RINGRAZIARE KOJI MORITA/代官山


医者からのお誘い。「そんな有名じゃないんですけど行きたいお店があって、ご一緒しませんか?女友達ふたりも一緒に」ふたつ返事でOKすると「飲んで食べて3万円以上する店ですけどいいですか?」僕は構わないけど、女の子たち、大丈夫なの?と訊ねる。「いいんです、唸るほど金を持ってる奴らなんで
代官山の路地にあるマンションの1室。看板も何も無く、ドアノブに手をかけるのに相当の勇気を要します。入室しても真っ暗であり、続く部屋まで手探り状態。
カウンター8席のみの小さなお店。完全予約制で19:30より一斉スタート。81を彷彿とさせる舞台感。
我々は個室に通して頂けました。「はじめまして!」コケティッシュでショートカットが愛らしい美容系の女医。女性と初めて対面する場所が真っ暗な穴蔵のような店というのはなんとも淫靡。彼女は事前に当サイトをたっぷり読みこんで下さっていたので、特に自己紹介などする必要が無く手っ取り早い。
泡で乾杯。客単価3万円を超える店の泡としては貧弱。

「こんばんわ」ヨーロッパの血が入っているのか、日本人離れした美しい顔立ちの外科医。ご実家は開業医であり、蛇口をひねれば現金が出てくるとのこと。「最近、カレシと別れたんです。すっごいケチな男で、レストランで好きなものを注文させてくれないの。『自分で払うから』って言っても、そこはなぜか全額カレが払いたがる」もう意味わかんなくって、と、悔しそうに親指の爪を噛む美人女医。
おかひじきと肉(忘れた)をペースト状に詰め込んだ最中。美味しいのですが、やはりこの価格帯まで突入してくると、スガラボのアレなどと比べてしまいます。
ピクルスは酸味が強烈。今思い出しても唾が溢れ出てくるほどでした。レンコンのシャクシャク感が好み。
前菜はキジハタのカルパッチョ。たたみイワシ的にのばしたペーパー状のキャビアが面白い。構想力のある一皿で美味しい。一方で、もう少しキジハタのポーションが欲しかった。
ワインは全てペアリングで注文。

彼女たちは東京女子医科大学出身。世界的にも珍しい私立女子大としての医科大学であり、6年間ずっと女子のみで過ごします。そのため徐々にキラキラ感が増し始め、業界では「ああ、あの子、女子医ね」と謎の納得感が生ずるまでに。1学年100人のうち3分の1は幸せな結婚、3分の1は不幸せな結婚、3分の1は独身をこじらせるとのこと。
ハモにジュンサイ、キュウリのソース。これはハモ料理としては抜群に美味しい。それほど好みではない食材ですが、当店のそればピカイチ。上手に生臭さを抜き、かつ、しっかりとした味付けが食欲を刺激する。
「今、カレシはふたりいて、ひとりは本命、もうひとりはこれからって感じかな」「今日のランチはフレンチで、夜はココでしょ?明日の夜もフルコース。でも、明日はもうキャンセルしちゃおっかな、オゴリでも行きたくなくなってきちゃった」これが東京女子医科大学である。
ハドソン川のフォアグラ。ヴィンテージ・ケーブ・クラブでも感じましたが、やはりアメリカのフォアグラは好きじゃない。どうにも脂が強く、気持ちよく嚥下できません。
一昨日まで仕事で台湾に行っててさ、と私が話題を提供すると「それってプライベートですか?」と全く人の話を聞いていない。これが東京女子医科大学である。
フォカッチャは小麦の力が感じられ美味。ただ、味はいいがもっと量が欲しかった。

「前カレ、ケチなのも嫌だったんですけれど、セックスの回数が少ないのも無理でした。あたし、会うたびにセックスしないと嫌なんです」呼吸をするように下ネタを始める医者たち。これが東京女子医科大学である。
土瓶蒸し風の一皿。
まずはブイヨンスープのみを楽しむのですが、注いで驚き、ピノ・ノワールのような色合いにギョッとする。もちろんビーツの色なのですが、ちょっと視覚的には好きになれません。
具材としては自家製ラヴィオリに季節野菜。ラヴィオリが秀逸。塩気の強いサルシッチャがパスタの食べ応えにベスト・マッチ。
合わせる酒は日本酒です。うーん、確かに土瓶蒸しとしては日本酒なのかもしれませんが、ビーツの土臭さには全く合いませんでした。

「あたしの病院のスタッフ、可愛い子ばっかりですよ」と社員旅行(?)の写真を見せてくれる。なるほどまさに顔面偏差値65の女の子が勢ぞろい。「だって、美容系でしょ?そこで働くスタッフがブスだなんて話にならないじゃないですか。だからまずは顔採用
冷製パスタはトリガイにアスパラソバージュ、北海道のウニのソースです。これは文句なしに美味しい。小野真弓のように愛嬌がある味わい。本日一番のお皿です。
キミはどうして外科に行ったんだい?との質問に、「オペが好きなんです」と、素人の私にとっては背筋がひやりとする一言。しかしながら私を除く医者たちは「ああ~、なるほどね、オペが好きな医者って性欲が強いよね。体力あるし。あるあるだわ」と納得顔。「この前、友達に『付き合った人よりも体験人数のほうが全然多い』って言ったらドン引きされちゃって」
鳥取のモエビ(?)。足がはやい稀少なエビとのことでしたが味は普通の寿司屋の普通の甘エビと大差なし。それよりもエンドウ豆のリゾットとアメリケーヌソースに首っ丈。やはり甲殻類の真骨頂はそのエキスである。
なぜかみりん。これは全く食事に合いません。はいミリンですよという押し付けがましさが凄い。この液体自身に罪はありませんが、ベッタベタに甘く、完全に食事の邪魔をする暑苦しさです。
箸休めのサラダ。トマトと水茄子にチーズが散りばめられています。もはや料理ではなく材料ですが、その質が極めて高く美味しく頂きました。
メインは乳飲み仔羊。クライマックスはクラシックに仕留めてくれます。とにかく優しく柔らかく、ミルキーな味わい。脂の1滴1滴まで旨い。可食部が少ないのが残念。
お手洗いで用を足していると、我々の個室から止めどなく低俗な会話が漏れ出ているのが耳に入る。下品な会話がトイレにまで聞こえて来たよ、今年会った女の子たちの中で君たちの下ネタが一番壮絶だ、と伝えると「ええ~!これでも初対面だからって、ものすごく遠慮してるんですよ!」これが東京女子医科大学である。
〆の炭水化物はトリュフの自家製タリオリーニ。当店でのスペシャリテであり、麻布十番たきやを彷彿とさせるトリュフ使い。パスタも麺そのものが旨く、火の通りもピッタリです。なのですが、ちょっと品が無いというか、客単価3万円を超える店のスペシャリテとしては芸が無く、あと一工夫欲しいところです。
最後のワインは日本のメルロ。ソムリエールと私の相性の問題なのかもしれませんが、最後の最後までピンとくるマリアージュはありませんでした。色々と試行錯誤され、珍しい組み合わせなどを挑戦してくれてはいるのですが、いずれも私にとっては的外れ。もっと王道のワインで定石通りに合わせるスタイルのほうが私は好きです。
チーズはラスケーラにフェタ、ミモレット。フェタはサラダで食べることが多いのですが、ハチミツを垂らしてそのまま頂くのもオツなものですね。今度家でもやってみよう。
デザートは豪華。新鮮な果物がたっぷりであり、棒つきのアイスがノスタルジアを感じさせてくれます。大のオトナ4人が向かい合ってアイスをパクパク食べる絵が何だか可笑しかったです。
小菓子もたっぷり。ごちそうさまでした。これで一通りはちょっと高いなあ。事前に14皿と伺っていたので身構えていたのですが、いずれもポーションが極めて小さいため、もう一回転は余裕で食べることができます。幹事も「ラーメン食べて帰りますか」と余裕たいっぷり。

ワインも量が少ない。酔いの程度から、ひとりあたり500ml程度しか飲んでおらず、飲めば酔いつぶれるまで飲みたい派にとっては物足りない一夜となることでしょう。
お会計。幹事の請求に基づき眉ひとつ動かさずに3万円を財布から取り出す彼女たち。その仕草はコンビニでパンを買う際に300円を取り出す所作と大差なし。お金持ちの女の子は大好きだ。和製パリス・ヒルトンを始めとして、それだけで人生の悩み事がひとつ減るのか、皆、底抜けに明るい。

たとえ独身をこじらせて歳を重ねたとしても、人生が楽しいことには変わりない。私に娘ができたとしたら、女子医に入れるのも悪く無いな、そんなことを考えた夜でした。


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十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。

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