アルゴリズム(l'algorithme)/白金

銀座レカンカンテサンスで腕を振るい、2017年にルビコン川を渡った深谷博輝シェフ。どの駅からも死ぬほど遠い陸の孤島にカウンター8席のみのフレンチレストランをオープン。
席につくと提示されるのはiPad。店のコンセプトなどを動画で説明し最後に料理名が表示されるのですが、このような演出や「フレンチ方程式」を標榜するあたり、若干こじらせてるのかと不安になる。
ワインペアリングは3杯4,500円~。最後にキッチリ明細を出してくれるのですが、このクラスのワインを1杯1,500円で提供してくれる計算です。飲まなきゃソンソン。
アミューズはクルマエビに「もものすけ」というサラダカブ。海老の濃密な甘味とカブのシャクっとした歯ざわりがベストマッチ。トッピングされた海老の殻(頭?足?)も特長的な風味を主張。サローネのあの一口を惹起させる美味しさです。
サワラに石川早生(サトイモ)、タマネギのコンフィにミル貝の肝のソース。サワラへのバランスの良い火入れに大地を感じさせるサトイモの味わい。それを取り巻く肝のソースが抜群に美味しく、肝のソースはアワビだけの専売特許ではないことを再認識。
このリースリングが抜群に良かったです。南方系の果物を感じさせる豊かな香り。酸は控えめで甘味が鋭くボリュームを感じさせる味わい。私はリースリングに目がない、という人種ではありませんが、この1杯は確実に心に響きました。
香茸のフラン。見た目はちょっとグロ系ですが味は確か。芳醇な山の香りに旨味が炸裂。その味わいは甘くもありまた鋭くもある。昨今のトリュフ松茸ブームに一石を投じる一皿です。
外皮はパリっ、内部はしっとり小麦の深い味わい。シンプルながら本物のバゲットでした。
ハモは一般的に骨切りしてボヨンボヨンした状態で食べることが多いですが、当店のそれは、いわゆる魚の切り身を揚げた状態で供されます。シェフは魚を扱う手管に長けている。肉厚のピーマンにソースはスパイシーなピペラード(バスク地方にみられる伝統的な家庭料理)を起用するのもすごく良い。
スジアラ。ハタやクエに似た魚であり、少し熟成させているのか程よく筋肉が収縮しています。はっきりとした食感がスーパーボールのように弾む。滑らか、かつ、ネットリとした甘味が実にセクシー。じわりじわり溢れる旨味も見事。ローズマリーのソースも秀逸。ここ最近口にした魚料理の中で一番の味わいです。
メインは鳩。まさに不変のアルゴリズム。丁寧に火を入れる。それだけ。美食はシンプルから生まれるとばかりに鳩の素晴らしさを単刀直入に表現した一皿でした。大ぶりの落花生も味のある存在であり、てんぷら前平でのそれと同様に、落花生に食材としての可能性を見出した瞬間です。
ワインは濃密なソースにビタっと合わせてエルミタージュ。濃厚かつスパイシーな1杯が先の野性味あふれる鳩ならびにそのソースにベストマッチ。
デザートに入る前にお口直し。野菜のコンソメなのですが、イチヂクの葉からもたっぷり出汁を取っており、ミントのような爽やかさ。後続車への期待感を煽る良い演出でした。
デザートはパリブレスト。フランスを代表する菓子のひとつであり、平たく言うとるリング状のシュークリームです。これが、旨い。サクサクとした触感にイチジクの後を引く甘味、プラリネ(焙煎したナッツ類)の芳醇な味わい。特にややこしいデザートというわけではありませんが、直球勝負に美味しかった。
小菓子も凝っており、ここでもイチヂクや柿など旬の素材が大活躍。お金があるからといって季節はずれのものを食べる意味はないのだ。
品行方正なエスプレッソで〆てごちそうさまでした。

以上を一通り食べて3杯飲んで12,500円。妙に安いと明細を読み込むと、なんと税金やサービス料、ひいてはミネラルウォーター代まで込みの料金でした。食べ物だけならコミコミ8,000円と奇跡の価格設定。前述の通りワインも割安。ここ数か月における食後感と支払金額のギャップにつき、最も隔たりがあったお店です。もちろん良い意味で。

ブラッスリーハルナよ、これが8,000円のフランス料理だ(粘着質?私はうっかりミスには寛容ですが、規則違反に対しては厳罰に臨むのです)。
冒頭に記した通り、「フレンチ方程式」とのお題目に若干の不安を頂きましたが、蓋を開けてみると、どクラシックな本物志向でした。シェフは意外にハッシュタグを井桁と呼ぶタイプなのかもしれません。ペアリングの方向性もすごく好き。日本酒など妙な取り合わせは一切出さず、フランス料理にはフランスワインだと実に説得力のある方程式。

デートにもってこいの雰囲気だし、何ならカウンター8席だけなので貸し切ってしまって友達同士でワイワイやるのもいいかもしれません。予約も今のところ取りやすい(「最近良いお店あった~?」と友人に尋ねられ当店を推挙すると、その週の土曜日に予約が取れたとのこと)。オススメです。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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