無理を言ってこの場で飲ませて頂きました。

イタリアワインの帝王ガヤの手掛けるボルドーブレンド。中間的なベリーにシダやスギの清涼感が堪らない。料理は何にでもあわせられる万能選手。ああおいし。シイタケ嫌いへのプレゼントなのに、なんだか私が一番楽しんでいるようで恐縮です。
店主への1杯の賄賂に対するアンサーソングはレバーパテでした。なんという利回りの高さ。九州料理屋の変化球。
〆は当然に○○○○。誕生日ということで特別にお作り頂けました。炊きたての白米に放り込み、あまりよく噛まないまま飲み込む歓びといったらない。
12時ちょうどに落とされる照明と流されるドリカム。ミスターボリュームアップが蝋燭に火を灯し、恭しくバースデーケーキを供します。

彼はLINEでメッセージを送っても返信どころか既読にもならないボブ・ディラン的芸風なのに、このようなイベントでは最も張り切ってくれるのです。
サダハルアオキの特大サイズ。うーん、センスいいなあ。サダハルアオキのスイーツは色々と食べたことがあるのですが、最もベーシックなチョコケーキを食べるのはこれが初めてです。

品の良い甘さとコクのクリームに上質なカカオ。最上の甘味です。土台近くのザクザクとした歯ざわりが食感に変化を与えます。これまたシイタケ嫌いよりも私が楽しんでしまったかもしれません、エヘヘ。
帰宅途中の一の橋。この交差点には魔力があって、いつも誰かがカラオケ行きたいと言い出し、私が帰ると言うと拉致監禁の憂き目に遭う。この日なんて、帰ると言って聞かない私の左腕に飛びついて「おれの誕生日祝いに最後まで付き合わないとは何事だ」と腕ひしぎ十字固めを決められました。

交差点の交番が機能しているのか甚だ疑問。日本は平和である。

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東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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