アジュール フォーティーファイブ(リッツカールトン東京)/六本木

Azure45。シェフはパティシエ出身。ル・ブルギ二オンなどの名店を経て当レストランの料理長に就任。ミシュラン1ツ星です。お店の場所はわかりづらく、モダンビストロ タワーズの奥にあります。
お誕生日祝いだからと頼み込んでおくと、最も素晴らしい席をご用意して頂けました。目の前に広がる光の砂漠。これはドレスコードを守る価値がある。我が家も見える。頑張れば糸電話できる。
乾杯はリッツ東京のプライベート・キュヴェ。香りが強くバランスの強い味わい。色々調べたところ、キャティアが造っているらしいです。セブのビーチで飲むのとはまた違った印象。

お誕生日おめでとう、と目線で乾杯。「そうだ、あたし、いい感じの人ができたんだ」とのっけからの爆弾発言。第四出動!第四出動!足下から鳥が立つ。気を失いそうになりました。
アミューズが恐ろしく凝っている。まずはコロン的な一口。カレー味のタピオカがアクセントとなり面白かった。

私は心の整理がつかず暗い嫉妬を感じざるを得ない。「なに奈落の底を覗きこんでいるみたいな表情してんのよ、キミだって色んな女の子とデートしてるじゃない」私の活動は旨いラーメン屋がチェーン展開するようなものである。
黒いのはアナゴにフォアグラ。ポッテリとしたアナゴの脂にフォアグラの滑らかさが加わりいくつでも食べたくなります。座布団のようなものはチーズ特集。中にはミモレット、外にはパルミジャーノ・レッジャーノ。望外にクリスピーな食感でシャンパーニュにぴったりでした。
コースに入ります。まずはアジ。柑橘系の味覚(だっけ?)をコクのある味でくるりんちょ。間違いなく美味しいですがもう少し量が欲しいところ。アジのスープは濃密な風味を湛えており、レンゲでジャブジャブと飲みたかった。
パンは3種のご用意だったのですが、全粒粉×ハチミツのパンと天然酵母のパンを頂きました。いずれもパーフェクトな美味しさであり、さすがは東京随一のラグジュアリーホテルと唸ってしまいます。

彼女の話を引き続き聞く。幸福のただ中で恋を堪能している少女というよりは、平穏と自信に満ち溢れ揺らぐことがないという印象。相手はおそらく大鑽井盆地のようにおおらかな漢なのだろうと人となりを訊ねると、「あたしの15歳年上」
とんがりコーン型に成形されたバター。発酵バターでしょうか、独特の柔らかな質感と風味があり、深みがあって美味しかった。

うーん、15歳年上か。完全にオッサンじゃないか、と舌打ちしながら胸の奥にある熱いものを苦いワインで飲み下す。そこに不貞は無いのだけれど、どうも素直に祝福できない。仮に私に15歳年下のJDの彼女ができたとすれば、光の速さで通報でしょう。
北海道のボタン海老を用いた一皿。第一印象はプリプリ、その後はネットリと、2段階の食感を楽しむことができます。ガスパチョは清澄な味わい。ミニトマトを湯剥きし中をくり抜きさらに詰め物をするという気の遠くなる作業が垣間見え、料理に対する本気度が伝わってきます。
ここからはペアリング。流線型のボトルが印象的なロゼ。これがプロヴァンスのロゼだと言わんばかりの解かり易い1杯でした。
丸なすが主題の一皿。じっくりと火入れされた茄子がジューシー。ミル貝やサザエが食感に変化をもたらすのですが、やや臭みが残るのが気になりました。レモンバームのアワアワが爽快。
魚料理はサーモンの燻製。ゴマの風味が強烈でどことなく和食を感じさせます。ワサビのソースがピッタリ。奥のガロニ(付け合わせ)はキュウリをパスタ状に仕立てたものであり恐ろしく手が込んでいます。
ワインは甲州。それほど好きな品種ではないのですが、先のワサビ風味にぴったり。

「あたし最近モテ期かも。1週間で4人に告られちゃった」私と彼女との付き合いは長く、これまで何人もの男性が玉砕していく様を見てきましたが、ここまで無双な生活は中々ありません。
メインはバザデーズ牛。ボルドー近郊の歴史ある産地の牛であり、真っ赤な肉質はカエサルのガリア遠征のように勇敢な味わい。霜降り和牛とはベクトルが真逆であり、もはや別の素材と言った方が良いかもしれません。赤ワインソースが秀逸。このようなどクラシックなソースがきちんと美味しいと嬉しくなります。
付け合わせのカボチャのピュレもグッド。ピュレやソースはテーブルにドンと置いていってくれ、自由に追加できるのが嬉しい。

で、結局、僕はどんなポジションにおさまるわけ?と思い切って聞いてみる。「なに言ってんの?キミは特別枠でしょう?あたしが誰と付き合っていようが独り身だろうが、キミには何も関係が無いことよ」キミとはステディな関係だから、と上手くはぐらかされたような気がします。ステディな関係。それは我々の青春の一形態。
合わせるワインはカリフォルニアのグルナッシュ。うーん、このペアリングは謎。決して合わないわけではないのですが、ここはひとつオーセンティックなボルドーで良かったのにな。

「いつまで続くか全く読めないんだけどね。次にキミに会った時には無かったことにしてるかもよ」月と恋は満ちれば欠ける。位人臣を極めた私としてはこのまま静観しておくことこそがベスト・ソリューションなのかもしれません。
こんなに手の込んだグラニテがあるか?さいの目のシャーベット状のメロンにミントのムースがふわり。舌を整理するだけでなく、これ単体で極めてレベルの高い一皿。
デザートは抹茶のクレームブリュレに酒粕のアイス。最近、酒粕のアイス、流行ってますねえ。抹茶はジットリと柔らかく深みのある味わい。酒粕はそれほどクセはなく、ふんわりと甘い香りが特長的。ソースを含めて完成された甘味であり、外人ウケしそうなデザートでした。
追加でお願いしていたお誕生日祝い。当店のシグネチャーケーキであり、直径10cm程度の大きさが食べ易くてちょうど良い。

「ありがと。キミって本当に素敵。何と言うか、すごくちゃんとしてるよね。毎年お祝いしてもらえて、すごく幸せ」その通り。つまるところ、最後に生き残るのは私なのです。
見た目だけでなく味わいも素晴らしい。品の良い甘さと果実を感じるカカオの複雑性。ここまで旨いバースデーケーキは中々ないぞ。満腹でしたがスルスルと完食してしまいました。
小菓子もたっぷり。手前のヴェルヴェーヌ(ハーブ)のムース(?)と、コショウ風味のチョコレートが印象的。最後の最後までここまでレベルの高いスイーツを提供できるとは余裕の現れでしょう。
エスプレッソのダブルまで抜かりなし。食後の店内は我々の貸切状態でのんびり。それでも追い出そうとすることはなく、むしろ「おかわりお持ちしましょうか?」と気持ちが通じるサービス。ごちそうさまでした。
さすがリッツカールトンのメインダイニング、パーフェクトでした。ショッキングなほど記憶に残った料理があるというわけではありませんが、総合力がとにかく高いです。大阪のクラシックなメインダイニングとは距離を置き、極めてモダンな印象。ベクトルとしてはロブション。サービスを含めて全てが完璧。大切なディナーにもってこい。プロポーズは当店の窓際席でどうぞ。
「素敵な夜をありがと」人がまばらとなったロビーを通り抜け、静かにエレベーターに乗り込むふたり。

「キミって本当に素敵。既婚者の余裕だよね」既婚者ね。僕が独身だったら、僕たちは付き合っているのかな。彼女は何を返すでもなく、無言でエレベーターの鏡越しに見つめ合う。45階は高く、地面に着くまでもう少し時間がかかる。


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