100グラム1,000円の忘年会


「ナニワヤのお肉ですき焼きしよう!おつまみはローストビーフね!買ってきて」と、誘われているのかパシリなのか釈然としない。
参加者は4人なのに1.4kgも仕入れてしまいました。お肉は100g1,000円の極上品から698円のサービス品まで様々。食べ比べにチャレンジです。
うわーお、なんて素晴らしい泡を用意してくれたのでしょう。ピノ主体でとにかく香りが華やかで濃密。炭酸が強いのにクリーミー。重いはずなのに重くは感じることなく、むしろフレッシュさを感じることができました。

「カンテサンスどうでした?」と訊ねられる。彼女は飲み始めこそ敬語でよそよそしいのですが、酒が入ると「早く飲めよ」と冷たく接してくるツンデレソムリエール。うーん、ランチで2万円チョイは安すぎだからノーコメント、もっぺん夜に行ってから判断する、と回答。

「ランチ2万円で安いって、あんたたち色々ズレてますよ」と、医者。しかしすき焼き用の野菜を買うために、近所にスーパーがあるというのに空冷ポルシェで首都高に乗って銀座三越まで買出しに行くキミだって色々ズレていると思います。
夕方にお店に行ったので、1個9,000円(100g2,000円)のローストビーフと、1個3,000円(100g900円で)のローストビーフしか残ってなかったのですが、さすがにビビって後者を選びました。それでもさすがの極上品。何もつけていないのに完璧に美味しい。世のローストビーフ屋は当店に修行に来るように。
「つなぎでウチのハウスワイン飲みましょう」レストランでもないのにハウスワイン。やはり色々とズレている。数千円のワインながら味は極上。費用対効果の高いワインです。

「あたしもカンテサンス行ってみたいなあ。レストランで働いてると、シフト出てから予約するしかないから、数ヶ月先まで予約でいっぱい、みたいなレストランには全然行けないの」なるほど確かにそれは気の毒だ。私のように、『空いている日時ならいつでもいいです』戦略が使えない。
モンドールと22ヶ月熟成のミモレット。モンドールは超高級チーズ。家庭で食べることができるだなんて超ハッピー。ミモレットは素晴らしい熟成で、ウニや味噌のような旨味が口腔内に広がります。

「あーあ、プライベートでワイン買わなかったら、もっとお金貯まってたんだろな」とうつむく彼女。それは半分仕事なんだから仕方ないことじゃないか、と慰めると「そんなことない。本気でワインが好きなソムリエなんて全体の3割もいない。ほとんどみんな仕事としてやってるだけだから」
すき焼き開始。結論から述べると、やはり100g1,000円の最高値肉が一番美味しかった。しかし人によっては赤身のみの肉(それでも100g800円!)が一番であったりと好みは千差万別。

「どの店でも『ペアリング』をする風潮も好きじゃないの。別に合ってなくはないけど、マッチしているかというと微妙な店が多すぎる」

うーん、ワインと料理のマリアージュを本気で楽しみに来ている客なんてごく一部で、お金を支払う側とすれば値段の上限が読めるペアリングが使い勝手が良いからなあ。大きく外さないならまあいいか、って感じ。お店側も歩留まりが良くなるし。客と店の経済的な妥協点だと思うんだけど。

「それならグラスワインを色々揃えればいいじゃん。ソムリエは『この中ではこれが合うと思います』って言えばいい。大して合ってもないのに『ペアリング』だなんておこがましい」
うわこれ超タイプあげぽよー。黒みがかった赤で迫力満点。枯れた薔薇のような深みのある香り。「でしょ?あなたの好み、何でもわかってるんだから」飲み仲間に腕利きのソムリエールがいると、豊かな食生活が約束されます。
「遅くなってごっめーん!おつぴっぴ~」と、これまた素晴らしい泡を携えてソムリエールが登場。「キャハハー!久しぶり!イケマシュラン!」と、頭をぐしゃぐしゃに撫で回される。何このハイテンション。

「○○ちゃん、キノコ食べる?」と甲斐甲斐しくドクターがすき焼きを取り分けると「何言ってるの~、やだー!いきなり下ネタじゃーん!」何言ってるの、はお前だ。先ほどまでの大真面目なワイン談義は何だったのか。「オレのはエノキだけど釘になるよ」お前もやめろ。
すき焼きを一通り食べ終わった後、「お誕生日おめでとう!」そう、今夜はドクターと私の誕生日のちょうど中間地点だったのです。私は誕生月が過ぎ完全にクリスマスモードに突入していたので、完全に不意打ちでした。

「こういうの、好きでしょ?」好き好き大好き超愛してる。ラデュレのケーキを食べるのは初めて。なめらかで濃密なガナッシュとザクザクとした歯ざわりのビスキュイの対比が最高。ビターなチョコレートをマカロンにたっぷり塗りたくって好きなだけ食べるのだ。
ホームパーティでデザートワインまで用意されるのは珍しい。なんとも豊かな自炊である。

「そうそう、ウチのオヤジ、脳にケガして味覚も嗅覚も無くしちゃったんですよね。どの鮨食べてもおにぎりにしか感じないって」もし自分がそうなってしまったら、と考えると肌が粟立つ。

日々当たり前に楽しんでいる「美味しい」という感覚。いつまでも大切に、そして内臓が頑丈な若いうちに最大限活用していきたいと思います。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。


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