築地秀徳本店/築地


古くからの付き合いで、現在シンガポールで働いている友人が一時帰国。「シンガポールで凄く有名な人が来日の度に必ず訪れる鮨屋が築地にあって、そこに行きたい!」とのリクエスト。ちなみに彼女は帰国のたびに「良い鮨屋ない?」と聞いてくる程の鮨ラヴァー。当然に、はし田のシンガポール店も経験済みです。
まずは場内をお散歩。平日の正午を過ぎているというのに物凄まじい人出。特に修学旅行生と外国人が目立ちました。素人は入場料を取るなりで、入場者数を制限しないと事故が起こりそうなレベルです。
さすがは世界最大のフィッシュマーケット。場外に出てもディズニーランド状態。ここまで集客できるコンテンツは日本でも指折りでしょう。
表通りの店はどこも大繁盛なのですが、店と店の間の路地、ビニールシートで覆われた怪しげなお店。本当にここであっているのか?というか営業しているのか?と不安になるエクステリアです。
平日昼間のビールほど気持ちの良いものはない。幸せを液状化したらこうなるのではなかろうか。
まずはガリと玉子が置かれます。最初に玉子に臨むのは生まれて初めてです。味わいはまあ普通。

カウンターの中に職人さんが2人いて、外にはサービスの方がひとり。サービスの方が場違いにシックな服装をしており、かつ、礼儀正しくテキパキと動く。悪い意味ではなくエンターテインメントとしての、べらんめえ口調の職人とうまくバランスが取れています。
コースは4種。わかりやすいコース説明マトリクス。世の寿司屋は見習うように。

そもそも鮨、というか和食全体において、値段の違いが不明瞭な店が多すぎる。予約時の電話で「2万円と3万円のコースがございまして、今、決めてください」と横柄な店などザラ。そんな情報だけで決め切れるわけがないので、違いは何かと問うと「食材の質になります」とだけ答えられ、それ以上は多く語らない。その情報で何を判断しろと言うのだ。発想が初売りの福袋である。

フランス料理などはメニューに明確に違いが書かれている店が殆どだというのになあ。
クエ。スダチの香りが小気味良い。ただし味は可もなく不可もなく。これならタイのほうが良かったなあ。

ちなみに当店の握りは全体を通して小ぶり、シャリは赤酢という芸風。。結構珍しいタイプの鮨屋です。
サンマ。秋の味覚たっぷり。芳醇な脂のコクがねっとりと舌先に絡みつき、その余韻をスパイシーな生姜が切ってくれます。

大将はシンガポールからのゲストに興味津々。我々につきっきりで色々とお話してくれます。おいくつなのかはわかりませんが、シンガポールの歴史に造詣が深く、話題が戦時中にまでおよび重みが感じられます。
ホタテ。肉厚でモフモフ。ホタテだけで口の中が全て満たされる幸せ。
ホタテの味付けはイギリスの海水塩。英国王室御用達。優しくマイルドな味わいで鮨を食べるにはちょうど良い。
シャリは全部赤酢なんですねーと声をかけると、使用している赤酢を見せてくれました。いいですねこういう飾り立てない姿勢。すっぴんを公開するハリウッド女優のように好感が持てます。
ボストンのマグロ。鉄が詰まったかのような力強い味わい。

「生意気に飛行機乗って来やがるんだよ。オレは乗ったことないのに」と軽口をたたく大将。和食、特に鮨屋の料理人のホスピタリティは平均的に高いですね。常に客から手元を監視されているので度胸もつく。大箱から独立してカウンターフレンチを出すシェフは、ちょっとの間、和食店で修行するのも良いかもしれません。
バフンウニの握り。崩壊してしまうんじゃないかと心配になるウニ量です。軍艦の方が心の平穏という意味で個人的には好き。味も若干臭みが残り、打率ほど打ってない味わいです。
ヒラメは昆布締めで。婀娜っぽい見た目の通り、味わいもねっとりと官能的。すし通のような行き過ぎた熟成もなく、健康的な味わいでした。
あら汁を目前にし、午前に名古屋から移動して来たばかりの連れが「なるほど、赤味噌じゃないのね」と一言。確かに東京と名古屋は300kmしか離れていないのに、ベースとなる調味料の方向性が全く異なるのは面白い。食文化が多様な国、日本。
赤貝。たっぷりと盛りつけられてはいますが、味わいはそこそこ。臭みは無いものの、旨味に乏しく、印象に残りませんでした。
金華サバ。岩手県の金華山周辺海域で獲れるブランドサバです。寒流・暖流が交差し、更に栄養豊富な北上川が注ぎ、リアス式海岸による海流の複雑さが、棲息する魚に身の締まりと適度な脂分を与えるそうな。

口上の通り逞しい身であり、魚を食べている感が溢れ出てきます。柚子胡椒での味付けも面白く、「あたしサバってほんと好き。その中でもこれは絶品」と連れも満足の様子。
大トロのあぶり。じゅわりと溶ける身。問答無用の美味しさです。カボスの酸がまわりくどい脂を撥ね退けるのが良いですね。
アナゴ。ふわふわに炊いた表面をバーナーでバリっと炙ります。塩のみというシンプルな味付けながら、アナゴそのものの美味しさがはっきりと伝わってくる。本日の最高傑作。天国が見えました。
〆の巻物は中トロの手巻き。ごはんは申し訳程度で、とにかくマグロをたっぷりと。これは手巻き寿司というよりも別の料理と捉えたほうが良いかもしれません。有明の海苔の香ばしさも素晴らしく、わかりやすく美味しい逸品です。

4,000円でこれだけの鮨を出してくれるのは嬉しい。もっと人気が出ても良さそうなのになあ。彼女も「このレベルをシンガポールで食べれば2、3万円はとられる」とご満悦。また日本に来た時は必ずお邪魔します、と挨拶すると「オレがまだ生きてたらな!へっへっへ」と大将のジョークが笑えない。
おまけ。テリー伊藤の兄、アニー伊藤の玉子焼き屋「丸武」に立ち寄る。
食べ歩き用は100円です。甘さのはっきりとした玉子。食後のデザートにちょうど良いですね。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。


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