草庵秋桜(夕食)/由布院


昨今その料理レベルの高さで評判を得る温泉地、由布院。その中でもとりわけ誉れ高い「草庵秋桜」にお料理目当てで滞在することとしました。
部屋食か食事処のどちらかを選択することができるとのことで、せっかくなので後者で頂くことに。食事処だとしても個室です。
掘りごたつ形式で足元にストーブがあります。安全対策はなされていますが、漠然とした恐怖感。
結婚記念日として予約したので、ハーフの泡がついてきました。が、信じられないほど甘ったるいアスティ。。。和食の食前酒としてはちょっと難しいものであり、出鼻を挫かれます。
最初にウド・赤貝・インゲンのぬた和え。赤貝の弾力と濃厚なカツオのジュレがベスト・マッチ。なるほど由布院で名声を得るだけのことはあります。
自然薯とキノコ。味付けはいりこ出汁と変化をつける。わかり易い味付けで私好み。

それにしても個室は気を使わずに食事ができるので楽ですね。一方で、人の目を気にしないため食べ方が汚くなりがち。年を取って孤食が増えるとマナーが悪くなっちゃうんだろうなあ気をつけようっと。
ハマグリのお椀。身が小さく量も少なくやや不満。汁の味わいもパンチに乏しく、ランチのお椀の圧勝です。
旬のお造り盛り合わせ。左の鶏肉のタタキが筋肉質。噛むごとに旨味が溢れ、焦げ目も香ばしく素晴らしい一皿でした。すくい豆腐は肌理が細かく豆の味がきちんと伝わる逸品。

イカはねっとりとした舌触りで官能的。マスは鼻腔の奥で香りがふわりと広がり美味。タイは至って健康的な弾力を見せてくれますが、味そのものは淡白か。関サバはサバとも思えぬほどクリアな味わいでした。
春の里山。見目麗しいプレゼンテーションです。左上のチマキはムチムチとしたもち米とホクホクとした百合根の取り合わせの妙。サツマイモを揚げたものは素材の味わいが豊かな上に少しショウガ風味がして面白い試みですが、いかんせん先のチマキと共にでは腹が膨れます。

サワラの幽庵焼きは肉厚で迫力満点。菜の花はカラシで和えてあり味覚の方向転換があっていいですね。ワカサギの天ぷらはもう少し苦味と野性味が欲しいところ。フキノトウも至って上品でフキノトウらしさに欠けている。卵焼きは出汁と甘味のバランスが完璧で美味しかった。
日本酒に千羽鶴をお願いしたのですが、なぜか届けられたのは智恵美人。「同じ味なので」という説明でしたが、同じ味なはずがなかろう。酒蔵の人が聞いたら怒るぞ全く。冒頭の激甘スパークリングにせよ、この宿はそれほど酒にこだわりがないんでしょうね。
春キャベツ、タケノコ、ヨモギのお麩、やりいか。春の味覚が大集合。それらを出汁が見事に取りまとめ、鮮やかな論理を示してくれます。ヨモギの香りの豊かさと言ったらない。
豊後牛のステーキ。これはイマイチ。調理してから少し時間が経っているため、温度が下がり脂が浮いてきています。
由布野菜のサラダ。契約農家で採れた地場野菜。大地の味が濃く、由布院産のチーズとドレッシングも心和みます。
フォアグラ大根。これは唐突、なぜフォアグラ?ストーリーを打破するほどの深みがあるというほどの爆発力でもなく、意図がよくわからなかったです。
軍鶏鍋。軍鶏の肉にツミレ、キノコと野菜。滋味溢れる軍鶏肉は当然に旨いですが、キモはスープですね。塩気は低いものの味の豊かさに溢れた液体。
〆は雑炊。さすがに満腹だったので、断腸の思いでゴハンは少なめにしてもらいました。これまでの食事の集大成。胃袋が許すのであればもっと食べたかったなあ。
お漬物も手抜きなしに美味しい。特に長芋が良かったです。
デザートは白酒のムース。ひなまつりをイメージしてキウイ・イチゴ・パイナップルのトリコロールソース。これまでの料理が圧倒的だったので、デザートはそれほど記憶に残らない。
柚子練り。昔から由布院で親しまれているお茶うけです。粘着質でまったりとした味わいでベリー・グッド。

いやあ、見事な食事でした。東京の和食とすればミシュランだと二ツ星級の仕上がりです。同じ料理自慢で有名な旅館、京都の柊家と比べても段違いに当館のほうがレベルが上だと思います。

ハコとしては所々ダサく温泉もショボかったりはしますが、料理は格別。食事を楽しむ旅館です。旨かった。


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