ラール・エ・ラ・マニエール/銀座


「ねえ、お誕生日祝い、どこがいい?」麤皮、とだけ答えると既読スルーされたので、おとなしく候補をいくつか挙げます。その中から「いちばんサービスがしっかりしてそうだから」ということで、l'art et la manièreを予約して下さいました。

入店してガックシ、隣のテーブルで10人規模のワイン会が開催されているではありませんか。ワイワイガヤガヤと楽しげな嬌声は賑やかを通り越して耳を圧するばかりである。音の出るケータイでガシャガシャと写真を撮り、プリントにメモしたり大声で手を叩きあって笑ったりと、誕生日を祝ってもらうには最悪の状況。

「本当にごめん。『誕生日のお祝い』だってきちんとお店に伝えていたんだけどな…」いや、キミは悪く無いしワイン会も悪くない。このような2組を同居させるお店側の姿勢でしょう。

しかし長年の付き合いである私の誕生日祝いだから何とかなるものの、これがプロポーズ前提の勝負ディナーとかだったらどうするつもりなんでしょう。さしあたっては結婚を取りやめるレベル。接待には間違っても使えないお店です。
テーブルコーディネートはさすがの一言。ひとりづつに並べられる一厘のバラ、ならびに花びらたち。照明の加減もローソクの灯もセンスがあります。

私は皿数が多いけれども1万数千円の値段のコース、連れは皿数が少ないけれども食材が見事な2万円弱のコース、さらにふたりとも7,000円のワインペアリングを注文しました。

何で値段を知ってるかって?お祝いされる側の私に思いっきり値段入りのメニューが渡されたからです。くどいようですが連れは事前に私の誕生日祝いだと伝え、当日も確認の電話も入れている。
シャンパーニュで乾杯。こちらのほか、クリュッグもグラスで置いてあるとのこと。さすがは銀座、ラグジュアリー。
薄い米のせんべい?に塩麹などで調味したもの。スナック菓子のように直線的に味が濃く美味しいです。泡も進む。アミューズとしてグッド。

豚の形をあしらったのはトマト味のクッキー。サンドしているのはリエット。こちらも素晴らしい味わいで、この時点でシェフのセンスの良さを感じました。
アミューズをもう1皿。メヒカリのフリットにチーズベースの生地、ブロッコリーのソース。メヒカリのホクホク感が見事であり、複数の温度帯の料理を完璧な状態で出してくれました。昼のジョンティアッシュと同様、アミューズ1皿目で泡を飲み干していたのを見かねてか、ソムリエがシャンパーニュ注ぎ足して下さいました。天の恵みである。
季節の野菜と食用の花、カリフラワーの薄切り。中央には凝縮感のあるムース(ムール貝のエキス?)。ソースはラズベリーとつるむらさきのソース、黄色のソースはなんだっけ?いずれにせよ手の込んだ1皿であり、味わいの補完も巧みです。
パンシャルで先のソースの味わいにぴったりでした。ちなみにパンシャルとは「パンチのあるシャルドネ」の意味であり、最近流行らせようとしている用語です。ちなみにパンパンは「パンチのあるシャンパン」です。SEO対策は今のうちにどうぞ。
パンは温かでしっかりと美味しい。当店の系列店として、新丸ビルのポワン・エ・リーニュ (POINT ET LIGNE)というパン屋があり、パンづくりはお手の物といったところ。
プレーンなバターとセップ茸の風味をきかせたバター。セップ茸の香りが非常に強く魅力的なバターでした。
フォアグラのチーズケーキの上ににフォアグラのテリーヌを薄く薄く削ったもの。まったりとしたコクとエアリーなフォアグラ。2方向からフォアグラを楽しめます。ハーブのソースやイチヂクの調理もグッドです。
これ単体で飲むとそれほど好きじゃないワインなのですが、フォアグラと合わせるともう絶品。完璧な調和でした。連れはそれほどワインには詳しくないのですが「これがマリアージュってやつなのね」と、プチ感動。
私のコースのみに供されたお料理。菊芋のブルーテだったっけなあ。とぷんとした食感にクリスピーな食材が散りばめられており、味はもちろん、歯ごたえも楽しい一皿でした。
先のパンシャルよりもよりパンシャル感の強いブルゴーニュ。当店はワインペアリングが秀逸ですね。よほどの拘りがない限りは、ボトルよりもペアリングを楽しんだほうが良いでしょう。

一方で、皿のインターバルごとに「追加でいかがですか?オススメですよ?」と白トリュフだのオマール・ブルーなどを押し売りされるのは品が無くて好きじゃありません。そんなにオススメなのであれば、最初からコースに組み込んでおけばいいのに。「ケチに思われたらどうしよう」と、気の弱い人ならついうっかり受け入れてしまいそうな手口は気持ちの良い食事とは言えません。
連れの魚料理はオマール・ブルー。量を食べれない分、食材で勝負です。ソースはオマールのエキスを濃縮したものであり、付け合わせにはコウダケ。

「あなた、エビ好きでしょ?」、ひとくち頂きましたが想像通りの絶品。ただしこれは食材が美味しいのであって、シェフの世界観などは特に感じることはできませんでした。
素晴らしいペアリングが続いていたのですが、コチラは少し勇み足。濃厚なオマールに真っ向から衝突してしまい、両者ダブルノックアウトの様相です。あくまでオマールを主役において、ワインは無理に王者に挑戦する必要はなかったかもしれません。
私の魚料理はサワラ。シンプルな調理ながら、カラスミのソースが秀逸。淡白な魚にカラスミの旨味が覆いかぶさり見事な一皿でした。

ほんの数時間前にジョンティアッシュでサワラを食べたばかりなのは大失敗。これはきちんと食材を確認しなかった私の責任です。
こちらのワインは透明感の強いものでした。先のオマールと異なり、カラスミにはもっと挑戦的なワインで良かったかもしれません、悪くはありませんが綺麗すぎるきらいがあります。
聖護院カブにイベリコ豚。おや?とたんにシンプルな皿だなと訝しんでいると、
液体窒素で固めた魚介(?)のエキスをドヤ顔で手渡されました。口に含むとドライアイスの煙が口からモクモク的な遊びです。

ただし我々は8年も前にマンダリンのタパスモラキュラーバーで体験済のプレゼンテーションであるため、全く心が揺さぶられない。リアクションが悪く恐縮です。
ワインの味はサッパリわからなくなり、料理としてもイマイチ。冷たさで舌がピリついて嫌な感じが味蕾に残ります。食事もワインもしばらくは純粋に楽しめなくなる。81のようなエンタテインメント系のレストランであれば受け入れられるでしょうが、当店のように料理とワイン推しの店で試みる必要があるかは疑問。
連れの肉料理は和牛ヒレ肉に黒ニンニクのソース。こちらも一口頂きましたが至高の味わい。先のドライアイスで泣いたカラスがもう笑う。妙な工夫など一切排された直線的な料理。黒ニンニクのソースも、名前ほどどぎつくなく軽やか。人の皿ながら本日一番のお料理です。
しかもあわせるワインはrindo。7,000円のペアリングでこのワインを出せるってすごくない?料理もワインも私が大好きなベクトルであり、私が注文した料理ならびにワインでないにもかかわらず、私が一番昂奮していました。
私の肉料理はシャモ。静かな肉質にコウダケの香り。ネギの食感も申し分ありません。しかしやはり先の牛肉にはかなわない。これが料理5,000円の差である。そういう意味で、当店の価格設定のバランスは絶妙であり極めて納得感があります。
こちらもrindoに比べると迫力は欠けますが良いワイン。シャモに寄り添う風味です。
デザート一皿目はティラミス風味のアイスに柿、マスカルポーネ。完成度が高い。ハイレベル。控えめな甘さにチーズのコク、カカオの苦味も心地よい。甘味もいいですねこのお店。
しかしここで当店は本日最大のミスをしでかしてくれました。何度も何度も私の誕生日祝いだと言っているのに誕生日プレートを私ではなくホストに出すという大失態。事務処理能力が皆無です。
フォンダンショコラはとろけだすチョコの味もビジュアルも完璧なのですが、こんな無茶苦茶なサービスが続けばその美味しさも喜びも中くらいである。
デザートワインまできっちり合わせてくれました。ここまでワインを出して7,000円は極めてお得、というか、お店側が全くワインでは儲からないのではなかろうか。ある意味料理と一体化した値付けであり、料理にもワイン代が含まれているように感じました。
コーヒー旨し。最近お店ではエスプレッソではなくピュアなコーヒーを飲むようにしています。より細かく味が判断できる、気がする。
小菓子も手抜き無く外しません。プレートの色合いも秋全快で素敵なの。
お土産にポワン・エ・リーニュのパンも頂きました、明日の朝が楽しみです。

料理は私が大好きな方向性で、ワインもピタリと合わせてくる、それでいてリーズナブルという嬉しいお店です。やはり問題はサービス、というか、おもてなし力の欠落ですね。サービスの方ひとりひとりの雰囲気は悪くないのですが、店全体として見ると全然ダメです。

後からネット上の口コミを熟読すると、客あしらいが全然なってないだの、銀座ウォーター系の人々が大挙して来て雰囲気をぶち壊されただの、サービスに係る悪評が非常に多い。情報は全て出揃っているのに、きちんと下調べせずにリクエストした私の責任です。「ホント、ごめんね。。。」と、逆に気を使わせて申し訳ない気持ちで一杯だ。

ただ、これはレストランに対する哲学の違いなんでしょうね。当店は料理とワインに物凄く重きをおいていて、ホスピタリティというか、客がどのような状況で楽しみに来ているかという部分には大して興味を持っていないのではなかろうか。

「ウマくてリーズナブルなら何だったっていいじゃん」という人はこのお店は合うでしょうし、「料理・酒・サービスが三位一体となってこそレストラン」という世界観を持つ人にとってはチグハグに感じることでしょう。

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